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    nukonukosandayo

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    nukonukosandayo

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    昔書いたやつ。ベッター見にくいから移動しますた。⚡の葛藤の話

    存在証明とアノマリー「ティーチくんはばななが好きなんだね!ボクいち…かきがすきなんだ!!」
    「かき…おいしいよね」
    「ティーチくんも好き?一緒だね!!おそろい嬉しいな…」


    白の空間に響く楽しげな声。コバヤシはしばらく影でそれを聞いたあと、くるりと背を向け歩き出した。
    白の世界から少し離れればそこは1寸先も見えぬほどの暗闇。白の光でかろうじて自身の腕が見えるくらい。ティーチやサムはこの闇を嫌ったが、コバヤシは好んでいた。…この暗闇では白の世界では異質な己の汚れた黒を忘れ、溶け込むことが出来るような気がしたのだ。

    「…仲がよろしくて喜ばしいこった」
    暗黒の中、先程のティーチとサムの様子を思い浮かべ、独りごちる。サムはティーチの人格のひとりであり、ティーチに自分を認識してもらうことを夢見て努力を続けていた。字を覚え、ティーチと文通によって繋がり、それでは飽き足らずとうとう「体の分離」という型破りな方法を見つけ出した。この方法でティーチの人格のひとりであったサムは晴れて独立した存在となったのだ。…それは、もうひとつの人格であったコバヤシも例外ではなく。
    先日 ティーチと初対面したサムの喜びと緊張は最高潮に達し、半ば過呼吸気味になり、声も出なくなってしまった。ティーチはティーチで、何も喋らないサムに少し怯えてしまっていたが、コバヤシが仕方なしに仲を取り持ってやると、すぐ仲良くなった。元々サムはティーチが無意識下に生み出した存在。ティーチにとって必要な存在なのだから、気は合うはずだ。…まぁ、サムが愛ゆえの奇行に及んだとしてもティーチは許してあげるだろう。自分が自傷を命じしても笑って許してくれるほど友達思いで優しいやつだから。

    そんなこんなで念願のティーチとの対話を果たしたサムにはもう文通は必要なく、中継ぎをしていたコバヤシはお役御免となったのだ。
    ようやくあの面倒な───主に癇癪を起こしたサムを落ち着けたり怯えるティーチを宥めたりする───役目を終えれると、息をつく。
    これからどうするか。もう、彼らの仲を繋ぐ必要は無いのだから、自由にやれるのだ。



    … 何を?自分は何をすればいいのだ?あのふたりにはもう自分は必要ない。ひとりで、何をする?

    どくりと心臓がはねる。あのふたりはコバヤシの指示がなくとも視聴者サマを楽しませるだろうし、ふたりの仲を取り持つ役目を必要ない。サムに文字を教えてやることも、不安になったティーチを支えてやることも、全部ふたりが互いに支えあうことが出来る。



    いま、この世界に、己は必要あるのか?



    足が、震えた。全身がすっと冷えていく感覚がする。


    そもそも何故己は今まで体を分離させることを思いつかなかったのだろうか。ここは電子世界。実態を持たぬ電子生命体である自分たちは、いくらでも分離できるはずだ。自殺しても新たな身体を再生出来るのだ、分離なんてここが電子世界であることを知っている自分ならば、もっと早い段階で実現できたはずだ。
    ひとつの身体しかないことを窮屈に思うことは何度もあった。サムのつけた傷が傷んだとき。ティーチのが不安定になり泣き喚いたとき。…自分の、二日酔いにティーチが苦しんだとき。サムがティーチへの愛で、泣いたとき。


    鼓動が速くなり、どくどくと、全身で大きく木霊する。


    何故?何故こんなにも機はあったのにも関わらず実行しようとしなかった? 何故思いつきもしなかった?

    分離すれば、己の存在が必要なくなると知っていたから?


    ひゅっと喉が音を立てた。鼓動が痛いほど弾む。


    無意識下に分かっていたのだ。己の吹けば吹き飛ぶほど軽い存在価値を。ふたりが居なければ何も出来ない役立たずの自分を。

    「……違う」

    何が違うのか。証明できない否定を繰り返す。存在価値は現状を見れば一目瞭然なのにもかかわらず。

    「ちがう、ちがう……!」

    コバヤシにはこの空間に至るまでの記憶が無い。自身の記憶の中で、コバヤシを認識しているのはティーチとサムのふたりだけ。つまりは、彼らの世界の中にだけ、「コバヤシ」が存在しているのだ。
    そして、 そのふたりは、もうコバヤシを必要としていない。

    「ちがう……ちがうちがうちがう……っ」

    拒絶の言葉を吐きながら、ぜえぜえと荒い呼吸繰り返す。がくがく震える手で頭を押えた。ぐるぐると回る思考に目眩がする。鼓動の音がうるさいほどに響いた。

    ぎゅうっと目を瞑り、意味の無い問答を繰り返す。
    分かっている。分かっているのだ。己の価値など、全部。拒絶しても変わらない事実に。
    けれども、認めてしまえば、自分が壊れてしまうことも、分かっているから。

