親友の結婚 美和子はコーヒーを一口飲んでカップを置くと、一呼吸置いた。
「由美、私、高木君と結婚することにした」
すこしはにかんだその笑顔は柔らかく、意思の籠った優しい音がじわっと私の心に沁み込んだ。
「よかったわね」
考えるよりも先にその言葉が出てきた。
ぐっと目頭の熱さを感じると、途端に溢れた。
湧き上がる感情が形になる前に流れ出ていく。
顎を伝う冷たさに自分が泣いていることを認識した。
心からの安堵と、少しの寂しさが混じっている。
慌てて紙ナプキンで目を押さえてから、その時作れる最大の笑みで言った。
「おめでとう、美和子」
言っているそばから口元が歪んで、また溢れ出てきてしまった。
「やだ、もう恥ずかしい、全然止まんない」
美和子と高木ならいずれ結婚する未来は予想がついていて、何も驚くことはない。
ただ、お互いに結婚の意思を固め家族になることを決めたことが嬉しかった。
松田陣平との鮮烈な別れ。彼女の人生に大きな影を落とし、その暗闇の中をなんとか生きる彼女を見てきた
ずっと心配だった。神がこの世にいるというなら、なんで美和子ばかりこんな目に合うのだと理不尽に思っていた。
その彼女が今心から笑えているそれだけで嬉しくて、仕方がない。
「美和子、いま幸せ?」
「うん。今までもずっと幸せだったわ」
彼女が自分の幸せを肯定しきる姿に、また涙が込み上げてきそうになった。
「由美……いつもありがとう。由美がいなかったら私、ここまでこれなかったと思う」
「私、何もできていないよ」
「そんなことないよ。勝手に思い詰めて突っ走る私をいつも引き留めてくれていたじゃない」
「あんたのイノシシっぷりはいつもみていて心配になるのよ。自覚していたのね」
「最近ようやく気付いた」
「あんたね」
「これからもさ……私が何かに迷ったときに、そばにいてくれる?」
「そんなの迷ってない時もそばに居てやるわよ」