💙💛♀アイドル💛♀とオタク💙
　初めて彼女を知ったのは二年前だった。たまたまツイッターで見かけたライブ中の写真。汗を流して踊る彼女を切り取った写真は、何より輝いて見えて、気付けば僕はライブに足を運んでいた。
　小さなライブハウスで声を張り、サイリウムを振り、チェキ券を買った。彼女に嫌われないよう見た目にも気を使うようになった。清潔感だけじゃなくて、少しでもおしゃれに見えるように。彼女に会うためにはお金だって必要だから、仕事も頑張った。結果、昇進だってした。
　ステージの上で歌って踊る彼女は誰よりも素敵で、可愛くて、格好良くて、女の子だって惚れてしまうくらいだった。けれどステージを降りれば彼女は思っている以上に普通の女の子で、気さくに笑って、僕の顔と名前、前に話したこととかも覚えていてくれて、彼女と出会うために僕のこれまでの人生があったのだと思えるくらい、僕は彼女にのめり込んだ。
　僕が彼女のトップオタと呼ばれるようになるまで、時間はかからなかった。当時、誰よりも彼女にお金を使っているのは、誰から見ても明白だった。僕は彼女と、彼女の夢を応援したかった。
　キャパシティ二〇〇のライブハウスで踊っていた彼女たちが、少しずつ大きな箱でライブをするようになっていく。明言していた夢に近づいていく。僕より、彼女にお金を使える人が出てきて、次第に僕がトップオタと呼ばれることはなくなって、チェキ会だって抽選になった。
　それでも僕は彼女を応援していた。直接会える機会が少なくなっても、彼女が笑顔でいられるならと。
　
　そして今日、彼女たちの夢が叶う日がきた。僕は二万払ってアリーナ前席確定のチケットを取った。最前列こそ当たらなかったものの、肉眼でも十分彼女の表情が確認できる距離だ。
　ライブが始まり、彼女たちにスポットライトが当たる。彼女は今までのどの瞬間より楽しそうで、バテてしまうんじゃないかというくらい全力で踊り、歌っていた。
　彼女に僕が見つけられるなんて思っていない。なんせ、他にも彼女らを好きで、応援している人たちがここには一万人も集まっているのだ。
　それでも僕は声を張り上げた。気付いてほしいわけじゃない。自分を応援している人がいると知っていてほしい。もう彼女が僕の顔を覚えていてくれなくても、彼女が幸せならそれでいい。
　彼女のソロパート、みんなが声を揃えて、彼女の名前を呼ぶ。僕だって、今まで生きてきてこんな声を出したことはないくらい、声を張り上げた。
「ルカ！！」
　ちょうど僕の前を通り過ぎるルカが、こちらを向く。まさか、声が届いたのか。視線が合って、ルカがこちらを指差す。周りのファンがこれでもかというほどに大声を出す。僕は、何も声を出せなかった。
　スローモーションみたいだった。ルカは僕を指差したまま、くしゃっとあの頃みたいに笑って、口を開く。
『アイク、大好き。ありがとう』
　マイクを通していないその声は、僕には届かない。けれどルカの唇は確かにそう言った。僕にはわかる。あんなにルカと話して、チェキを撮って、ライブを見ていたんだから。
　次の瞬間、ルカは黄色のスカートを翻してステージ中央に戻っていく。一瞬の出来事だった。けれど、永遠のようだった。
　涙が頬を伝っていくのがわかった。僕のルカ、みんなのルカ。
　向上心の強い彼女たちのことだから、またこれより大きな場所を目指して頑張り続けるのだろう。僕は変わらず、彼女たちの夢を応援するだけ。
　ルカが幸せなら、それでいい。ルカの幸せが、僕の幸せだ。