あまりにも綺麗なその訳を「師匠、綺麗ですね……」
モブに言われて、ずっと下を向いていた俺は顔を上げた。
あ……。
そこには満開の桜。この静寂の夜に咲き乱れた桜の花は、モブの言う通り綺麗だった。
あぁ……綺麗だな。モブ。
その桜のあまりの綺麗さに俺は泣いていた。
なあモブ、桜の樹の下には、何が埋まってるか知ってるか?
俺はモブの方を見た。モブと目が合った気がした。
桜の樹の下にはなぁ、モブ。俺が埋まってるんだよ。
この見事に咲き乱れた桜は、まるでモブに見て欲しいって言っているように思えるだろ。
今こんなに綺麗に見えるのもモブ、お前にだからこそなんだ。
俺の全てを吸って咲き乱れた桜をもっと見てくれ。そうすることで俺はやっと浮かばれる。
本当はお前に見つけて欲しい。早く見つけて欲しいんだ。でも、大切なお前にこんな姿見せたくない……もうお前の知ってる姿じゃなくなってしまった。俺の身体はとっくに朽ちてしまった。
お前がなんとなくでもここに来てくれて嬉しいよ。あんなに霊の姿も声も見えて聞こえてたモブが、俺の姿も声も見えないし聞こえないのには驚いたし、超能力って万能じゃねぇーのかよ! って最初は思ったけどな。
でもそれでいい。もしそうだったとしたら、俺が離れられなくなるだろうし、モブだって前に進めないと思うんだ。俺の自惚れだったらごめんな。
さっき俺のこと呼んだだろ。モブ、もう俺のことは良いから、お前のこれからのことだけ考えろよ。
正直、モブにさっき呼ばれて嬉しかった。俺のこと『師匠』って呼んでくれてありがとな。俺、お前と出会えて本当に良かった。俺幸せだったよ。
あぁ、本当はモブの成長を見届けたかったな。
なぁモブ、もう少しだけこの桜を見てってくれ。最後の花びらが落ちるその時まで、俺は咲き誇るから。
おわり