ひろいもの まだ生まれて間もないであろう小さな子狐が、その短い手足を一所懸命に動かして、地を駆けずり回っている。走って、転んで。茂った草が緩衝材になったのか、けろっとした顔で起き上がって、また走り出す。
聞こえてくる幼子特有の甲高い声に、オーエンは耳を伏せた。騒々しいそちらに目線をやれば、どうやら子狐はオーエンに気がついていないらしい。ひたすらに走って、転んで、それを繰り返している。木の上からしばらくそれを眺めていたオーエンであったが、諦めたようにひとつため息を一つ溢した。
「はぁ……」
こうして傍観してはいたが、オーエンの体裁のためにも不法侵入の不届きものをこのまま放置しておく訳にはいかなかった。
近頃、幾度とオーエンの縄張りに侵入しては馬鹿みたいに走り回っている子狐がいた。ちょうど、そこで赤毛を振り乱しどたばたしているあの子狐のことである。
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