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    billy_candyy

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    billy_candyy

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    以前行われていたイーストセクターWebオンリーにて展示させて頂いていたアシュビリ小説です。こちりのアッシュ視点のR18小説をアシュビリWebオンリーにて掲載します。

    フェイス・ビームスの憂鬱「あれ? アッシュ。こんな所で会うなんて奇遇だね」
     いつものオフ。今日は彼女達と過ごす気分には何かなれなくて一人でブラブラしようとブルーノースシティまでやってきた。ブルーノースは街の雰囲気が落ち着いてるし、お洒落なお店も多いから一人でゆっくり買い物を楽しみたい時によく来るのだけれど、そういやお気に入りの香水がもうすぐ無くなるから買い足さなきゃ、と思い出しいつもの馴染みの店へと入ればそこで意外な人物と遭遇した。
    「あァ? チッ、何だテメェか」
    「アハ。相変わらずの対応ドーモ♪」
     店に入ればそんなに広くない店内は色んな香りで充満している。おチビちゃんが入ったら顔を顰めて何だ、ココ!! クッセーー!! って叫びそう。そんな中でアッシュは迷う事なく目的の物であろう香水を直ぐ様手に取り、カゴに入れていた。チラッとその香水に目をやればあまり目にしないパッケージのもので、興味を惹かれる。
    「アッシュってどんな香りを好むの? 俺はコレ。他にも何種類かお気に入りはあるけれど最近はコレがお気に入りなんだよね」
     そう言って近くにあったいつも買う自分お気に入りの香水を手に取り、サンプルの匂いを相手に嗅がせるとアッシュは途端に顔を顰めた。
    「……くせえ」
    「ええ? 女の子にもウケが良いのに。じゃあアッシュはどういう匂いが好きなの?」
    「うるせぇな、別に何でも良いだろ。テメェには関係ねぇ」
     う〜ん、誰に対してもこういう態度ってのは何となく知ってはいるけど、前から薄々思ってはいたけど俺に対して何か更に辛辣じゃない? セクターも違うしタイプも違うからアッシュとはあまり関わる機会が無いのに何故か嫌われていると言うか敵視されてる気がするんだよね。そもそも俺とアッシュの共通点と言えば……。
    (…………ああ、成程。そういう事か)
     辿り着いた答えの人物の顔を思い出し、ストンと突っ掛かっていた何かが落ちるのを感じた。と、同時に思わずため息が溢れるのを止められずに居れば、その俺の仕草に只でさえ深く眉間に刻まれた皺を更に増やしてアッシュは怪訝そうな顔で俺を見遣る。
    「……あのさぁ、何を勘違いしているのか知らないけど。俺とビリーはそういう関係じゃないから」
    「はァ!? な、何を……」
    「でも意外だな。ビリーからはアッシュが全然自分に興味持ってくれないって聞いていたんだけど」
     アッシュの他人に媚びない、固執しないって部分は割と俺は好感を持てた部分だったんだけれど、どうやらそうでも無かったらしい。最近、押せ押せで猛アタックしてアッシュと所謂恋人関係とやらになったって言うのはビリー本人から聞いてはいた。あの、恋愛なんて生産性が無い無駄な事だ、と散々アカデミー時代に豪語していたビリーが誰かを好きになって恋人を作るだなんて天変地異の前触れ? と思うぐらいには驚いたけれど、相手がアッシュだって事に更に驚かされたっけ。けれども俺に恋愛相談(って言う名のビリーのアッシュ好き好き惚気話)をして来た時の彼は本当に嬉しそうで。お金を前にした時とは全く違う幸せそうな顔で笑っていた。だから付き合う事になったって聞いた時は俺にしては珍しく心からのおめでとうを伝えたんだっけ。けれどもその後もビリーから聞く話はいつだってアッシュが素っ気ないとか本当に自分の事を好きなのか自信が無いだとか、あのスーパーポジティブキャラのビリーにしてはネガティブな事ばかりだったんだよね。そもそも同性同士ってだけで色々と問題はあるのは分かってはいただろうけれど、器用なビリーの事だからその辺は何の心配もしていなかった。だから聞かされる話も自然と惚気が多くなるって思っていたんだけど、それに反して彼から出される言葉は不安の声が多かった為、少し心配だったのだ。
