Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    なつゆき

    @natsuyuki8

    絵とか漫画とか小説とか。
    👋(https://wavebox.me/wave/c9fwr4qo77jrrgzf/
    AO3(https://archiveofourown.org/users/natuyuki/pseuds/natuyuki

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍎 ♠ 🍴 🌳
    POIPOI 124

    なつゆき

    ☆quiet follow

    【ツイステ】輝石の国で同じ家に済む警察音楽隊の🐺と魔法執行官♠️の話。

    ピンクッション(https://poipiku.com/580868/7626615.html)→マリーゴールド(https://poipiku.com/580868/8103870.html)の後。他にこれ(https://poipiku.com/580868/9068386.html)とかを読むとわかりやすいかも。

    #ジャクデュジャク
    #ジャクデュ
    jacqudu

    最初の冬の日 鼻先を張り詰めた空気が掠めた。そこに冬の始まりを嗅ぎ取って、ジャックは思案する。
     今夜あたり、気温が下がって雪が降るかもしれない。
     ジャックの故郷に比べると頻度はかなり落ちるが、この輝石の国の首都でも冬の間雪が降ることは珍しくない。
     あたりを過ぎていくいつもの光景を見ながら、思考を巡らせていく。
     デュースのやつ、冬支度はできているのだろうか。
     腕のふりや呼吸を意識しランニングを継続しつつ、意識は同居人のことへと移っていく。
     デュースがこの国に転勤となり、住居を共にするようになってから数ヶ月。気心の知れた仲であったし、価値観も重なるところが多い。幸い、大きな衝突はなく日々を重ねてきた。
     ただ、彼の仕事である魔法執行官はかなりの激務である。
     毎朝のランニングは基本的にふたりの日課だが、昨夜帰りが遅かったデュースはジャックが起床して身支度を整えてもまだ眠っていた。初めてのことではないので、ジャックはひとりで走りに出ることにした。なんとなく物足りないのは確かだがこればかりは仕方がない。
     家の前に帰着し足を止め、スマホを見るが「走りに行ってくる」というメッセージは未読のままだ。軽く手足をストレッチしながら、まだ眠っているのだろうか、と考える。
     部屋に戻り、軽くシャワーを浴び朝食の準備をしたが、それでもデュースは起きてくる気配がない。普段は物音で目覚めるのだがここまで無反応なのも珍しい。覗いたデュース個人の部屋は、走りに出る前と同じ状況で、彼はまだ布団に包まっていた。寝かせておいてやりたい気もするが、さすがにそろそろ時間が不味い。共有しているカレンダーのアプリによれば、自分も彼も今日は普通に出勤である。
    「デュース?」
    「んん……今起きる……」
     寝起きの良い彼にしては珍しく、くぐもった声が聞こえる。それでも寝起きは良いので有言実行を遂げ、五分もしないうちに起き上がってきてもそもそと朝食を食べ始めた。デュースはたまに盛大な寝坊をやらかすときがあるが、少なくとも今日に関してはそうではなかったらしい。
    「朝食の準備、悪い……今夜の夕食は僕がやるから」
    「いや、いいぞ。その様子じゃ忙しいんだろ?」
    「今はそうでもないんだ。本当に」
    「ならいいが……そうだお前、厚手の布団や毛布、あるのか? 冬靴とかも」
     のろのろとデュースが顔を上げる。いつもより全ての反応速度が遅い気がする。まだ眠いのかもしれない、とジャックは思う。
    「あるぞ。向こうで使っていたのを持ってきてる」
    「こっちは薔薇の王国より冷えるぞ。冬靴も、雪や氷の上をしっかり歩けるものか?」
    「うーん、そう言われると自信がない……」
     デュースがやや気怠げに返事を返す。ジャックはそのどうにも精彩を欠く様子におい、と言い募ろうとしたが、デュースが「ごちそうさま」と皿を持って立ち上がった。時計を見ると、なかなかの時間になっていた。
    「昨日、残してきた書類があるから先に出る。夕飯、リクエストがあったらメッセージ送っておいてくれ」
    「ああ」
     会話は打ち切られ、ジャックは頷き、デュースの後ろ姿を見送るしかなかった。


