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    れき🦑

    @Re_kitchen

    R15〜R18の絵とかを極稀にブン投げます。

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    れき🦑

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    ウォの過去捏造話。ジンウォカの匂わせ有。
    ※モブが死ぬ!

    馬鹿ども。魚塚はいい奴だった。
    頭が良くて、地元で悪いことをする時は大体魚塚が段取りを考えて、俺達はそれに乗っかって実行するだけ。分け前も不満が出ない程度に分配するのが上手くて、何より安全だった。そう、魚塚は無謀なことをしなかった。思い切りも良く大胆ではあったが、必要最小限の動きとリスクで済むように計画を練っていた。俺達は高校もまともに通っていない阿呆ばかりだったので、魚塚の立てた計画に穴なんて無いと本気で信じていた。結果的に見れば、俺達は誰一人として警察に捕まりはしなかったのだから、その信頼は正しかったと言えるだろう。そういった思考停止の全幅の信頼を、魚塚自身がどう思っていたのかは、わからない。
    ただ、いつまでも順風満帆でいられたわけではないのは確かだ。呑気な俺達はまったく予想もしなかったことであるが、計画の穴というものは最初から開いているのではなく突発的に開くものであり、そしてそれは大抵気付くことが出来ないほど小さく、かつ致命的であることを、思い知らされる出来事が起こったのだ。

    俺達を捕まえたのは、警察ではない。
    もっと暗いところから伸ばされた腕であり、舌であり、目だった。




    <彼ら>が言うには、俺達が使用した車がいけないらしかった。
    タタキに入るために下っ端に用意させた盗難車のバンは、元々<彼ら>が仕事で使用するために手配した足のつかない車だったらしく、俺達がそれを盗んで余計な悪事を働いた上、車内に消化器をぶちまけてスクラップ置き場に放置したせいで急遽代車を用意するはめになったのだと言う。俺達が乗り捨てた車をわざわざ回収しプレス機で潰したと聞いた時は、そうまでして警察に車を調べられたくなかったのかと驚いたものだが、つまり俺達は意図せず<彼ら>の仕事を邪魔したのだ。俺達は困った。何せ<彼ら>は日本国内ではヤクザですら早々持ち歩いていない銃火器を遠慮なくちらつかせてくるし、金だって俺達がけちな盗みで稼いだ分を丸ごと渡したところで歯牙にも掛けないだろう。俺達の仕事は全国ニュースになるような大層なものではなかった。魚塚は目立つことを嫌っていて、少量を不規則に、が原則だったからだ。
    どうすれば許してくれますか、と率直に尋ねた気がする。俺達はとびきりの阿呆なので、こういった状況に何を差し出せば<彼ら>が命だけは助けてくれるのか、検討もつかなかったのだ。
    <彼ら>の内の一人──聞き間違いでなければ、アイリッシュと呼ばれたボスらしき男──が、呆れ果てたような溜め息をついた。男は、俺達にわかりやすく生きるための条件を提示した。

