顕現して初めて主に会った時、…あぁ、俺は関わらない方がいいって直感的にそう思った。何故だかはわからない。
ただ、真っ直ぐ俺を見る主の瞳が苦手だった。
主には極力近づかない様にしたが、そうは言っても使われないことには顕現した意味がない。主からの指示はそつなくこなし、その度に必要最低限の会話のやり取りはした。やはり主の瞳が見れなくて常に視線は主の足元にあったが。
顔が見れない分、声や雰囲気で主のことが何となくわかる様になった。数ヶ月共に過ごしても未だ視線を合わせない俺に主は時折悲しそうだった。
そんなある日、俺は部隊に選ばれ出陣した。遡行軍を倒し、歴史を守る。正しい歴史になる為に消えゆく命から目を逸らさずに。
…そう、よくある任務だったのに。
ふと今まさに消えゆく1人の人間と目が合った。
「ぁ、…じ……?」
自分でも驚くほどのか細い引き攣った声だった。他は誰も気づいていない。俺が、俺だけが気づいてしまった。
ーーーあれは主の前世の姿だった。
…そうか、俺は歴史を守る為に前世とはいえ主を見殺しにしたんだな。だからあの瞳が見れなかったんだ。
「ははっ…こんな驚きは味わいたくなかったな…」
何度も遂行してきた任務に枯れ果てたと思っていたが、まだ零す涙はあったらしい。久々に出たそれは暫く止まらなかった。
原因が分かったところで、どんな態度で主に会えばいいのか。寧ろ余計に気まずくなったようにも感じる。
ますます主を避けるようになってしまい数日が経ったある日。
ーー本丸が襲撃されたのである。
よりによって各部隊が遠征などで出払っている手薄な時を狙われた。
遡行軍を倒しつつ主の元へ向かう。気が急くまま一刻も早く辿り着こうと駆けていた俺の目に映ったのは。
怪我を負った近侍を背に身を挺してかばう主の姿だった。
その瞳はあの時と同じ。真っ直ぐ敵を見据え、最後まで諦めない強い意志を秘めたもので。
ーーあぁ、俺は本当はあの瞳が好きだった。
眩しくて。守りたかった。失いたくなかった。
「っーーー‼︎」
…だが、今は違う。護れる。共に戦える。
そう理解した瞬間、気持ちが激しく高揚する。
敵を斬り倒し、主の前に立つ。いつまで経っても衝撃が来ないことを疑問に思った主が俺に気づいたのだろう。張り詰めていた空気が少し和らいだのを背後から感じた。
ゆっくり目を閉じ、呼吸を整える。
心を鎮めて、そしてまた目を開く。
「改めて名乗らせてもらうぜ」
…さぁ、顕現からやり直そう。
突如吹いた風で庭の桜が舞い散る。刀を構え俺は高らかに宣言した。
「ーー太刀、鶴丸国永。主の為に刀を振るい驚きの結果をもたらそう!」