「ルカ先輩の好きな人って、あの人だよね?」
さらさらの金髪を風に靡かせてやってきたのは、後輩のサニーだった。オレのこと先輩だなんて全然思ってないくせに、からかうみたいな口調で、少し意地悪に笑いながら、オレの隣に座った。
テーブルの向こう、サニーが指さした先には、何冊かの本を手に持ったシュウがいた。サニーが来たことには気付かないで、本を探すことに集中している。
オレは咄嗟に言葉が出なかった。好きな人の話なんてサニーにしたことなかったし、シュウのことだって、す、好きなんかじゃ、…ちょっと、気が合うし、一緒にいて楽しいし、真面目だけど面白くて、シュウとなら放課後の図書室だって悪くないなって思えたり、ちょっと、気になるなって思ってただけだったのに、どうして突然、って。
「………な、だ…えーっと…?」
何でオレがシュウを好…気になってるってわかったの? そもそもサニー、シュウのこと話したことあったっけ? ていうか、シュウのこと知ってたの? 知ってたなら、どこで知り合ったの? ていうか、わざわざオレに好意があるかを確認しにきたの?
聞きたいことが次々浮かんできて、どれから聞けばいいのかわからなくなった。
間抜けな顔で口をぱくぱくさせながら、サニーを見つめる。サニーは小さく吹き出した。
「なにもわかんないって顔してる」
「だって、突然すぎるよ!」
「うはは」
サニーは小さく笑ったあと、頬杖をついてシュウを眺めた。じっと、黙って、熱い視線を送る。オレはただそれを眺めることしかできなかった。
シュウを見ないで、なんて言える立場じゃないから。
「シュウ先輩とはさ、委員会で一緒になって」
「エッ、…う、うん」
シュウを見つめたまま、サニーは静かな声で話し始める。図書室だからか、オレにだけ聞こえるような声で。
オレは、次に続く言葉が想像できてしまって、でもその通りじゃないといいって、祈るようにして次の言葉を待った。サニーはたっぷり勿体ぶって、ゆっくり口を開く。
「すごくよくしてくれてね、ルカの幼馴染っていったら、それはもう…放課後の居残りとかも一緒にしてくれて」
「う、ん…」
「いいなって、うはは」
ガツンと頭を殴られたような衝撃だった。
少し照れたみたいに笑うサニーが格好よく見えて。サニーは一つ年下だけどしっかりしてるし、頭も良くって気が利くし、ゲーム好きだからシュウと話も合うだろうし。
あれ、何だかこの二人、お似合いなんじゃない?
「さ、にー」
「ライバルだね」
「ライバルって、そんな」
「シュウ先輩には言うなよ。さすがにわかってるだろうけど」
「わ、わかってるよ」
「うん、よろしく」
そこまで言うとサニーは席を立って、シュウのところへ向かった。肩を叩いて、小さな声で会話を交わす。何を話しているのかはわからないけど、二人は楽しそうで、すっかりオレの入る場所なんてなくなっちゃったみたいだ。
だって、オレがシュウのことを好きだったとしても、シュウがオレのことを好きかなんてわからないし。サニーとデートして、サニーのことが好きになるかもしれない。嫌だけど、シュウが幸せなら受け入れなくちゃいけない。
ライバル。そう言われて少し凹んだ。シュウがいなくなっちゃうかも、サニーがいなくなっちゃうかもって、想像できてしまって。
「ルカ、ルカ」
無意識に視線を逸らしていたらしい。シュウの声がしてそちらを向くと、彼女は嬉しそうにほおを緩めていた。
「サニーがね、今からゲームセンター行こうって」
「え、あ、ああ、そうなの。じゃあ今日はオレもう帰るよ」
「え? ルカも来るでしょ? 一緒に行こうよ。ねえサニー」
広げていた勉強道具を片付けていくシュウ。本気で三人で行けるって思ってるみたいだ。サニーを見ると、視線で来るなと伝えてきていた。
行かせていいのか? シュウが誰かのものになってもいいのか? オレの隣にいてもらわなきゃダメなんじゃないの?
シュウは、可愛い後輩と、仲良しの男友達と三人で遊びに行けることが単純に嬉しいんだろう。他の人が見たらわからないかもだけど、今のシュウがめちゃくちゃテンション上がってるってこと、声を聞けばわかる。
一瞬弱気になっていた気持ちが、その声を聞いて決意に変わった。サニーに負けるわけにはいかない。
「行く!」
「んはは、行こ」
サニーはオレの横を歩きながら、シュウの見えないところでオレに蹴りを入れてきた。もちろん、オレもやり返した。
オレたち、ライバルなんだろ? オレだってシュウを渡したくない。負けないよ。