    「リーダーを差し出せ」

    考えるまでもなかった。




    <彼ら>は俺達を見逃してくれたが、解放してくれたわけではなかった。魚塚を売った次の日から、部下のそのまた部下、雑用以下の使い走り染みたことを、時と場所を問わず頻繁に命じられるようになった。あれを買って来いだとか、これを捨てておけとか、本当にくだらないことだ。当初は死の恐怖に怯えていた俺達も数年経てば扱いに不満が募り、終わりの見えない奴隷生活から足抜けを望む奴も出始めた。警察に走る馬鹿が出なかったのは、<彼ら>に対する恐怖からでなく、俺達自身が叩けば埃の出る身であったのが大きいだろう。俺達にとっては目先のぼやけた死の恐怖よりも、確実な懲役刑の方が恐ろしかったのである。それも踏まえて<彼ら>は俺達をとことん利用することに決めたのかもしれなかった。警察には行けない、しかし適当な土地に逃げてやっていけるほどの能力も無い俺達は、いつしか<彼ら>に反抗することを考え始め、そして半ば衝動的にそれを実行してしまった。
    <彼ら>との連絡係を殺して山に埋めたのである。
    発覚は早かった。どうやら連絡係は<彼ら>と定期的に連絡を取っていたらしく、それが途切れたことで早々に捜索が開始されたのだ。翌日の夜には、俺達は揃ってあの日と同じように薄汚い倉庫で手足を縛られて転がされていた。あまりにもあっけなかった。<彼ら>の手際はいっそ作業染みていて、命乞いをする隙すら与えてはくれなかった。
    床に放られて一時間ほど経った頃、倉庫にはあの時と同じ男が現れた。名前も覚えている。<彼ら>のボス、アイリッシュ。そしてもう一人。こちらは見知らぬ、関西弁の大男。
    「あーあ、ホンマに、ウォッカが可哀想や」
    「テキーラ。名前を出すな」
    「ええやろ別にぃ。こいつらホンマもんのアホやで。気付かんて」
    大男はテキーラというらしい。アイリッシュに敬語を使用していないということは、ひょっとしてこの男がボス、もしくは右腕なのか?
    そして、ウォッカと言った。覚えのない名前だ。気付かないとは何のことだ? 可哀想とはどういうことだ?
    「自分ら、何でこうなったかわかっとるんか?」
    テキーラの問いかけに答えたのは俺だ。連絡係を殺して埋めたことを伝えると、テキーラは寒気がするほどの冷えた眼差しで俺達を睥睨した。何か間違っていたのだろうか。今まで<彼ら>の指示に逆らったことはなかったし、失敗したこともなかったはずだ。罪が思い当たらずに困惑していると、テキーラはアイリッシュに向き直って噛み締めるように言った。
    「アカン、アホほどイラついてきたわ」
    「今回の件が引き鉄ではある」
    「いーや、自分達が何で生きてるかもわかっとらんでこいつら。想像力全部オカンの腹の中に置いてきたんとちゃう?」
    二人が何の話をしているのかわからない。俺達が生き延びたのはあの日リーダー──正確には俺達にリーダーはいないのだが、魚塚の役割がそれを担っていたのは確かなのでそう定義する──を<彼ら>に差し出したからだ。他に何か心当たりのある奴がいるのかもしれないと思い、頭を持ち上げて仲間を見渡しても、誰一人として詳細を把握出来てはいないようで、それどころかテキーラの暴言に憤ってすらいるようだった。俺達は、ほんとうに頭が悪い。
    「わからないか?」
    アイリッシュの妙に優しい問いかけに、全員で頷く。テキーラが不愉快そうに唾を吐いた。
    「自分らのリーダーやったウォ……魚塚クンいるやろ」
    俺達にとっては『いる』ではなく『いた』なのだが、ここで口答えをしたら間違いなくテキーラの右手に握られている銃が火を吹くであろうことは明白だったので、大人しく頷くだけに留める。