    「俺が言えたセリフじゃないかもしれないけど……」
    「あァ?」
     アッシュがカゴに入れていた香水のサンプルを手に取り俺は自分の手に軽く振りかけながら呟く。
    「大事にしてあげてね、ビリーの事。ああ見えてかなりの愛されたがりだし」
    「…………チッ、うるせぇ。テメェに言われなくても分かってんだよ」
     盛大な舌打ちをして、俺とはこれ以上話していたくもないと言った様子でアッシュは足早に会計を済ませて店を出て行った。そこまで邪険に扱う事無くない? と肩を竦めながら手首からする匂いに鼻を寄せれば自分が好む香りとは程遠く、けれども上品で清涼感も感じられるその香りは正にアッシュのイメージに合う男らしさを象徴する様な香りだった。
    「その独占欲、本人にももう少し見せてあげれば良いのに」
     そう誰に言うでもなく呟けば、俺は先程くさいと言われた自分のお気に入りであるその甘い香りの香水を手に取った。

    ✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼

    「ハロ~、DJ☆最近の調子はどう?」
     それから数日経ったある日のパトロール後、珍しくビリーからの夕飯でも一緒にいかが? との誘いを受けて、特に予定も何も無かった俺は了解の返事を返し、夜になって更に若者で賑わいを見せるイエローウエストのとあるカフェでビリーと夕食を共にしていた。
    「別に変わりは無いよ。ウエストのメンツも相変わらずだし」
     今日は俺とディノ、おチビちゃんとキースに分かれてのパトロールだったけれどディノは相変わらずお昼ご飯もピザ屋に誘ってくるし、パトロール後はキースを引き連れてイタリアンのお店に出掛けて行った。おチビちゃんは久しぶりに大好きなお兄さんに会いに行っている。
    「エエ~何か新しい情報は無いの~? DJ絡みのお話でもボクちん大歓迎♡寧ろ大本命♡」
    「俺の情報流してお金儲けしようったってそうはいかないからね。全く痛い思いしたから少しは懲りたかと思ったのに。相変わらずなんだから」
     大怪我もしたし、少しはこないだの事件の事で懲りたかと思いきや相変わらず情報屋の仕事は続けているらしい。まあ、流石に反省はしたのか危ない事に首を突っ込むのは止めたみたいだけれど。
    「ああ、そう言えばこないだアッシュに会ったよ、ブルーノースシティで」
    「え、そうなの? んも~アッシュパイセン何処に行くとかゼンゼン俺っちに教えてくれないんだよネ~で、何してたの!?」
    「普通に香水ショップで会っただけだし何してたとかは知らないけど……すぐ店を出てっちゃったし」
    「そっか~ハァ~ア……」
    「相変わらずなの? アッシュは。でもオフが被ったら一緒に過ごしたりはしてるんでしょ?」
    「……ウン。でもいつも素っ気ないし好きとか愛してるとか言ってくれた事無いし俺っち愛されてないのカナ~」
    「いや、そもそもそんな事言うタイプじゃないでしょアッシュって」
     俺の中のアッシュのイメージって何でもお金にモノ言わせて、傲慢で俺様で我儘って感じのイメージだし、そんなアッシュがまさかのビリーの押せ押せ攻撃に靡いた事が既にもう奇跡なんじゃないの? とすら思う。そんな事言ったら目の前で不貞腐れた顔をしながらテーブルに突っ伏す彼が更に拗ねて面倒な事になるから絶対に口には出さないけど。
