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    上げるの忘れてたやつ
    十年後、かつて無人島だった場所と真つぐ

    #真つぐ
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    また十年後 ざっと十年ぶりに訪れた島はすっかり開発され、あの夏の面影は思った以上に少なかった。数日過ごした宿舎はもう存在せず、二人で落ちかけた崖はきちんと柵や手すりで安全を確保されていた。ライフラインも整っているから水汲みなども必要ない。唯一あの花畑だけがほぼそのまま風にそよいでいたのが印象的だった。

    「こんな綺麗なチャペルになったんですね」

     あの夏の日子供なりに思いを伝えあった海を見下ろせる高台には、現在チャペルが建っている。そしてそこでつい先ほど、俺とつぐみはあらためて愛を誓いあった。今は外へ続くドアの前でフラワーシャワーの準備が整うのを待っている。ドア一枚隔てた向こうには大勢の人間がいるはずなのに、二人きりのこの空間は静かだった。

    「もう結構昔なのに、あの夏のことはよく覚えてるんです」

     そう言うつぐみは純白の花嫁衣裳を纏い輝いている。十年前まさにここで腕の中のつぐみと見つめあった時も綺麗だと思ったが、今日の彼女はそれを上回った。小さく可憐な花が、大きく鮮やかに開花したようだ。

    「実は告白した時、弦一郎さんと結婚したらってちょっとだけ想像してたんです。こうやってドレスを着て、タキシードを着た弦一郎さんと……」

    「そうか。俺もだ」

     そう打ち明けると、つぐみは少し驚いた様子で見上げてきた。

    「白無垢姿のお前を思い浮かべて、いや女子はドレスを着たがるのではないか、ならどんなドレスだと勝手に妄想を膨らませ続けていた。付き合ってすぐ結婚の妄想など、我ながら重いと思って誰にも言わなかったが」

     つぐみは笑った。銀の耳飾りが揺れて煌めく。

    「似た者同士だったんですね」

     そしてそっと俺の腕をとる。

    「十年後も私と一緒にいてください」

     俺は即答した。

    「当然だ。十年後も二十年後も、一生お前を離さんぞ」

     十年後、俺たちはどうなっているだろう。子供に恵まれているだろうか、幸村たちとの友情は続いているだろうか。つぐみは俺を好きでいてくれるだろうか。願わくば、十年後またつぐみと答え合わせをしたい。

     ゆっくりと目の前の扉が開き始め、外の光が差し込んできた。これからまた新しい日々が始まる。俺は背筋を伸ばし、つぐみと共にその光を一身に浴びた。
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