    自分は、どうすれば。




    「なーにしけた顔してんだぁ?こばたんよぉ」

    ざらざらした不協和音がねっとりとしたリズムを刻んだ。脊髄反射で背筋がぞくりと冷え、身構えるより先に首に強い負荷と浮遊感。

    「き、きさま……ッぐ…!?」

    突然首に巻きついてきただだの耳に驚き、何とか外そうと試みるも宙に浮いた状態では力が入らず、全くかなわない。

    「ッぁ……は、な……せ…ッ!」
    「じたばたしても苦しくなるだけだぜ〜?」
    「ぁぐ……ッ!?」

    ぎりぎりと締め付けてくる力が強まる。酸素を求め口をはくはくと開閉するも、意味はなく、目の前がちかちかと点滅しだした。

    「ウサチャンとクソ猫がナカヨシになってお前は要らなくなったんだろ〜?」
    「っ!?」
    「なんで知ってるかって?それはな〜俺っちとお前は一心同体だからだよぉ〜」

    だだの耳障りな笑い声が、酸欠で痛む頭に響く。喉を圧迫されたことでうまれた吐き気で視界が滲んだ。抵抗する力が弱まっていくのを感じる。

    首吊りとはこんなにも苦しいものだったのか。それなのに、ティーチは、何度も、何度も、何度も。自分は、それを慮ったことがあっただろうか。ティーチが自殺すれば、喜んでいた自分が?


    「元々こんな傲慢で我儘なお前がひとに好かれるとでも思ってたのかぁ?そんなことあるわけねぇだろ?用がなくなったら捨てられるだけなんだよお前は」
    「……ぁ"が…っ……、ぐ………!……ぅ……」

    だらりと腕から力が抜ける。目の前が白く霞がかった。

    だだの言ったことは正しい。ココロの弱さを、脆さを、塗り潰して傲慢に振る舞う自分が、他人に必要とされるものか。自分が死んでも誰も困らない。

    このまま、いなくなれば、いいのだろうか。いつものように蘇えるのだろうけど。否、もうティーチに必要なくなった自分は蘇ることはないかもしれない。この世界は、ティーチのものだから。


    「……て、ち………さ…む……」


    けれども、思考に相反するように、掠れた声が彼らを呼んだ。もう、自分が必要ない彼らを。意味のない、ことなのに。

    ココロは彼らを呼んだのだ。













    「コバヤシくん!!!」

    ぐぎゃっというだだの悲鳴が聞こえたかと思うと、どさりと落下した。酸素の海に溺れて生理的な涙がこぼれた。げほげほと何度も咳き込みながら、首元を抑える。あんなにきつく締め付けられていただだの耳はもうなかった。辺りに漂う鉄の匂いと足元を濡らす液体の多さからだだの状態を悟った。

    未だ止まらぬ咳のまま、声の主の方を見上げる。そこには、逆光の中の、ふたりの、影。

    「コバヤシくん大丈夫?君を傷つける害虫はやっつけたからね」
    「おいコバヤシ!!ふらふらどっか行ってティーチくんを困らせるな!!お前弱っちいんだから!!」

    白の光を背に、こちらを心配そうに見るティーチと斧を構えたサムが立っていた。 呆然と座り込むコバヤシの頭にふたりの─主にサムの─大声が響く。



    わからなかった。理解出来なかった。ふたりは、何故己の為に動くのか。自分はもう要らないはずなのに。価値などないはずなのに。



    ふたりの態度は、変わらなかった。




    「えっ!?コバヤシくん、どこか痛むのかい??」
    「はあ!?なんで泣くんだよお前!?」

    突然ぼろぼろ泣き出したコバヤシに、ティーチは慌てて慰めにかかり、サムは戸惑い呆れたが、いつも通りの反応にコバヤシは涙の量を増やすばかりだった。

    結局、彼が泣き止むまで結構な時間がかかり、後に残ったのはいつも通りの「3人」の日常であった。


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    「かき…おいしいよね」
    「ティーチくんも好き?一緒だね!!おそろい嬉しいな…」


    白の空間に響く楽しげな声。コバヤシはしばらく影でそれを聞いたあと、くるりと背を向け歩き出した。
    白の世界から少し離れればそこは1寸先も見えぬほどの暗闇。白の光でかろうじて自身の腕が見えるくらい。ティーチやサムはこの闇を嫌ったが、コバヤシは好んでいた。…この暗闇では白の世界では異質な己の汚れた黒を忘れ、溶け込むことが出来るような気がしたのだ。

    「…仲がよろしくて喜ばしいこった」
    暗黒の中、先程のティーチとサムの様子を思い浮かべ、独りごちる。サムはティーチの人格のひとりであり、ティーチに自分を認識してもらうことを夢見て努力を続けていた。字を覚え、ティーチと文通によって繋がり、それでは飽き足らずとうとう「体の分離」という型破りな方法を見つけ出した。この方法でティーチの人格のひとりであったサムは晴れて独立した存在となったのだ。…それは、もうひとつの人格であったコバヤシも例外ではなく。
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