     ーービリーとはアカデミーで知り合って、お互いに利害が一致して悪友みたいな関係で一緒に居た感じだ。たまにしつこく追い掛け回してくる女の子達から助けてくれたかと思いきや、いきなりの裏切りで俺の情報を売られたりとまぁ色々あったけれど、ビリーも他人に固執しない、深く関わらない、そして自分にもそれをさせないタイプで一緒に居るのは煩わしくなくて案外心地良かった。一度だけ一体何の為にそんなにお金が必要なのか、と軽く聞いた事はあった気もするけれど、上手くはぐらかされたし、俺も深くは聞かなかった気がする。だって聞いた所でどうにか出来るアレでも無さそうな気もしたし。
     そんなビリーもヒーローになってかなり大きな事件に遭遇してアカデミーの頃とは明確に変わった。ビリーが引き起こした事件はエリオス機関の中でもかなりの大ごとになったし、色々と今まで煮え湯を飲まされて来た俺もそのビリーのやらかした案件を聞いて流石に開いた口が塞がらなかった程だ。それと同時に彼が頑なに話さなかった家族の話を聞いて、ずっと抱えていたビリーの境遇の大変さを知ってかなり驚いた。今までそんな素振りは一切見せなかった彼は一体どれ程の苦悩を抱えて生きて来たのか。アカデミーの頃から情報屋の仕事はしていたし、恐らく俺と出会う前から出来る仕事は何だってして来たのだろう。童顔なのにも関わらず、歳の割に大人びて見えるのはそうせざるを得なかったのだと思う。そうと知っていれば俺ももっと力になれた事はあったのに、とは思ったけれど……ビリーのあの性格の事だ、きっと何かのきっかけで事情を知ったとして俺がその申し出をした所で断られていただろう。だから、家族の事ばかりを最優先に考えて、自分の幸せなんて後回しにする、そんなビリーが少しでも自分の幸せを考えてくれたら良いのに、と悪友の立場ながら願わずにはいられなかった。直接それを伝えた事なんて無いけれど。まあ、でも。そんな彼からまさか恋愛相談を受ける日が来るなんて思いも寄らなかったけれどね。
    「ウワァアン!! 好きじゃないなら何で俺っちと付き合ってくれたのアッシュパイセンンン!!」
    「うるさ……。そんなの直接聞けば良いでしょ。て言うか別にそんなに悩む事じゃないと思うけど」
     好きでも無い人と一線を超えた関係になんてあのアッシュの性格上ならまずないでしょ。横暴に見えて生真面目らしいし、俺様だけれど人の気持ちを弄ぶ様な事は出来ないタイプだと思う。いくら普段からビリーにおちょくられているとは言え、自分の直属のメンティーとそういう関係になるだなんてちゃんとアッシュにもそういう気持ちが無ければ絶対に無い筈だ。そんな事、少し考えたら分かると思うんだけど……。まあ、これぞ恋は盲目ってやつなんだろう。そういう計算が自分の事になると出来なくなっちゃうんだろうな。
    「オイラはDJみたいに恋愛の百戦錬磨じゃないモン」
    「あ~もう……面倒臭いなぁ。アカデミーの頃にビリー、俺の彼女達の事を面倒臭い人達って言ったよね? それに関しては確かに俺も同意した部分はあるけど……言っておくけど今のビリー、その彼女達と全く一緒だから」
    「!? 何でそんな酷い事言うのDJ!! オイラの事慰めてくれたって良いデショ!!」
     呆れた、とハッキリ思った事をそのまま言ってやればビリーは突っ伏していた顔を勢い良く上げたかと思えばブッスーーーー!! と子供みたいに両方の頬を膨らませて不貞腐れた表情でこちらを見た。何それ、頬袋にたんまり餌を貯め込んだハムスターみたいで全然可愛くないんだけど。
    「どうせ俺が何を言ったって“だって”、とか“でも”って言うんでしょ。そんな無駄な時間を過ごすなんて俺はごめんだし」
    「ううう……いつにも増してDJが辛辣……ボクちんこんなに傷心なのに」
    「だからさぁ、思ってる事あるなら全部本人に聞けば? って言ってるの。こんな所で俺にグチグチ話してたって何の解決にもならないでしょ? そういう無駄が一番嫌いなのはビリーの方だと思ってたけど。違う?」
