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    オルト

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    オルト

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    付き合ってるタイカケ

    「ねぇ、映画見に行かない?」
    「……なんの?」
    「こーれ!」
     カケルは映画の前売り券を出しながら言った。愛らしい少女と威勢の良さそうな少年の印刷された紙を、タイガは横目で見た。聞いたことのないタイトルが印字されている。
    「何それ? 俺、それ知らねーんだけど?」
    「これ、あの有名監督の新作映画でね、原作のない完全オリジナルなんだよ。だから、おれっちも詳しくはどういう話かは知らないんだ~」
    「なんで俺と? そういうの、ヒロさんとかユウと行った方がいいんじゃねぇの?」
    「タイガきゅんと行きたいんだよ~」
     カケルがタイガに寄り添って甘えるように言うと、タイガはそっとカケルの肩に手を回した。正直、タイガは全くと言っていいほどその映画に興味が沸かなかった。カケルと映画に行きたい気持ちはあるが、興味の沸かない映画では絶対に途中で寝てしまう。そんなことなら、このチケットは他の誰かに譲った方がいいのではないか、と思った。恋人が誰かと二人で映画に行くのは面白いものではないが、それとこれとは別である。
    「カズオと映画行くんなら、一緒に見て後で盛り上がれるようなのがいい。感想言い合ったりしたい。寝ちまったら嫌だし。せっかく……で、デートすんなら、なんつーか、ちゃんと起きて映画見たい」
    「タイガ……」
    「だから、ソレは別の誰かと行けよ」
    「うん……でも、おれっちが他の誰かと行って、タイガきゅんやきもちやかない?」
    「な……っ! そ、れは……全く妬かないって言ったらウソになっけど、それで腹立てる程もうこどもじゃねえし」
     フン、と鼻を鳴らしてそっぽを向いたタイガに、カケルはぷっと噴き出し笑い声をあげた。
    「何笑ってんだよ?」
     前触れなく笑い出したカケルに、タイガはムッとした表情を向けた。
    「タイガきゅんってさ、すっごい素直になったよね、最近」
    「はぁ? そうか?」
    「うん。やきもちやいちゃうって、認めちゃうんだもん」
    「……そりゃ、だって、そうだろ。カズオのこと、好きなんだからよ」
    「そ、そっかぁ……」
     カケルは小さな声で言って、それっきり黙り込んだ。いつもペラペラしゃべるカケルが急に黙り込んでしまい、タイガはどう会話を続けていいかわからなくなり、暫くの沈黙が流れた。
     先に沈黙に耐えられなくなったのはタイガの方で、視線をカケルの方に戻しながら声を掛けた。
    「カズオ……っ!」
     タイガの目に映ったのは、顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに俯くカケルだった。
    「な、なんでそんな真っ赤になってんだよ!」
    「だ、だって、タイガが好きって言うから、恥ずかしくなっちゃって……」
    「は、はぁ?! なんで、そんな今更……!」
     タイガがカケルに対して「好きだ」と告白をして交際を始めたのは、もう数か月も前のことだ。それから、キスだってそれ以上のことだって経験してきている。何をいまさら恥ずかしがっているのか、タイガにはわからなかった。
    「だって、タイガがちゃんと好きって言ってくれたの、告白してくれた時以来じゃん」
    「あ……」
     そう言われればそうかもしれない。タイガはこれまでのことを振り返ってみたが、確かにカケルの言う通り「好き」と言葉にしたのはあの時以来かもしれないと気づいた。何度か言っているつもりにはなっていた。それはきっと、タイガが「言葉より態度で示す」という思いで過ごしてきたから、態度で示したことも「好き」と伝えたような気になっていたからだ。
    「そ、っか……、そうかも。俺、言ってるつもりになってた」
    「……」
     カケルは特に何も返さず、ただ顔を赤くして俯くだけだった。
    「なぁ、カズオ。好き」
    「ひゃっ!」
     耳元で囁くと、カケルが悲鳴に似た声を上げた。タイガはそんなカケルの反応が楽しくなって、もう一度囁いた。
    「好きだ、カズオ」
    「お、おれ、も」
     カケルは途切れ途切れに返す。その様子が愛らしくて、もっと見たくて、タイガは繰り返し囁く。
    「好き」
    「ちょ、」
    「カズオが好きだ」
    「待って、タイガ……」
    「好き」
    「もう! 待ってってばぁ~!」
     カケルは耳を塞いでぎゅっと目を閉じた。タイガはすぐに手を回して、カケルの手を耳から外させた。
    「なんで耳塞ぐの?」
    「だって、そんないっぱい『好き』って言われたら、おれ……」
     これ以上ないくらいに顔を真っ赤にしているカケル。自分の「好き」という言葉だけで、カケルがこんなにも顔を赤くするのが嬉しくなって、もっともっと伝えたくなった。
    「おれ、なに?」
    「うぅ…………」
    「好きだぞ、カズオ」
    「も、もぉ~!」
    「言葉にすんのも、悪くないな」
     それから暫く、タイガはカケルに「好き」だと囁き続けた。
     翌日、仕返しと言わんばかりにカケルはタイガに「愛してる」と囁いて、タイガの顔を前日のカケル以上に赤く染め上げた。
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