    「この証拠品、魔法執行官の部署が追っていた事件がたまたまこっちの事件とつながっていて借りたものだったよな」
    「ああ。調書も作り終わったし、向こうに返却しないと」
     そんな会話が耳に入ったのは、昼休み近くになってからだった。
     今日は音楽隊の業務ではなく、警察官としての業務の日だった。音楽隊のメンバーたちが、練習ではなく広報や事務などを行なっている日、ジャックは交番勤務のシフトの穴を埋めたり、事件捜査を手伝ったりと便利屋のように扱われている。日によって求められることが違ったり場所によってしきたりが違ったり厄介なことも多いが、何でも卒なくこなせるジャックにとっては合っている働き方だった。
     今日は先日起きた事件の捜査本部が解散し、その後片付けに駆り出されていた。ジャックは会話の主たちのところに歩み寄ると「返却なら俺がしておきます」と宣言した。
     いくら事件捜査が終わったばかりと言っても、刑事たちは忙しい。願ってもない申し出だったのだろう、「本当か?」「ありがとう」と口々に礼を言われる。ジャックはいいえ、と返事をしながら少々申し訳ない気分になった。
     本当は、魔法執行官の部署に寄るついでにデュースの様子を見てこよう、という魂胆があった。
     なんとなく、今朝の彼の様子は平素と違う気がしたのだ。どこが、とは言い難い。もしかしたら気にしすぎかもしれないが、それならそれでいい。様子を見て、特に変わりがないなら一緒に昼食でもどうだと誘おう、と考える。
     警察署の隣の建物に、魔法執行官の部署はある。ジャックは証拠品を返却したらそのまま休憩に入ってよい、と許可をもらって、外に出た。
     受付で用件を告げる。証拠品の返却はスムーズに進んだ。空気も穏やかで、慌ただしそうな職員もいない。
    デュースの言通り、確かに今は忙しくはないらしい。合間に中を覗き込むが、デュースの姿はなかった。顔馴染みの魔法執行官と目が合ったので、デュースを呼んでもらえないか、と告げる。
     彼は怪訝な顔をした。
    「スペードは今日、休みだよ」
    「え?」
    「朝に電話が入ったらしい。伝聞だから、具体的に理由はわからないんだけど」
     ジャックは礼を言って立ち去り、廊下で立ち尽くす。
     わけがわからず呆然としていると、スマホにメッセージが入った。
     相手は監督生だった。受信したメッセージを読んでいるうちに、ジャックの眉が潜められていった。


     乱暴に鍵を差し込んだがうまく回らなくて、イライラとしながらジャックは解錠をした。鍵を引っこ抜く間も惜しんでドアを開く。
     足音を潜めることもなく、遠慮なくデュースの部屋へ侵入すると、ベッドにうずくまっていた彼はぼんやりと目を開けた後、驚愕に息をのんだ。
    「ジャック……? どうしたんだ、仕事は?」
    「早退してきた。お前こそ、仕事、どうしたんだ」
     硬い声で反論すると、デュースは沈黙した。その格好はの今朝服装の上着を脱いだだけというものだった。
    「たまたまお前の部署に行ったら、休みだって聞いた。そこに、監督生からのこれだ」
     ジャックはスマホの画面を見せた。そこには監督生からのメッセージが表示されている。

     ジャック久しぶり! 急にごめんね。ジャックのお家の住所、教えてもらいたいんだ。
     実はデュースに荷物を送りたくて。
     あのときの事件でエースもデュースもひどい怪我をしたでしょ。天気が悪かったり、寒かったりするとずいぶん痛むらしいんだ。在学中、寮で寝込んでるエースとデュースを見かねて、リドル先輩監修のもと、トレイ先輩が特別に調合した塗り薬を作ってくれて以来ずっとそれを使ってるのね。特に薔薇の王国は天気が変わりやすいから、雨が降るとしんどいみたい。卒業後もちょくちょく先輩たちのところにもらいに行ってたらしいんだけど、今デュースは遠いから難しくなっちゃったでしょ? 前に大丈夫なの? ってデュースに聞いたときに、輝石の国は天候が穏やかだから平気だって返事が来ていたんだけど、今日のニュースで輝石の国が急な冷え込みになるって聞いて、心配になったの。
     デュースに昨日の夜、住所聞いてたんだけど、返事が返ってこないからジャックに連絡してしまいました。よろしく。