    「…………違わない……でも、だって……」
     さっき俺が言った聞きたくない接続詞がそのまま飛び出て来た事にピクリ、と眉を震わせるも取り敢えず全てを聞かない事にはビリーの言いたい事は分からない、と思い留まり
    、俺は続きを目だけで促した。
    「パイセンに面倒臭いとか重いヤツって思われたくナイ……」
    「ハイ、お疲れ様。本日の営業は終了しましたー」
    「ウワァアン!! 待ってDJ!! 俺っちを一人にしないで!!」
    「全く、今のセリフをアカデミーの頃のビリーに聞かせてやりたいものだよね。……で、今日アッシュは? 明日は二人揃ってオフなんでしょ?」
    「グスン……。今日はパトロール終わってから実家絡みの付き合いのパーティーがあるとかでそっちに行っちゃったヨ」
     付き合ってらんない、と呆れて席を立った俺を必死に引き止める様に、俺の腰に張り付いたビリーの頭をグイグイ押しながらそう問えば返って来た答えにああ、と理解した。つまり、明日は二人でオフだけどアッシュは家の付き合いで出ていて、恐らく帰宅も遅いのだろう。モヤモヤした気持ちで一人で過ごしたく無くて俺は呼び出されたって事ね。全く、相変わらず人の都合はお構い無しなんだから。
    「アッシュって確か自分一人の持ち家あるんじゃ無かったっけ? オフはいつもそこで過ごしてるんでしょ? 鍵は貰ってないの?」
    「あるヨ……。でもあんなだだっ広い部屋に一人で居たくないんだモン。あ! DJ遊びに来る!?」
    「ハァ? 行くわけ無いでしょ、馬鹿なの?」
    「酷い!! 今日ホントいつにも増して辛辣!!!」
     あんなに他人を寄せ付けない相手からプライベートの時間を過ごす為の部屋の鍵を貰ってる時点でそれこそ“トクベツ”なんだって何で気付かないワケ? ビリーって頭の回転は早いしアカデミーの学力の成績だって悪く無かったハズなのに何でこんなに簡単な事が分からないの? まあ今まで誰かを好きになった事も付き合った事も無いんだし仕方ないか。
    「あ~もう……。分かった、ビリーの気の済むまで付き合ってあげる。でも俺は明日普通に仕事があるんだから朝までとかは勘弁してよね」
    「さっすがベスティ♡ウンウン! どこ行く!? 行き付けのクラブ?」
     結局こうやってアカデミーの頃から俺はビリーを甘やかしてしまうのだ。俺の言葉に途端に顔を明るくして立ち上がり、ビリーはするり、とごく自然に俺の腕に絡み付いて来た。あのさ、仮にも恋人居るんだからこういう誤解される様な事は止めなよね、と言った所でこんなスキンシップはビリーにとっては日常茶飯事だ。きっとイースト内でもグレイやジェイにハグぐらいはしてるだろうし、まあ良いかと思い、俺達は夜の街へと繰り出した。

    ✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼

     日付けが変わって間もなく一時間が経過しようとしていた夜更けに宣言通り、じゃあ俺はもう帰るからとDJに告げられて、DJはタワーへとオイラは最近はすっかりオフの日には入り浸っているアッシュパイセンのプライベートで借りている自宅へと帰宅した。別に約束をしている訳でも無いけれど、パイセンと恋人という関係になってからはオフはこっちで過ごすと言う暗黙の了解みたいなものが出来ている為、自然と足がこちらに向いたのだ。
    「アッシュパイセン、流石にこの時間だしもう寝てるカナ~」
     今日……もとい、昨日のオイラのパトロールはジェイとペアだったし、パイセンとは朝にタワーで挨拶を少し交わした程度でパトロール後にもそれぞれのパトロールの報告をした時に顔を見ただけで昨日は殆ど会話が出来ていない。先程まではDJとクラブやらカラオケやらでワイワイ騒いでいて、胸にモヤモヤと宿る寂しさや虚しさの事は忘れていたけれど、一人になると途端に襲ってくる空虚感。こんな事はヒーローになってアッシュパイセンを好きになって、恋人になるまでは知らなかった気持ちだ。ーーいや、知ってはいたけれどどうにかやり過ごせた感情だった。     
