フォーチュンドール2章6話譲葉雫はいつにも増して悩んでいた。今日は夏希の提案でこの前の調査チームで集まって食事会をするのだ。余裕をもって待ち合わせの場所に兄である澪とともに向かうが、親友の唯は澪や夏希に苦手意識を持っているため、無理に誘ったのではないかとか、6人もいると自分まで必要あるのかと思っていたり、話の輪に入れないのではじゃないかと思ったりで不安な感情でいっぱいだった。そんな、雫の浮かない顔を見て澪は心配した。さらに雫の呼吸はどんどん荒くなり、体調が悪いのか膝をついてしまうほどである。澪は雫に体調が悪いなら一度帰ろうかと提案しようとするが、空気感が重い…否、空気そのものが重い…低気圧に弱い人間ではないはずの澪でも頭が痛くなるほどである。何かがおかしいと思い始めたその時、雫の口から悲鳴が聞こえたと思えば、急激に突風が吹き荒れたのである。澪は雫が飛ばされないように、また気を落ち着かせるために、雫を抱きしめたのである。
夏希はスマホで時間を確認した。待ち合わせの場所には将信と、道に迷わないように一緒に来た幸と唯も一緒にいるが、譲葉兄妹の姿はない。すでに待ち合わせの30分は経過しているが、兄妹は二人とも待ち合わせに遅れるような性格ではないのに、不思議に思っていた4人、夏希は澪に連絡しようとスマホのロックを解除したとき、地域のニュースがスマホ画面に出てきた。この一時間以内に随分近くでしかもかなり局地的に気圧変動が起き、そこにいた人たちが次々と倒れていったという。そういえば、ここに来るまで救急車がやたら通っていたと残りの3人が言うと、夏希は救急車の向かった方向や、書いてあった病院名などを確認する。確か中央病院のはずだと幸が言うと、唯は中央病院とは逆の方向を指さして行きましょうと言い、歩き始めるが幸と将信に逆だと言われる。
4人は中央病院へ向かった。ニュースのことを言い、譲葉兄妹の特徴を言うと、看護師は、確認を取り、病室まで案内してくれた。
「澪先輩!大丈夫ですか!」
澪の片隅にある眼鏡を持ち上げ、それに声をかける夏希。本体はそれじゃない。幸と唯も澪の隣のベッドで寝ている雫のもとに駆け寄る。そして澪は雫の名前を呼びながらガバっと起き上がり、呼吸御荒くした。
「あ、澪先輩そっちすか?」
「そっちってなんだ!それより雫は?」
「隣で寝ていますよ。それより何かあったんですか?ニュースになってましたが。」
将信がスマホにニュース画面を表示し、澪に渡す。確か、雫が体調悪そうにしていて、風が吹き荒れて…それからの記憶がない。澪が雫のほうに目をやると、とても苦しそうな表情をしていて顔を歪ませた。その時、将信は何かに気が付いたのか、雫のほうに足を進める。すると澪が将信を呼び止めた。
「せーーーーーきーーーーーばーーーーくぅん?」
「あ、いや…何かするわけじゃないです。ただ、雫の魔力量がおかしいのです。」
「魔力?」
「おい、どういうことだ。雫は魔法が使えないぞ。」
幸はキョトンとした顔で将信を見る。澪は、まさか一連の現象に雫が関与してるのではないかと思い始めたが、首を横に振った。
幸は以前、将信が魔導士である話の時に、普通の人も使えなくはないと言っていた気がしたのを思い出した。
「魔力が突然宿るということはあるのですか?」
「宿るというよりは、体にある魔力の核、マナコアのゲートを開き、うまくコントロールすることによって魔法が使えるようになるんだ、魔導士は生まれつきとの素質があるが、一般の人がやるには努力や素質が鍵となるし、使えるかどうかの個人差もある。」
「なるほど、マナコアは誰でも持っているものなのでしょうか?」
「大半の人間は持っているだろう。それに尼波の人形にも魔力があるのはそれらしいものがあるのでは?」
「魔力…もしかしてパパが人形に必ず入れているという青い玉…。」
「それがマナコアかもしれないな。しかし、これはただ、マナコアのゲートが開いた反動で起きたものではないと俺は思うんだ。」
「赤馬くぅん、それはどういうことなのか説明してくれ。」
「圧倒的に魔力量が多すぎるんです。熟練の魔導士でもこんなに大量の魔力は感じたことはない。いや、そんな魔導士よりも何十倍と言っていいほどです。」
澪ですら何が起きたのか皆目見当もつかないなか、空気も読まずに病室のテレビをつけた夏希が唖然としていた。唯もそれを見て目を見開いた。テレビの音に気付き話していた3人もテレビのほうを見るとニュース速報が流れていて、世界各地で異変が起きているという。
「まってよ!米国の五大湖が森林で埋め尽くされたり、エジプトやバルト三国も英国も大変なことになってるよ!」
「なん…だよこれ…、こんなのいちいち気候変動や天変地異で表せるものではないだろう!」
「だとするなら、魔法や能力者の仕業だというのですか?しかもこんな同時多発的に…。」
「そうなら、非常にまずい…赤馬くぅんがこの前言っていた魔女狩りとかいう連中の話を覚えているか?」
「この前の研究所のときのっすよね?」
「たしか…魔法や能力を奪ったり利用したりという集団がいると…。」
「この件でそいつらが動き出したら、僕たち全員危ないぞ。」
「何より、先輩の妹さんだ。これだけの魔力量がいきなり体に入れば制御もできないだろうからすぐにばれてしまいますよ。」
「僕は雫の事を守るけど…君たちも気を付けてくれ…特に学校が魔女狩りに見つかれば真っ先に狙われるぞ。」
澪の推測通り、この日に世界を狂わせた同時多発の事件で魔女狩りの動きが活発化、魔法使いや能力者たちは追われる身となってしまった。幸たちも身を隠す生活を送ることになり、世界に大混乱が起きた。
そこに貝森高校のお偉いさんたちは魔女という存在に接触する。その魔女たちは友好的であり、活発化した魔女狩り達を収めるために、貝森の人たちと協力し、魔法使いや能力者、魔女たちの住まう特別区域を日本に設けた。その広さはかなりもので簡単にいうと東日本くらいの大きさである。貝森特区と名付けられたその地域では、魔法使いや能力者や魔女、その関係者たちが住むようになり、敵対する者たちを魔女たちが討伐するように仕向けたのである。この地域ができるまで一年半の時間を要した。また広いこの地域では、ワープゲートの魔女が地域に登録をした人に特別な魔法をかけて、地域にいくつも設置されているワープゲートを使用することができるようにしているという。魔導士や能力者たちと魔女たちの新しい生活が始まるのはまた別の章にて。
フォーチュンドール2章 終