    「生きとるで」

    衝撃的な事実に、何の反応も返せない。だってそれは、ここ数年の生活の前提を覆す言葉だ。
    なぜ? 疑問を抱いたまま硬直していると、アイリッシュが組んでいた腕を解いて、話を補足した。
    「あの日、お前達とは別の場所ですでに魚塚は捕まえてた」
    奇妙な話だ。誰かが素直に「じゃあ何で」と尋ねる。俺も同じことを考えた。
    じゃあ何で、<彼ら>はリーダーを差し出せなどと言ったのだろう。
    「アイリッシュ〜!」
    「……お前の言う通りかもな」
    手をわきわきと動かして青筋を浮かべるテキーラに、至極冷静なアイリッシュが僅かに呆れを滲ませた声色で同調を告げる。
    もうずっと、わけがわからない。魚塚を捕まえていた? なら俺達に差し出せなどと言わなくてよかったはずだ。それに、魚塚が生きているというのもわからない。あの日以降、俺達の元に魚塚から連絡が来たことは無い。姿も見ていない。あの日の<彼ら>は俺達のしでかしたことに大層立腹していたので、てっきり俺達を生かす代わりに魚塚を殺したものと信じて疑わなかったのだ。
    「ジンは連れて来なくて正解やったわ。こんなんにウォッカが構ってたなんて知ったらブチギレるでホンマ……」
    テキーラがごちる。ジン。新しい登場人物だ。いや、それより、ウォッカという男は俺達に何か関係があるのだろうか? もしかしたら、件の連絡係の男がウォッカというあだ名だったのかもしれない。だとしたらやはり、それを殺してしまったのが罪だろう。しかし、先ほどその答えは直々に否定されている。堂々巡りだ。
    俺達が未だに要領を得ない顔をしていることに、もはや怒りも湧かないらしいテキーラは出来の悪い子供に言い聞かせるような声で真実を告げた。
    「自分らが生きとるんはウォ……魚塚クン、の頼みや。あいつらアホやけど言われたことは出来る、下っ端でええから生かしてやってくれってこのアイリッシュに頭下げたんや」
    二度目の衝撃だ。俺達のリーダーの魚塚が頭を下げたからと言って、なぜ<彼ら>が大人しく聞き入れているのだろう。
    「魚塚は俺達と一緒に働いてる。使い走りのお前達とは比べものにならねえ地位でな。使える奴だったからだ。だから頼まれてやった。おつかいレベルのことしか出来ねえお前達を飼い殺すのは無駄な手間でしかなかったが……指令に逆らったり失敗するようなら、もう処分に文句は言わねえって条件だった。そして今日だ。つまり、まぁ、自殺だな、お前達は」
    「使えるんもそうやけど、完全にジンが気に入ってしもたからなぁ。あいつ、あんな状態のウォ……魚塚クン、持ち帰りよって」
    「あいつ、意外と根性ある奴が好きだからな」
    「その根性がこのカス共に発揮されてたってなったらま〜我慢ならんやろな。……なぁ自分ら、何で魚塚クンは高待遇なんやと思う? 自分らがクソみたいな小間使いしかさせられとらんのに」
    テキーラが革靴のヒールを床に叩きつけるようにしてこちらに歩を進めた。まるで死が人の形になったかのような、泣き出したくなる恐怖が迫ってくる。
    なぜって、そんなのわからない!
    アイリッシュに助けを求めるように目を向けると、彼は彼で部下らしき黒スーツの男達に何やら指示を出していた。小さく頷いた男達が俄かに小銃を構えたのを見て、俺達は、俺は、いよいよ助からないことを悟った。今更だ。ここまで追い詰められないとわからない。テキーラの言うことは最もだ。俺達は、想像力が無い。それでも嫌だ。死にたくない!
    「あいつ、何考えてこんな猿以下のアホ共と付き合うとったんや。ハイエナどころか寄生虫やんけ」
    「切るに切れなかったんだろ。付き合いが長けりゃ理屈じゃ処理しきれねえ情も湧く。特に組織に入る前の縁ならな」
    「ま、ジンは喜ぶやろな。これで正真正銘あいつだけの……」
    テキーラは最後、何と言ったのだろう。あいつだけの……? よく聞こえなかった。こういう時は通常、感覚が鋭くなったりするのではないのか。走馬灯も見ていない。ただ心臓が痛いほどに鼓動している。
    ついに俺の眼前に到達したテキーラの大きな革靴に視界を塞がれたが、左の米神に感じる無機質な感触に悲鳴をあげそうになる。突きつけられるのは生まれて初めてだが、これは紛れもなく銃口だ。
    死にたくない。死にたくない!
    コントロールを失った感情が溢れ出る。涙が床に流れ、嗚咽が喉を震わせた。
    「ホンマに、ウォッカが可哀想やわ。こんなんのために……」
    助けて。
    確かにそう口を動かしたが、額から悪魔の気配は消えてくれない。
    「……魚塚クンなぁ、あの日、別の場所でな、拷問されとってん」
    冥土の土産に教えたるわ。そう言われた気がする。本当に?
    ああ、その魚塚がいてくれたら、こんなことにはならなかったのに。
    でもそうか。俺達が売ったんだった。死にたくなかったから、しょうがない。そうだろ?
    俺達は悪くないよな? 仕方ねえなって笑って許してくれるよな? お前だって俺達を売ったけど、お前は頭が良くて何でもそつなくこなせて使える奴だったから、生き延びられたんだよな? その後に頭を下げて俺達のことも助けてくれたんだよな? ありがとう魚塚。だからまた助けてくれ。お前と一緒にタタキやってる時が、一番良かった。全部上手くいってた。何でもお前がやってくれた。お前といると楽だった。口を開けてれば金が入ってくるから、俺達は、俺は、どんどん馬鹿になっていった。
    だから……。

    「魚塚クン、自分らと違ってジンに両足折られても自分らのこと、売らんかったんやで」




    馬鹿ども。
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