    アカデミーの頃はそんな事を考えていられる余裕なんて到底無かったのだから。時間が許す限りはただお金を稼ぐ事に必死で、自分のたった一人の家族の為に生きていた。お父さんが生きて居てくれるなら何だって頑張れた。それがあの頃は自分にとって何にも変え難い幸せだったんだ。でも、ヒーローになって、大切な物が増えて、友達や仲間と呼べる人達が出来て、今の俺はもっともっと幸せだ。そして何より生まれて初めて誰かを好きになるって事を教えて貰った。恋なんて生産性の無い無駄な感情だ、と思っていた自分がまさか誰かを好きになって、自分ではコントロール出来ないぐらいの気持ちを抱くなんて、少し前の自分なら想像もしていなかっただろう。
    「ハァ……俺っちらしくナイ……」
     でも、それでもどうしようもなく焦がれて止まないのだ。アッシュ・オルブライトという人間に。グレイやDJにも何でアッシュなの? って聞かれたけれど、一度あの不器用な優しさに触れてしまえば恋に落ちるのなんて一瞬だった。だから自分の気持ちを受け入れて貰えた時は奇跡だって思ったし、こんな幸せな事ってあるんだって全てが輝いて見えた。でも、今となっては何故パイセンがオイラの気持ちを受け入れてくれたのか全く分からない。
    「ううう……こんなネガティブも俺らしくナイ!! お風呂に入って綺麗に流しちゃお」
     ズーンと湧いて出る負の感情にブンブンと頭を振り、リビングに入る前にいつもココに来る時の日課になっているパトロールとクラブで汗をかいた身体を綺麗にする為に浴室へと足を向けた。
    「オイ」
    「うひゃあ!? あ、アッシュパイセン!! いつの間に背後に居たの!?」
     途端に背後から掛けられた言葉に飛び跳ねる様に驚いて振り返れば、パイセンのお家なんだから当たり前なんだけどそこに見知った姿を見付けていきなり声を掛けられて驚いた心臓を落ち着かせる為に自分の胸に手を当てた。
    「テメェ……こんな時間までどこをほっつき歩いてやがった。また情報屋だとか何とかのくだらねー仕事か」
    「くだらないなんて失礼だヨ!! 俺っちの情報で救われた人だって居るんだからネ」
    「どうだって良いんだよ。そんな事より連絡の一つすら寄越せねぇのかって言ってるんだ」
     基本的にアッシュパイセンは早寝早起きだ。大体いつも早朝に起きてランニングに行ったりトレーニングしてたりと、いちヒーローとして体力や体作りに手を抜かない。だからこそ今日のこんな時間みたいに遅くまで起きていたりなんて無駄にしない。それなのにオイラが帰宅するまで起きて待っているなんて……。
    「んふふ、パイセン俺っちの事心配してくれたの? アリガト♡」
    「あァ? 何を勝手に想像してニヤついてやがる。オイ、くっつくな! 大体テメェは……あ?」
     な〜んだ☆俺っちってばパイセンにしっかり愛されてるジャン♡なんてさっきとは打って変わってご機嫌にお風呂に入る前だった事も忘れてパイセンの腕に纏わりつけば、途端にパイセンの表情が変わった。ワォ。綺麗好きのパイセンの事だからもしかして外から帰ったままの姿でくっついたの不快だったカモ!! と怒られる前に慌てて身体を引き離そうとすれば、腰に腕を回されて更に距離を詰められた。
    「ふえっ!? パイセン!? 待って待ってボクちんまだお風呂入ってないカラ……!」
    「臭ェ……」
    「酷い!! そりゃあ一日外に居たんだしパトロールだって頑張ったのに〜!!」
     いくらメンタル強なオイラでも大好きな人に臭いだなんて言われたら傷付く〜〜!! て言うか腰に腕を回されてドキッとした俺っちのトキメキを返して欲しい!! ゴーグル越しに無神経なパイセンを恨めしそうに見上げれば、さっきとはまた違った相手の表情にピシリ、と固まった。
