黒長過去黒長は幼少期に両親に虐待された末に捨てられた。両親共に研究者で、母親は研究に没頭して育児放棄、父親は研究が上手くいかないと癇癪を起こし、彼を殴る、責め立てるなどと典型的な虐待を行ってきた。その末、ついに彼は6歳で捨てられたのだ。
しかしまあ、運がいいことに、捨てられてから数時間後とかに優しい人が幼い黒長を保護していった。保護してくれた人は本当にとても優しく、学校までしっかり通わせてくれた、それも、私立の魔法学校。実の両親は、保育園さえたまに行かせてくれなかったというのに。とてつもない差だ。
その学校で、黒長は戌連(じゅつれん)という男の子と出会った。戌連は自分と他の子とも分け隔てなく接してくれた。周りからしてみれば当たり前のことだろう。けれども当時の彼にとってみればそのことは特別で、しだいに彼は、戌連に好意を寄せるようになった。
黒長と戌連は後々幼なじみと呼べるような関係になり、いつも楽しく話し、本当に幸せだった。自分の好意を戌連に伝える必要はない。そう、思うくらいに。
だが世の中そんなに甘くは無いのだ。彼にとっての地獄はここから。高校生になって、戌連に彼女が出来た。しかも話を聞いて見ると、戌連から告白したらしい。戌連の前では平静を装い、素直に祝福してるように見せた。だが内心は、吐きそうだった。戌連の為にも、諦めなければならない。諦めなければ…何度も何度もその言葉が彼の頭の中を通っていく。けれど結局、諦められなかった。戌連と彼女が別れればいい、そう思って、彼女に陰湿な嫌がらせを始めた。見つからないように、証拠を隠しながら。何回だって。けれども別れるどころか、より仲が良くなっているように見える。とても気に入らない。ならいっそ、彼女を殺してしまえばどうだろうか。居なくなってしまえば戌連はまた僕とだけ話してくれるだろうか。そんな考えに支配されながら、彼は彼女を殺そうとした。だが実行する直前、戌連に見つかった。嫌がらせの数々も、どうやらバレていたらしい。彼の口をついて、色んな言い訳が出ていただろう。だが戌連はそれらを「…で?」と冷たい1音で一蹴した。そういうわけで…戌連に縁を切られた彼は完全に壊れてしまった。彼の中にあった倫理観も、優しさも、その時に全て捨ててしまったんだ。たったそれだけのことで…そう思うかもしれないが、当時の彼にとっては、戌連こそが全てだったのだろう。そして今もなお、心のどこかに戌連への未練を募らせる愚かな研究者は、今日もまた非人道的な実験を行うのだ。