良いイチ若の日見上げると綺麗な紅色の葉が左右に広がり、そよ風で時折ひらりと手のひらに落ちてきた。
それを見て、綺麗だなと彼が笑いかけてくると、嬉しくて「はいっ!!」と元気よく返事をする。
今日は天気も良くて絶好のお出かけ日和。少し足を伸ばして山の麓にある道の駅へ立ち寄った。
車をレンタルしてドライブすることになったのだが、彼に運転をまかせっきりで申し訳なさを感じていた。
最初は自分が運転しますと張り切っていたのだが、彼の方から事故を起こしそうだからと止められてしまい、結局は彼の運転で紅葉を見に行くことになってしまったのだ。
「イチ、あっちに足湯があるみたいなんだ、行ってみないか??」
「おお!いいっすね!行きましょう!!」
彼と手を繋いで展望台に続く道を歩いていくと、街全体が見渡せる場所に出た。
街の方も木々たちが紅い色に染まり、所々で黄色や橙色も入っていて更に綺麗な色を放っていた。
展望台の柵の傍には、彼が言っていた足湯があり、それを楽しみながら紅葉を楽しむことが出来るなんて最高だと思う。
「すげえ眺め良いっすね!!」
「ああ、そうだな。タオルあったっけな…。」
「車にも予備タオル置いてあるんで、大丈夫っすよ!」
「準備いいな?」
「真斗さんと出かける時は色々と準備してますからね!!」
「へぇ、流石はイチだな。」
そう言って笑いながら自分の頭を撫でてきた彼に対して嬉しそうな顔をしている自分が居た。
すると彼から犬みたいだと笑われてしまったが、そんな彼の笑った顔が大好きだと改めて思う。
「あ、そうだ、イチ。悪いけど、さっき買ったお土産の袋取ってくれるか?」
「あ、はいっ、どうぞ。」
「ありがとう。ほら、景色見ながら食べよう?」
「おぉ!いいっすね!!いただきますっ!!」
「あまり慌てるなよ。お茶も置いておくからな。」
彼が丁寧に水筒のお茶を注いで座ってる横に置いてくれた。
ここに来る途中で見つけた菓子屋で売られていた饅頭を食べながら見る景色はより綺麗に見える。
「あそこらへん、俺達の家があるところかな?」
「あ!!あの公園のとこ!!多分そうっすよ!!!ほら、近所のケーキ屋さんも見える!」
「あははっ、イチは目が良いなぁ。」
「真斗さんが迷子になってもすぐに見つけられますよ?」
「うん、そうだな。ふふっ、昔から、いつも逸れると、イチがすぐ駆けつけてくれたな。あれ、凄い嬉しかった。」
「っ……!!あ、ああ、当たり前ですよ!!俺は……、若の傍に、ずっと居たいから……。」
彼の方から肩に頭を預けて片手を優しく握ってくれた。
突然のことでびっくりして動揺してしまったが、それを隠すようにしてまっすぐ景色を見つめる。
「また若って言ってる、バカイチ。」
「あ!!す、すんません!!」
心臓が保たないと思いながらもしばらく足湯と紅葉を楽しんだ。
日が落ち始め風が冷たくなってきたタイミングで展望台から降りてまた道の駅まで戻る。
途中の遊歩道では紅葉がライトアップされていて、昼間とはまた違った輝きを放っていた。
「わぁ…、凄い、綺麗だなぁ。」
「夜の紅葉も綺麗っすね……!」
「…俺、この季節好きだな。イチと同じ色をしているし…。」
「へっ…!?!?」
「…何でもないっ、ほら、冷えるから早く戻ろう?」
「……っ!ま、真斗さん!!!」
「ん??どうした??」
「お、俺は…、その、どんな真斗さんでも、大好きです!!!」
「……、っく、くくっ、あははっ!」
「え、ええっ!?わ、笑うなんて、酷いっすよ…。」
「いや、悪い悪い、勘違いさせてたら、ごめんな。この季節は特に好きだって言いたかった。それに、どの季節もイチと一緒なら退屈しないし、どんなイチでも大好きだからな?」
秋が好きだから、秋の色が好きだから、自分のことが好きだと聞こえていた自分に恥ずかしくなってしまった。
けれど、彼の好きだという言葉を聞いて、とても嬉しくてしょうがなかった。
今すぐにでも彼に口づけをしたい、触れたい、という思いが溢れてしまい、それを抑えるべく両手で顔を覆ってしゃがみ込む。
「ッ〜〜〜……!!」
「イチ?大丈夫か?」
「っ、うぅ、真斗さん、ほんと…あんたって人は…!!」
ちらりと彼の方を見ると、何が何だか分からないと首を傾げている。
そんな仕草もとても可愛らしくて、もう溢れる思いが止まらなくなってしまった。
勢い良く立ち上がって彼のことを抱き寄せていた。
「…好きです、大好きです。真斗さん。」
「……、うん、俺も、お前が好きだよ。イチ。」
涙脆いなあとつくづく思えてしまう。
彼の体温を感じ、彼の言葉を聞いて、もう胸がいっぱいになった。
でも、ここで泣いたら流石にかっこがつかないと思って堪える。
「イチ、ふふっ、心臓煩くなってる。」
「わっ、や、き、聞かないでください!!恥ずかしいんで!!」
「…、イチ。」
「っ………!!!」
名前を呼ばれ彼の方を見ると、唐突に彼から口付けを受け、一瞬で頭が真っ白になった。
絶対に外ではそんなことをしないのに、その行為に嬉しいのか何やら分からない感情が湧き上がる。
「イチ、イチっ、おーい……。」
「………はっ!!!」
「大丈夫か…??」
「う…、だ、大丈夫っすよ!!」
「突然動かなくなるから、びっくりしただろ…。」
「そ、それは……。」
真斗さんのせい、なんて言えるわけがなく、口篭ってしまう。
少しだけ大胆な彼の行動に対し、理性で抑えているものが爆発しそうになっていた。
そして、もう一度彼のことを強く抱きしめて、耳元で彼の名を呼んだ。
「真斗さん、…帰ったら、覚悟しといてくださいよ。あんたは無自覚過ぎる。」
「…むぅ…、分かったよ、イチの好きにしてもいい…、でも、ごめん、家までは俺のほうが保たないかも…。」
「っ……!!そ、そうゆうところですよっ!!」
「だって、本当のことだし…。」
そう言う彼の耳元が赤くなっているのを見逃さなかった。
ああ、なんて可愛らしいことをする人なんだ、と思い、改めて何度も口にしていることを言う。
何度も言うとその中身は薄く感じると言うらしいが、そんなことは自分達にとっては関係無かった。
「真斗さん、大好き…。」
「……ふふっ、うん、俺も大好きっ…!」
そう言って互いに顔を見合わせると、同じように頬を紅く染めていた事に気付き、同じタイミングで笑ってしまった。
その頬を染め上げた紅色は、先程見た紅葉のような色だった。
end