    「ビリー、このクソガキ……てめぇマジで良い度胸してやがるな……?」
    「エエッ!? 何でそんなに怒ってんの!?」
     こめかみに青筋を浮かべてマジギレ状態のパイセンを見て冷や汗が止まらなかった。さっきまで怒ってはいたものの、どこか自分を心配していた風にも見えたのに今はただただ怒り心頭って感じだ。オイラ何か失言した!? いや例えしたとしてこんな風に怒るパイセンはなかなか無い。少なくとも俺っちと付き合ってからは一度も無かった筈。理由も分からないまま、どうしようと様子を窺っていれば徐に視界が変わって自分の身体が宙に浮いた。
    「んえっ!? エッ!? パイセン!?」
     どうやら一瞬の隙に肩に担がれたらしい。身長差はそんなにあるわけじゃ無いのに相変わらず軽々と俺っちを持ち上げるその腕力に驚かされながら、無言でそのままリビングを通り抜けて寝室へと運ばれて急なそのパイセンの行動に目を白黒させた。
    「ねぇ、だからオイラまだお風呂入って無いし汚いって!!」
     ココに来る時、暗黙の了解でリビングに入る前にいつも身体を洗っていたオイラはそのリビングすらも通り抜けて恐らくパイセンが一番綺麗にしていたい場所である寝室へと連れて来られて焦りに焦った。自分もかなりの潔癖症だから綺麗好きなパイセンとは相性が良いと思うし、外から帰ったそのままの姿でベッドに上がるのは俺っちも躊躇うからその暗黙のルールに不満なんて抱いた事は無い。だから何を思ってこんな展開になったのか理解出来ないオイラはそのままベッドに放り投げられて、目を白黒させた。
    「パイセン、何をそんなに怒って……んぶっ!?」
     俺っちをベッドに放り投げた後にそのままそのキングサイズの大きいベッドに乗り上げて来たパイセンは相変わらず怒りのオーラを隠す事もなく無言でオイラのゴーグルを強引に外し、ベッドの片脇に投げる。
    「待って、ちょ……!! 待ってオイラ何の準備もしてないヨ!?」
     その行動に今から何をされるのか察しの良いオイラは分かってしまい、慌ててベッドから降りようとするもそれより前にパイセンに組み敷かれてしまい、一瞬で唇を塞がれた。恐らく黙れ、と言う意思表示なんだろう。いつもするキスとは違って、深い重なりにただただ混乱しか無い。パイセンを好きになるまで誰かとこうやって唇を重ね合わせるだなんて到底自分には無理だと思った。手袋無しに他人に触れられないし触れられたものなら鳥肌が立つ程不快に感じてしまうオイラがキスだなんて天地がひっくり返っても無いだろうと。でも初めてパイセンとキスした時、抱いた感情は気持ち悪いでも不快でも無かった。ただただ気持ち良くて、心がぽかぽかして目が合えばこれ以上に無いぐらいの幸福感で満たされた。誰かを好きになるってこんなにも自分を変えてしまうのか、とオイラも驚いた程だ。でもキスの回数が増える度に自分の身体に感じる今までに感じた事の無いキモチが芽生えた。それに気付かないフリをしていたけれどずっとアッシュパイセンにもっと触れられたい、抱きしめられたい、キスしたい。もっと……先に進みたい。そんな浅ましいキモチから極力目を背けて来た。オイラ達は確かに恋人同士ではあるけれど、パイセンは俺っちにそういう欲を抱くとは思えなかったのだ。自分と付き合う前に何度か恋人が居たことがあるのは知っている。でもその誰もが当たり前に女性で、世の男性が好みそうな綺麗な人や所謂セクシータイプのオネーサマ達ばかりだった。どんな女性が好きなのか聞いてもそんなモンは無いと言い切ったパイセンだけれど恐らくそう言ったタイプが好みなのだろう。自分は当然ながら胸はぺたんこだし自慢出来る事と言えば男の割に大きくて可愛いと言われる事が多い、いつもはゴーグルの下に隠しているこの瞳ぐらいだろう。だから当然性行為を求められるなんて事は無いと思っていた。実際そういう触れ合いはキス以外無かった訳だし。だからココに来てのセックスアピールにひたすら混乱しか無い。しかもパイセン何でか分からないけれど今もめちゃくちゃ怒ってるし!!
