後日、携帯電話を持たせることになる モブ! そこにいろ! 絶対そこから動くなよ! 頼む!
俺は祈っていた。
俺たちは除霊依頼を済ませ、バスに乗って事務所に帰るところだった。気が付けば隣にモブがいなかった。モブはさっきのバス停で、降りる客に流されるまま間違えて下車してしまったに違いない。そう、さっきまで車内は混んでいたが、今は客は疎らだ。
俺としたことが……。
顔の血の気が引いて青ざめているのが自分でもわかる。俺は自分に酔いしれながら、いかにさっきの除霊が素晴らしかったのかをモブに語っていたところだった。
モブはいつも目を輝かせながら話を聴いてくれる。何だか照れくさいのと、良心が痛むため、モブの目を見ずに、半ば目はとじたまま気持ちよく語っていたのが、完全に仇となった。
「次は〜――止まります」
車掌のアナウンスが聞こえる。俺はバスが次停車したらさっきのバス停まで、ダッシュしようと心に誓っていた。
「ありがとうございました〜」
バスを降りて俺は走り出した。そんなに距離はないはずだ……行ける! なにせ俺は、男子バレー部仮入部経験者なんだからな!
最近、ほとんど運動なんてしてなかった俺の身体を鼓舞してひたすら足を前に出した。
「モ……モブ」
俺が息切れしながら名前を呼ぶと
「し……ししょう!」
モブは安心したように駆け寄ってくる。俺はその小さな手を思わず握った。
良かった……。
俺はホッと胸を撫で下ろした。モブはさっき降りたバス停で動かずに俺を待ってくれていたようだった。
握った手を見ながら、混雑していたバスの車内でこうして手を繋いでおいた方が良かったのかもしれない。と自省した。そうすれば、モブを不安にさせることはなかった。一歩間違えたら大変なことになっていたかもしれない。考えるだけでゾッとする。俺は二度とこんなことが起こらないように、もう一度しっかりと手を握った。
おわり