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    おまめさん

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    おまめさん

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    付き合ってないるしゅ♀とうき♀
    ブラを買いに行く話

    #mafiyami

    「は、派手じゃない?」
    「全然! 可愛いよ」
    「やっぱりサイズ大きすぎじゃない?」
    「さっき測ってもらったでしょ」
     浮奇に握らされたカラフルなブラジャーを見比べて、数分。僕は困り果てていた。
     明日ルカのうちに行くって伝えてしまったのが、運の尽きだった。浮奇は火がついたように根掘り葉掘り予定の日を僕から聞きだし、僕は手を引かれてあっという間に高校近くのショッピングモール、女性下着の店に連れてこられてしまった。
     浮奇曰く、片思いの相手の家で二人きりになるのに、シないはずないでしょって、ことらしい。僕とルカだし、ないことないと思う、けど。そもそも僕たち、付き合ってもないんだし、ただの僕の片想いなんだし。
    「はあ…」
     Dの六五のブラジャーが手元に三つ。深い赤の肩紐のところが太いレースのやつと、白地に花柄のやつと、黒レースに下が肌色のやつ。浮奇のおすすめを眺めながら、深くため息をついた。この三つの違いはわかるけど、こだわりがないから何を基準に選べばいいのかわからない。
     だって今まで機能性重視の無地のばっかりだったし、なんならカップ付きキャミとかタンクトップで済ませる日のが多かったのに、いきなりこんなブラジャーを選べだなんてハードルが高すぎる。
    「これはブラ紐見えてもブラ紐っぽくないから多少は許せる。可愛い系がいいなら白、セクシーなのは黒かな」
    「うん…」
    「赤かなあ。どう思う?」
    「どうって………いいんじゃない?」
    「私が選んでんだからいいのはいいに決まってるでしょ」
    「そ、そうだね…」
     それならもう中途半端に選択肢を残さずに、最後の一つまで選び切って『これにしな』って言ってほしい。そもそも僕は浮奇に言われるまで今日下着を買う予定すらなかったんだから。
     何も決められないまま三つを眺めて時間が過ぎていく。浮奇は飽きてしまったのか自分の下着を物色しはじめた。ううん、もう目を瞑ってコレ! て指差して決めちゃおうかな。なんて考えている時に、聞き慣れた声で名前を呼ばれる。
    「シュウ!」
    「あ、ルカ!」
     顔を上げるとそこにはルカが一人で立っていた。どうやらたまたま通りがかったみたい。放課後にまさか会えると思っていなかったから、僕は嬉しくなってルカに近寄る。
    「偶然だね、一人?」
    「うん! サニーが後から来るんだけど、シュウは…なに…を…」
     ルカの視線が僕の後ろに行って、僕の顔を見て、そのままお腹の辺りまで下がる。ぎこちないその動き、赤くなった頬、不自然に逸らされた視線に違和感を覚え、すぐにその答えがわかる。
    「あ、お、ぁ、その! 違うの、ごめん、えっと」
    「見てない! 見てない! ごめん、あの、俺も、あっと…こんなところにいるときに、ふは、あの、声かけちゃって」
    「いや、僕も、その、すっかり忘れて」
    「ふは、は、あの、えーっと…」
     慌てて持っていたブラジャーを背中に隠す。見てないって言うけど、見てたよね? 柄とか、色とか、バレたよね。明日のために買いにきたのはバレてない? こんなのバレたら、期待してるって思われちゃうよ。
     二人して真っ赤になって不自然な会話を繰り広げていると、背中をとんと叩かれて、振り返るとそこに浮奇がいた。よかった、救世主。
    「ハァイ、ルカ」
    「あ、あ、浮奇もいたんだね、ごめん気付かなくて」
    「ううん、二人の時間を邪魔してごめんね。それでちょっと、ルカに聞きたいことがあるんだけど」
    「ふは、な、なに?」
     二人して浮奇を見る。何か用事でもあったのかなって。でも浮奇の手元には僕が選んでいたブラジャーがあって、つまり、いつの間にか僕の背中からそれは消えていて。
    「ルカはどれが好み?」
    「ハァ!?」
    「うぇ、え!? 待って浮奇、待って」
    「ルカの好みを聞いてるだけだよ。シュウは関係ない」
    「う………」
     浮奇にピシャリとシャットアウトされてしまえば、もう僕は何も口答えできない。その代わり、自分を納得させようと試みる。
     そうだよ、ルカの好みを聞くだけ。それを僕が買うわけじゃないし、明日着ていくわけじゃないし、そもそも…明日するとか、そういう話じゃないんだから。僕には関係ない。全然関係ない。
     なのに全然ルカの方を見れなくて、僕はルカのローファーをじっと見つめていた。ルカの視線を感じながら。
    「え、本当に? 本当に言うの? 俺の好きなやつ?」
    「そう、聞いてんだよ。ルカに」
    「え、ええー…」
    「どれ? この中に好みはない?」
     ルカがチラチラこっちを気にしているのがわかる。僕だって、できればこの場にいたくない。早くこの時間を終えてほしい。
     あーとか、うーとかしばらく唸ったあと、ルカはすっと左腕を持ち上げる。僕の心臓が一際大きく跳ねる。
    「これ………かな」
    「オーケー、これね。ありがとう」
    「俺、も、もう行こうかな。サニーも来るだろうし、あ、え、えーと…シュウ」
     ルカのローファーについている汚れを数え飽きた頃、名前を呼ばれて顔を上げた。まだ頬の赤いルカと視線があって、思わずきゅっと唇を結んだ。なんか、変な顔になってしまいそうだったから。
     一瞬浮奇を見て、ルカはまた僕を見て、頬を緩める。
    「じゃあ、また明日」
    「うん…えっと、十一時に、駅ね」
    「うん、迎えに行く。また明日。浮奇もまた、学校で」
    「そうだね、引き留めてごめんね。バイバイ」
     ひらりと手をあげて、ルカは去っていく。休日にわざわざお家にお邪魔するって、本当に、大変な約束を僕はしてしまったのかもしれないって、今になって緊張してきてしまう。
     ルカがエスカレーターに乗った頃、浮奇は持っていたブラジャーを一つ、僕に手渡す。
    「これにしな」
    「え、まって、なに」
    「明日つけていってね。ハイこれセットのショーツ」
     黒のレースのブラジャーと、そのショーツ。それと浮奇の顔を何度も何度も見比べる。確かに、『これにしな』って言ってほしかった。ほしかった言葉をもらえたんだから、僕はこれを買うしかないんだろう。
     選んだのは浮奇じゃなくて、おそらくルカだけど。
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