    「ンッ、ふァ……っなんで……」
    「てめぇが誰のモンなのかその身体にしっかり教え込ませてやる。覚悟しておけよ、ビリー」
    「ヒエッ」
     その言葉を最後に俺っちは理性と言う感情が自分から失われる瞬間はこんなにもアッサリと訪れるものだって事を初めてその身を以て知ったのだった。
     
    ✼••┈┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈┈••✼

    「あれビリー、こんな所でボンヤリしてどうしたの。今日はオフなのにタワー内に居るなんて珍しいね。どういう風の吹き回し」
     ビリーと夜遊びした次の日、パトロールが終わって一息つこうと談話室へとやって来ればそこには先客が居た。ビリーにしては珍しく、いつも愛用しているハニーはソファに置かれたまま何かを見ている訳でもなくただボンヤリと佇んでいた。
    「……ああ、DJ。ハローご機嫌いかが」
    「えっ、どうしたの? 体調でも悪いの? いつもはうるさいぐらい元気なのに。て言うか昨日は普通に元気だったよね?」
     俺が声を掛けたらいつもなら鬱陶しいぐらいにペラペラと喋るその口は今日は何だか随分と大人しい。珍しい事もあるものだと体調不良を疑うも、アカデミーの頃から体調を崩すなんて滅多に無かったビリーが目に見えていつもの覇気が無いのが分かり、疑問を感じて歩み寄れば、いつもと違う相手の様子に俺は首を傾げた。あれ、何か違和感。ビリーっていつもこんな感じだったっけ? つい昨日会った時には感じられなかった違和感が確かにそこにあるのだけれど、何が違うのかパッと見では分からない。
    「クソDJ!! おまえパトロール終わったらさっさと一人でタワーに戻りやがって!! おまえが逃げたせいでおれがキースに報告書の提出押し付けられたじゃねーか!」
    「ええ、それはキースの仕事であって、そもそもおチビちゃんに押し付けるのがおかしいんだから俺に怒るのはお門違いでしょ。て言うかグレイとアキラ引き連れてまたゲームでもやるの?」
    「おう! たまにはお前らも一緒にやろうぜ!」
     ビリーの隣に腰を下ろせば直ぐに談話室へとやって来たおチビちゃんにギャンギャンと言いがかりをつけられるも、俺はいつもの様にそれを上手く躱し、続けて入って来たアキラとグレイの姿を見て問い返した。アキラにゲームのお誘いを受けるも、どうにも昨夜ビリーと夜遊びしたせいか眠気が勝っていて失礼じゃない程度に断りを入れる。
    「ビ、ビリーくん。オフなのにここに居るの珍しいね、な、何か元気無いけど大丈夫?」
     流石は同室でペアを組んでいるだけあってグレイもいつもと違ってやたらと静かなビリーに疑問を感じたらしい。ソファに座るビリーの目の前にしゃがみ様子を窺う様に顔を覗き込んだ。
    「あっ、ウン!! ゼンゼン大丈夫だヨ。心配かけてごめんネ!!」
     その刹那、いつもの明るさで笑ってグレイにそう応えればグレイも、"そう? 何かあればいつでも言ってね”と返し、アキラ達の元へと戻っていく。グレイの事は上手く誤魔化せたみたいだけれど、明らかに様子がおかしいビリーに少し離れた場所でゲーム大会を始めた三人に聞こえない程度のボリュームで俺は再度ビリーに問いかけた。
    「ねえ、本当にどうしたの。もしかして昨夜帰ってからアッシュと喧嘩でもした?」
     その俺の問い掛けに目に見えてビリーは動揺する様に固まった。ビリーがオフの日に自らココに居るのはレア中のレアだ。大体オフの日はあちらこちらに情報収集に飛び回っているか、最近ではアッシュのプライベートの家に入り浸っていた筈。なのにこんな所でボンヤリしているなんて明らかにアッシュが原因だろう。そう結論付けて大丈夫なの? と心配の言葉を掛けようと口を開いた刹那、ふと何処かで嗅いだ香水の匂いを感じて俺は周囲を見渡した。誰かが近くを通った気配も無いし、この香りは恐らく隣に居るビリーからだろう。あれ、でもおかしいな。潔癖症のビリーは自分から強い匂いがする事を好まない。だから自ら香水といった類の物を身に付けたりは絶対にしない。けれど確かにビリーからはどこか男らしさを感じさせるそれでいて爽やかな清涼感ある香りがした。