ホワイトデー💛💜♀ わざわざ呼び出すんだから何か特別な用事なのかもって思ったんだけど、ルカの第一声を聞いてすっかり力が抜けた。
「ホワイトデーのお返しなんだけど…シュウって何あげれば喜ぶと思う?」
ルカからの恋愛相談は百万回受けた。そうだ。ルカが重要そうな声を出す時は、大抵恋愛相談なのだ。本当にもっとヤバそうな時は、意外とケロッとしているんだった、この男は。
ため息をついて帰りたくなったのを堪えて(大事な大事な姉の話なので)、あたしはルカの前の席に腰を下ろした。
「シュウのホワイトデー…。ちなみに、今日あたしがルカからもらったのは?」
「? ホワイトデーのお返しだけど? ちょっと早くなっちゃったけどね」
「あたしのは悩まなかったんだ?」
「いやっ、そん…! それは、…意地悪じゃない…? オレのすきなひと、知ってるくせに…」
小さなキャラものの紙袋に入ったキャンディ。ちょっと早いけどってルカから今日手渡されたそれは、義理チョコに相応しい義理ホワイトデーだった。いや、いいんだけど、それは全然。
「えっ…一応聞くんだけどさ。シュウから本命もらえたの?」
「もらえてないよ! 義理だよ! だってヴォックスも同じ紙袋持ってたもん!」
「ああそう…義理と思ってるチョコのお返しにそんな悩むんだ」
「悩むでしょ…だって…シュウからのチョコレートなんだもん…」
まあそれ、全然義理チョコじゃないんですけど。あたしは俯いたルカの頭に、べ、と舌を出した。
ルカに特別なチョコレートを渡したい。でも本命だってバレたくない。そう考えたシュウは、友人へ配る義理チョコを一つ多く購入し、自分で食べ、空いた紙袋に手作りのフォンダンショコラを入れたのだ。
シュウの作戦はばっちり通っているようだけど、この二人は一体いつまでこんな無意味なやり取りを続けるのか、不安な気持ちもないことはない。
「もう花束でも渡して告白しちゃえば?」
「だっ…そん…! でも、でもさ。バレンタインに義理チョコを渡すってことは、オレにそんな気はないってことじゃないの?」
「なるほど…」
「オレ、シュウの一番の男友達って自信あるよ。フラれちゃって、距離ができるのは嫌だよ」
すっかり肩を落としてしまったルカに、これ以上何か言うことはできなくなってしまった。同じような会話を一ヶ月前くらいにシュウとしたけど。
こいつら、どうやったら一歩踏み出せるんかなあ〜と、伸び始めたネイルをちりちり擦り合わせて遊ぶ。
あ。
「あたしもシュウから義理チョコもらったよ。猫のチョコが三つ入ったやつ」
「?」
「ヴォックスも猫のだったって言ってたなあ〜。他にもいっぱい、同じの買ってたし、多分みんなにそれ配ったんだろうなあ」
「なに…」
「ルカも猫のだった?」
「え」
シュウが手間暇かけて作ったフォンダンショコラを、忘れたとは言わせない。もう当分甘いものはいらないってくらい、味見もさせられた。ラッピングの案もめちゃくちゃ見せられて、もうどれも一緒じゃんって言いたくなったのを、なんとか飲み込んだ。恋する姉が可愛かったから。
顔を上げたルカは、目を大きく見開いて、口も開いて、頬が赤くなった。だんだんだんだん!机を強く叩いて、開いた口を両手で覆う。
「だって…そんな…まさか…ほ、他に、手作り渡された人って…」
「だから市販の猫なんだって」
「こ、告白されてないけど…」
「あれがシュウの精一杯なんだよ。わかってやれよ」
「うぅ…う…じゃ、じゃあオレ、花束…渡してもいいのかな…」
「いいんじゃない?」
そして来る三月十四日。シュウの部屋の花瓶には、紫とピンクの、可愛い花が生けられていた。