     監督生のメッセージを一通り読み、デュースは視線を落とした。ジャックは低い声で問いかける。
    「……お前、先に出たふりして、家に戻って休んで、その後はどうするつもりだったんだ?」
    「……」
    「寝巻きには着替えてねえってことは、もしかして、少し休んだら仕事に戻るつもりだったんじゃねえのか」
     沈黙を肯定とみなし、ジャックは呆れたようにため息をつく。
    「身体が資本は警察官の基本だろう。調子が良くないならしっかり休むべきだ」
    「……わかってる」
     むすり、とした調子でデュースが言った。そこにある反抗的な響きに、ジャックの口から思わず「あ?」という声が出た。デュースはかまわず続け、ムキになった口調で言った。
    「自分のことだ、よくわかってる。監督生が言っている通り、薔薇の王国にいるときは雨が降ると調子が悪くなってたんだが、こっちでは本当にそうでもない。今日だって、念のため休んだだけだ」
    「急に気温が下がると、俺も骨折したときの傷が疼くことがある。今朝にかけてはだいぶ冷え込んだし、準備も不十分だっただろうが」
    「そんなことない。本当に、大丈夫だ」
     デュースは頑固に言い張るが、その右手が布団の端を不自然なほど握りしめている。心なし、目も潤んでいるし頬も赤い。
     ほらみろ、何が大丈夫だ、と言いかけてジャックは自分の勢いを押し留める。このまま大丈夫だ大丈夫じゃないだろうと水掛け論をし続けても収集がつかない。それこそ、同居以来最大の衝突になるだろうし、自分たちの場合表に出ろ、足の速さで勝負だ、などとやりかねない。どうもデュースは本当に調子が悪そうだし、ただただ悪化させるだけだろう。
     ふうー、とジャックは長めに息を吐いた。自分の部屋から仕舞っていた毛布を持ち出してきてデュースの部屋に運ぶ。デュースは身体を起こした姿勢のまま、ぼんやりとしていた。ジャックは彼の下肢に毛布を載せる。
    「もう少し寝てろ」
    「いや、でも、夕飯」
    「夕飯? まだ早いだろ。ていうか昼飯食ったのか?」
    「いや……あんまり食欲ない……」
    「じゃあやっぱり寝てろ」
     いずれにしろ、自分もデュースも少し時間を置いて頭を冷やさなければきちんと話し合いができないだろう。
     決然としたジャックの言い方に、デュースはあきらめたように頷く。
     それを確認し、扉を閉めるとジャックはもう一度ため息をついた。
     デュースが眠ったのを確認し、せっかく時間が空いたのだしと細々とした家事を片付け、夕飯の準備をしているうちにデュースが起き出してきた。どこかのタイミングで観念して着替えたらしく、寝巻きのスウェット姿だった。
     座れ、とテーブルを指し、彼の前に卵を落としたポリッジを置く。
    「……これ、監督生の作るポリッジに似てる」
    「レシピを聞いた」
     ジャックの短い答えに、デュースは目を細めるとスプーンを動かした。
     ジャックも同じものを幾分手早く食べる。デュースの食事のペースはゆったりとしていた。
     食事後、いくらか雰囲気がやわらかくなったデュースに、ジャックはソファに座るように促す。
    「熱出てそうだし、風呂はやめとけ」
     そう言うと、レンジで作った蒸しタオルを持って来る。「自分でやる」と言うのでタオルを持たせたが、表面をなぞるだけでちっとも力が入っていない。手を洗ってきて、デュースの隣に腰掛けたジャックは、瓶を持ってきた。中に白いクリーム状のものが入っている。
    「それ……先輩たちの薬?」
    「輸送じゃ何日もかかるから、魔法の鏡便、局留めで送ってもらって取ってきた」
    「え、郵便料金めちゃくちゃ高いだろう。監督生に悪い」
    「俺が持ったからいいんだよ。先輩たちからの手紙も付いてたぞ、後で返事を書くか、メッセージ送るかしてやれ」