う〜ん、趣向が変わって香水を付ける気になったのだろうか。でもビリーの雰囲気って言うかイメージには合ってい ないな。彼が付けるにしては変に大人びていると言うか背伸びしているって言うか。あれ、でも待って。俺やっぱりこの匂いを以前何処かで嗅いだ事がある。そう暫く思案して考えて当のビリーに視線をやれば何故か顔を真っ赤にして俯いていた。えっ、何その顔。俺アカデミーの頃からの付き合いだけどそんな顔は初めて見たのだけれど。そうして改めて、まじまじとビリーを観察すれば明らかに昨夜とは雰囲気が変わった事に今やっと気付いた。俺がさっきから感じている違和感は多分これだ。そうして思い出したその香りが似合う人物。その真実にああ、成程。と一瞬で全ての事を察してしまった。
    (遂にビリーも大人の階段登っちゃったか〜)
     オフにも関わらず珍しくこんな所でボンヤリしていたのは恐らく本当の意味で一線を超えてしまい、どんな顔をしていれば良いのか分からなくてアッシュから逃げて来たのだろう。こんなに強く分かる程に香りが移るだなんて、これはきっと今朝方まで離して貰えなかったんだろうな。もしかしたら昨日ビリーと夜遅くまで一緒に居たことでアッシュの独占欲に更に火をつけてしまったのかもしれない。
    「良かったじゃん、やっと手を出して貰えて。愛されてるって自覚これで出来たんじゃない?」
     そうそっとビリーの耳元で囁いてやれば何で分かるの!? と言いた気に更に真っ赤になったビリーはゴーグル越しにその大きな瞳を瞬かせた。そうして気付いた異変。耳元に唇を寄せた時に見えたビリーからは死角になるうなじに幾つも着いた赤い鬱血痕。これは多分、俺への牽制だろうなぁ……って予想にやれやれと肩を竦める。だから俺はビリーとはそんな関係じゃ無いって言ったのに。
    「全く……、俺を巻き込まないで欲しいんだけど」
     どう見てもバカップルの間に挟まれて、俺は盛大にため息をついた。けれども、散々俺を巻き込んでおいてそんな事は露ほども知らないビリーに更に追い打ちをかけられる。
    「……DJ、どうしよう。アッシュパイセン、チョ~えっち上手だった♡オイラ更にメロメロ~♡」
     そう蕩けた顔で惚気られた一言に勘弁して欲しいんだけど、と俺は肩を落とした。何が悲しくてアカデミーから知ってる悪友の性事情を知らないといけないの。後日、別の場所でまたしても偶然出会ったアッシュにドヤ顔を向けられて俺はこれからは金輪際ビリーの話を聞くのは止めよう、と固く誓ったのだった。




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    Replies from the creator

    billy_candyy

    PAST2022/09/18 イーストセクターWebオンリーにて展示させて貰っていたアシュビリ♀小説です。
    ※ビリーが先天性女体化しております。アッシュ×女の子ビリーなので女体化に不快感がある方の閲覧はご注意下さい。
    アシュビリ♀と言うよりかはアッシュ+ビリー♀と言った感じの内容です。
    これの続きもいつかまた書きたい…!
    ハニートラップにご注意クダサイ♡ 扉の開閉音がしてふと目が覚めた。枕元に置いてあったスマホに手を伸ばし時間を確認すれば、時刻は深夜の二時を回った所で舌打ちをしてベッドから起き上がる。隣では老いぼれが相変わらず凄まじい程のいびきをかいて爆睡していて、それにもふつふつと怒りが湧き上がった。俺が思うにこんな時間に外から帰って来る奴は一人しか居ない。何度言っても人の言う事を聞かない、口だけは達者なメンティーに今日こそガツンと言ってやると意気込み、俺はメンター部屋から帰宅してから直ぐに風呂場へと直行したらしい相手を追い掛け、浴室へと足を向けた。人が入っているそこに無断で踏み込むなんてマナー違反も良い所だがそんなの知った事じゃねぇ。この俺様の睡眠を妨げた罰はしっかり受けさせてやる、と鼻歌混じりにシャワーを浴びる相手の許可なく浴室の扉を勢い良く開いてやった。
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