「あ、アレクサンダー」
「あぁ?」
洋服を買おうと、原宿に来て店を見ていたら、声を掛けられた。振り返るとそこには、フワフワ揺れるオレンジ色の髪。
「チャオ~! 偶然だにゃぁ!」
十王院カズオは、ヘラヘラ笑いながら俺と商品棚の間に回り込んだ。俺は伸ばそうとしていた手を引っ込めて、一歩引いた。
「何の用だ」
「何の用、って、会ったから声かけたんじゃーん?」
「話しかけんな。そんなチャラチャラした格好で」
「え、これいいっしょ?」
十王院カズオはそう言いながら襟元を直した。別に、服装が変なわけじゃない。似合っていないわけでもない。むしろデザイナーにオーダーしたのではないかと思う程似合っている。問題なのは、その服がアカデミー系見たいなデザインってことだ。
「こんなストリート系の連中が多い通りでそんな恰好してっと舐められるし、話しかけられてる尾でも舐められるだろ」
「いやいや、アレクサンダーが舐められるってことは無いでしょ」
クスクス笑って、なんだか機嫌が良さそうだ。俺は溜息を吐く。なんだかコイツの相手をするのは疲れるんだ。
「それに、おれっちだって舐められないよん。目つきの悪いボディーガードがついてるしね~」
言いながら俺の背後に視線を送る。そう言えばコイツ、ボンボンだったな。買い物するのにボディーガードを付けるなんて。どんな奴だ? 気になって振り返ると、なるほど、確かいに目つきの悪いボディーガードが立っていた。俺を凄い形相で睨みつけている。
「大和アレクサンダー! なんでおめぇがここに居んだよ!」
「ハッ! それはこっちのセリフだ」
「あぁ?」
不機嫌そうに声を荒げる香賀美タイガは、俺を睨んだままずんずんと近づいてきて目の前に立った。
「カズオに何してんだよ」
「何もしてねぇよ。どっちかというと俺がされた方だ」
「そうそう! おれっちが声掛けたんだよ~! 見覚えのある後ろ姿が見えたからね!」
「あぁ? デート中に他の奴に声なんかかけてんじゃねーよ!」
What でぇと、だと?!
「えへへ、タイガきゅんヤキモチだぁ!」
「笑ってんじゃねーよ!」
俺を挟んで会話をするのはやめろ。というか、なんだ、デートって!
「お、おい、お前ら……デートって……」
二人の顔を交互に見る。十王院カズオは相変わらず楽しそうだが、香賀美タイガは顔を真っ赤にしてあたふたしている。こんな表情もするのか。
「びっくりした? 俺っちたちお付き合いしてるんだよ!」
「ほ、他の奴にはナイショだからな……」
十王院カズオの言葉に、香賀美タイガが付け足す。
いや、正直どうでもいいから、いい加減俺を挟んで会話するのをやめてくれ。
「あ、そうだ、さっきタイガきゅんとプリクラ撮ったんだけど見る? いっぱいあるから、一枚あげようか?」
「いらねぇよ!」
俺はその場から離れてプリズムストーンに逃げ込んだ。慌てて逃げ込んだ俺を見た冷さんに「どうしたの?」と聞かれたが、俺は適当に誤魔化した。