真夜中に閃光がカッと煌めく。
天幕で休もうと荷物を整えていた二人も、昼の太陽のような明るさと地鳴りのような轟音を感じた。
「アーサー達が交戦し始めたか。ほんの少しだけ仮眠取って合流だ。」
「……」
陣形はアーサー達率いる先鋒、そこから少し離れて本陣、またその後ろにダミーの本陣を置いて夜戦に備えていた。先方にアーサーを置いたのは雷鳴で敵襲を知らせること、万一あれば騎兵の彼が早馬を飛ばすことが理由だ。ただこの陣形、問題がひとつある。最悪戦線を下げる形のため本陣の護衛は騎兵が良い。且つ神を超える力、聖なる武器を持った人間はそう多くなく、万一フリージのイシュタルが攻めいれば、と考えると不本意ながらアレスが最適だった。
「例え僕の首を取ろうと、本陣であるからには相当の戦力を割く。君とてここで力尽きたくないだろう?」
「……」
日が落ちる数刻前、反対意見を押し切ったセリスの提案で決まったのだった。
アレスは傭兵時代に培った休み方で、座りながら浅く睡眠を取っていた。もちろん剣をはいて。
「おいセリス。いい加減寝たらどうだ。隈を作って前に立つつもりか?」
浅く寝ているのは気配を感じるため。寝具の衣擦れですぐに起きていることに気づいた。
「…寝れないんだ。」
「何を今更」
「野営が始まってからほとんど眠れない。」
「……」
アレスはひとつ溜息を付いた。確かセリスは隠れ里の出身で、戦慣れはしていない。だがティルナノグから戦線を上げ、フリージの収める領内へ突入する今なお寝れないと言うのか。
「今までよく隠し通せたな、それは関心しよう。だが――」
「!」
寝転ぶセリスの上にアレスが覆い被さる。
「反応が鈍い。少なくとも全快ならもう少し動ける筈だ。その体たらくで行軍するつもりだったのか?」
「うん……ごめん……」
バレてしまったと目に見えてセリスがしおらしくなった。アレスはひとつ舌打ちをする。
「俺に謝って何になる?それより戦場の行動で示せ。ほら、横詰めろ。」
「?」
「俺が乗るくらい端に寄れ。」
「えっ…?う、うん……」
そうセリスが寝台の端に寄るとアレスはどっかりとベッドに乗り寝転がった。もちろん左腰の剣を上にして。
セリスは思わぬ行動にぱち、と瞬きつつ恐る恐るアレスに近寄る。
「あったかい……」
「俺も人だ。当たり前だろう。」
「でもくさい…………」
「文句言うな。」
アレスの装束からは石鹸のような上品な香りはなく、煤と砂埃と血の戦場の、セリスの嫌いなにおいがした。加えて録に身を清められない状況だ。香粧品で誤魔化した体臭も混ざっているのだろう。正直アレス自身も申し訳ない事をしたと思っていたが、セリスは小動物のよう丸まって無言ですすすと擦り寄ってきた。
「俺がお前を殺すまで、俺がお前を守る。」
「変なの」
「だから…」
ゆっくり休め。とんとんと規則正しく背中を叩かれ、セリスはその心地良さに体を委ねた。
その夜久しぶりにセリスが見た夢は、セリスとアレスが平和な世界で、手を取り合う幸せなものだった。