隣でバニラアイスを食べるキミと。(仮) 出張除霊が終わった。
そう、これが俺たちの当たり前の日常。
今日も学校帰りでバイトに来た弟子のモブと連れ立って依頼人の元へ行った。
電話で依頼内容を聞く限り【本物】だと判断した俺は、自分では解決できないとひとりで動くことを辞めて、弟子を連れて行ったのである。
結果俺の判断は正解だったわけだ。
故人が所有していた御屋敷を売却したいが、固く閉ざされた部屋があり、気味が悪く確認もできない状況で困っている――。
モブは敷地内に入るなり、
「いますね」
とつぶやいた。
目的の部屋につくと、モブはすぐさま手をかざし、除霊を行った。そこは故人の子どもの部屋だったそうだが、不幸にも幼い頃に亡くなりその部屋をそのままに閉じたらしい。
その子どもの霊がずっとひとりでその部屋に漂い続けていたようだ。
一瞬で霊の感情を読み取ったらしいモブはそう話していた。
その霊が故人の元へいけるように、依頼人も俺たちも手を合わせた。
モブの最速の除霊により、思ったより早く帰途につくことになった。依頼のあった御屋敷は隣町だったため調味市に帰るには電車に乗る必要がある。
駅までの道のりをゆっくり二人で歩く。会話はしたりしなかったり、会話しないことの方が多いかもしれないがこれも俺たちの当たり前の日常だ。
「師匠、少し時間ありますよね。寄り道しませんか?」
さっきまで黙々と歩いていた弟子が声をあげた。
「ここ……昔立ち寄った公園ですよね。懐かしいですね。師匠覚えてますか?」
指を差した先には小さな公園。
覚えてるよ。忘れるわけないだろ。11歳だったモブを連れて隣町に出張除霊に来たのは初めてだった。
あの時も除霊は簡単に終わったのに、モブは駅まで向かう途中で盛大に転んだ。両膝を擦りむいて血まみれだった。泣きそうな顔はしていたものの泣かずにいたモブだが痛みもさることながら明らかに落ち込んでいた。
そんなとき近くにあったここの小さな公園に寄った。
「よし、少し休憩しよう」
下を向いてしまったモブの手をひいて、水場に行き膝を洗い流して、ハンカチで軽く水気を取る。
「モブ、こういう傷は水で砂とかホコリとかを良く洗い流したら清潔なハンカチを使って水気を取るようにするんだぞ。ティッシュとかは繊維が傷の中に入っちゃうからなるべく使わないようにな」
モブは傷が滲みるのか渋い顔をしながら頷いていた。俺はまだ元気のないモブの頭をポンとたたき、ベンチに座るように促した。どうやったら元気づけることができるのか分からずにとりあえず自販機のバニラアイスをモブに渡した――。
モブとふたりで公園のベンチにうっすら被った土埃を払いながら腰掛ける。
「僕、あの時転んだんですよね。その後にそこの自販機で師匠にアイス買ってもらって嬉しかったな」
「モブが転んだの覚えてるぞ。痛くて泣きそうな顔してるのに、泣かなかったんだよな。あの時のモブかわいかったよな。今はな〜〜可愛くないことも言うからな」
「え! そうでしたっけ……そこまでは覚えてなかったです。まぁ、可愛くないこと言いたくなるのは師匠のせいだと思いますけど……。あ、まだ自販機もあるみたいだし、アイス食べませんか?」
アイスの自販機の前にふたりで移動し、小銭をいくつか自販機に入れ込む。
「ほら、モブ好きなの選べよ。さっきの除霊の特別報酬な 」
モブは覚えているのかいないのか分からないが、あの時と同じバニラ味のボタンを迷うことなく押した。
「これにします。ありがとうございます」
俺は甘ったるいバニラの気分ではなかったためソーダ味を選んでモブと一緒にベンチに戻った。
子どもの成長の速さに驚かされるばかりだ。
ついこの間までこのベンチで泣きそうな顔をしていたコイツは、あの頃と比べるとすっかり大人びて、背丈もずいぶんと大きくなった。これからまだまだ伸びていくだろう。精神面でもかなり成長したと感じる。自分で考えたり、選択ができるようになった。この前も俺に相談せずとも自己解決してたっけ。
寂しいような嬉しいような俺は複雑な気持ちになりつつ隣を見ると、あの時と同じ味のバニラアイスをあの頃と変わらずに嬉しそうに食べるモブがいて、少し笑ってしまった。
モブも来年は中学三年生になる。この弟子の心身の成長を間近で見守ることが出来るのはいったいいつまでなんだろう。
この日常をいったいいつまで続けていけるんだろう。俺より少し低い位置にある真ん丸の黒い頭を眺めながら、冷たいアイスを口に放り込んだ。
おわり