     そう言いながらジャックは瓶の蓋を開け、塗り薬を指に取る。そしてもう片方の手でデュースの手を取った。デュースが憮然と言う。
    「……自分で塗れるぞ」
     ジャックはわざと、その言葉を無視した。デュースはぐ、と何かを堪えるような顔になった後、あきらめたらしくスウェットの袖をまくった。ひきつれた痕を中心に、塗り薬を塗っていく。傷のある部分は少し熱を帯びているようで、それを沈めるようにそっと触れる。
     促して、上も脱いでもらい、さらに背中も塗っていく。無言の時間が流れるが、不思議とふたりの間の空気は和らいでいった。
     デュースがぽつりと言った。
    「……その。仕事に行こうとしていた、わけじゃないんだ」
    「そうか」
    「調子が悪かったから休むことにしたんだが、ジャックが帰ってくる前に抜け出して、普通に帰ってきたふりをしようとはしていた」
    「……なんでまた」
    「だって、夕飯の当番は僕だろう」
     ジャックは思わず手を止めた。
    「はあ?」
     デュースはジャックを降り仰いで続ける。
    「ルールは守らないといけないだろ」
     ジャックは額に手を当てて唸った。
     朝食の準備はデュース、夕食の準備はジャック。交代してもらったら逆になる。それは最初に決めたルールだった。とはいえ、仕事を休むと聞いたらジャックは「じゃあ今日は夕飯も俺が作る」と言っただろう。だが、休むこと自体を隠そうとするか普通。いや、こいつ、ハーツラビュルだったな。もはや懐かしさすらある名前が頭を去来する。
     ジャックは瓶を起き、指を拭い、デュースの肩に脱がせたトレーナーをかけると、「あのな」と言ってその両肩に手を載せた。
    「お前にとって、ここは寮か? 俺はルームメイトか?」
     デュースは何を言われているのかわからない、という顔をしている。
    「俺は『優等生』と一緒に暮らしたいわけじゃねえ。ルールに縛られて無茶をやるなら、一緒に暮らす意味があるか?」
     逆に俺に同じことをされたらどうなんだよ、と言うとデュースは少し考えた後「嫌……だと思う。水臭いなって思う」とぼそ、と言った。
    「でも、ルールを守らないと、一緒に暮らすの嫌になるだろ。僕の方が帰りが遅いことが多いからいろいろやってもらってるのは本当じゃないか。今日も余った時間で洗濯とか、掃除とかやってくれてたし……」
     言い募るデュースに対し、ジャックは口もとがむずむずしてくるのを感じた。
    「まあ、そうだな。お前が気になるなら、年末の大掃除の分担を多めにやってもらうとか、考えるか。とりあえず今日のところは、お前が俺との暮らしを続けたい、と思ってくれてるのはよくわかった。だいぶ空回ってるけどな。だから、いい」
     この話はこれで終わりだ、と言って服を着るように促す。もそもそとデュースがトレーナーを着て、首回りから顔を出すと言った。
    「ありがとう、ジャック」
     ようやっと今日、デュースから笑顔が見られてジャックはほっとした。彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。やめろ、と騒いだ後デュースがにや、と笑った。
    「一緒に寝るか」
    「!?」
    「今夜は冷えるんだろ。毛布がジャックの一枚しかないから、一緒に寝た方がいいだろ」
    「……お前なあ」
     ジャックはため息をついた。
     所詮、己はこの男に振り回される運命なのだと思い知る。
     窓の外には細かな雪がちらつき始めていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖😍🍜🍱👰💗🎩💊🚪🚿☺☺🙏🙏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works