パレードも終わって、お客さんたちは名残惜しそうに遊園地の出口へ歩いていく。オレたちはまだ歩き出す気になれなくて、ベンチに座って帰っていく人たちを眺めていた。
「僕、遊園地でこんな耳つけたの初めてだよ」
シュウが呟く。シュウの頭にはキャラクターのカチューシャがまだついていて、それは入園してすぐ、二人で選んだお揃いのものだった。
「よく似合ってるよ」
「んはは、ルカも似合ってるよ」
「服、乾いてよかったね」
「風邪ひくかと思ったけど、全然大丈夫だったね」
一番最初に乗った急流滑りが思ったより激しくて、しかも運が悪いことにオレたちは最前列に座っていたから、それはもうビショビショに濡れてしまったのだ。
オレが乗りたいって言って乗ってもらったから、びっくりしてめちゃくちゃ謝ったけど、シュウはすぐ乾くよってケラケラ笑うだけだった。実際、すぐ乾いたし、…これは本人にはとても言えないけど、髪が濡れたシュウはいつもよりちょっと色っぽくて、ドキッとした。
「そこで食べたさ、肉のやつ、オレ好きだったな」
「ああ!美味しかったね。ほとんどルカが食べちゃうんだもん」
「あれは一個ずつ買うべきだったよ」
「そうだね」
いつも上品なシュウが、骨つき肉にかぶりついていた。そりゃあ、そういうこともあるだろうけど、オレはそんなワイルドなのは初めて見たから少し驚いた。
一人一個じゃ多すぎるからってシュウに言われて、二人で一つを分け合って食べたけど、美味しすぎてオレはちょっといっぱい食べすぎちゃった。
「僕あれも好きだったな、4Dの」
「ああ、よかったね。オレあの、足元わしゃって出てくる…なに?毛虫だっけ?すごいびっくりしちゃった」
「んはは、めっちゃビクッてしてたもんね。見てた」
「あれはびっくりするでしょ…」
「思い出したらまた面白くなってきちゃった。あははは」
映画館のような場所で、飛び出す映像と、それに合わせて起こる匂いや振動を楽しむアトラクションだ。虫が出てくるシーンで、足の部分に何かが当たるという仕掛けがあったんだ。
それにびっくりしすぎたってだけの話なんだけど、シュウは楽しそうにずっと笑ってて。涙まで流すもんだから、オレもびっくりしちゃった。
「あー…、はぁ、あっという間だったね」
「うん…楽しかったな」
「んへへ、楽しかったね」
笑い終えたシュウが、ぼそっと呟く。その声が少し寂しそうに聞こえて、シュウも名残惜しいと思ってくれてるのかな、なんて都合よく考えてしまう。
今日シュウと合流するまでは、好きな人と二人で遊園地なんて、めちゃくちゃ緊張して自分らしくいられないと思っていた。でも、それは大きな間違いだった。
シュウと過ごす時間はとても素晴らしくて、楽しくない瞬間なんて一度もなくって、オレはいつも通りの自分でいられたし、時間が過ぎるのもとっても早かった。
シュウも同じように思ってくれていたら、嬉しい。
イルミネーションに照らされるシュウの横顔を見て、素直に、美しいと思った。ずっと見ていたいと思った。同時に、オレを見てほしいと思った。キミの瞳に、オレを映してって。
「………」
「…なに、どうしたの?」
オレの視線に気づいたシュウが、こっちを向いて目を細める。
一日中、楽しかったね。また来たいね。話したいも、笑うネタも、ずっと尽きなかったね。一日中二人きりでいて、緊張するどころか、好きって気持ちがもっと大きくなっちゃったよ。
シュウの手を取る。顔を傾ける。唇を近付ける。喧騒が遠のく。二人だけの世界だ。
おねがいシュウ。オレと同じ気持ちでいて。