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    7AM_ym

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    竜のルーツ③没シーン

    竜のルーツ③没シーン 部屋の奥には、磔の刑よろしく両腕を開いて壁に背をつけて立っているカクの姿があった。
     なんというか、らしくない光景に何をしているんだろうと首を捻る。
    「ねぇカク何してんの?」
     問いかけたが答えは帰ってこない。
     いや、正しくはカクは何か言おうとしていた。しかし、口の前には何やら小さなぬいぐるみのようなものが張り付いており、言葉を発すことができないようで一体どういう状況なんだと益々疑問が積みあがる。全くふざけている場合か。とりあえず怒るのは事情でも聴いてからかと部屋の中へと足を進めると、部屋の中は薄暗いせいで足元が見えなかったせいか、足を進めているうちに何かを踏んづけたらしい。足裏にぐにゅ、と何か踏んづけたような感覚が伝わる。
    「ぐにゅ?」
     私がそう呟いた瞬間、向かいに立つカクの口からぽろりとぬいぐるみのようなものが落ちて、切羽詰まったような「っアネ!後ろじゃ!!」というカクの声が響いた。
     薄暗い中でもくっきりとした黒い影が私を飲み込まんばかりにぬうっと伸びる。カクが向けた言葉に引っ張られるように振り返った私は、視線の先にいるそれに目を大きく見開いた。
    「…で、…っかいぬいぐるみ…?!」
     視線の先には自分よりもうんと大きなツギハギだらけのクマが立っていた。クマは此方に向けて幾多の布を重ねたツギハギの腕を振りあがると、間髪入れずにぶんと振り下ろす。動きの自然さに、中に人間でも入っているのだろうかとも思ったが、咄嗟に伸ばした尻尾で薙ぎ払ったときになにか芯を捕えるような感覚がなく、腕を弾かれたぬいぐるみは後ろに大きくのけ反った。
     大きくのけ反ったということは一瞬の隙が生まれたということ。ここで、もう一発追撃を重ねても良いが、逆に攻撃を仕掛けられて背後にいるカクに当たる可能性を考えると無理は出来ない。のけ反っているぬいぐるみを背に、壁に拘束されたカクの方へと駆け寄ったが、丁度同じタイミングで拘束が解かれていたらしい。壁から体を離したカクの眼差しが、のけ反っているぬいぐるみを捕えてきつく睨みつけていた。
    「おっと、助けは必要なかったかな。」
    「いいや、助かったわい。あのぬいぐるみ、何やら能力を持っておるようじゃ。」
    「ふうん、カクにしては随分と素直にやられちゃったんだねぇ。」
    「まだやられてないわい。不意打ちを食らっただけじゃ。」
     口をへの字にするカク。相変わらず負けず嫌いだと笑いながら、手に持っていたバインダーを足元に押した私はこの部屋を全体像を把握すべく目を動かしたが、やはり他の部屋とは変わらない広さのように思う。
    なのに、この部屋にだけこのぬいぐるみがいるのは偶然か、それとも何かを守ろうとしているのか。まぁその答えはぬいぐるみを倒さないことには分からないので、隣に立つ彼に向けて「そういえば此処での戦闘はいいの?」と問いかけてみると、カクは「修繕可能な状況であれば、じゃな。」と含みを持たせて呟く。
     此処が雪山の頂点で、さらには人間がたどり着けない城であることを考えると、修復可能というハードルは一気に高くなる。すなわちそれが意味することは、なるべく物を壊してくれるな、ということだろう。
    「それじゃあカクはキリンさんになれないねぇ。」
    「そうじゃのう。お前も竜化は翼や尻尾に留めてくれ。」
     ああ、厄介だ。なるべく物を壊してくれるなと言うならば中途半端な力しか使えないじゃないか。それこそ我々が得意とする嵐脚は駄目だし、かといって相手の反撃による被害も最小限に抑えなければならない。そうこう考えているうちにも大きくのけ反っていたぬいぐるみがもたりと頭を揺らしては、こちらにキョンシー宜しく両腕を此方に向ける。
     なんだ、何が起こる。私たちはぬいぐるみを見る。しかし、待てど暮らせど此方に向けて何かを放たれることも、突進することもなく、気づけばなぜか私の右腕はカクの左腕とぴったりくっついていた。
    私たちはお互いに顔を見合わせる。
    「…アネ、なんじゃこんな時に」
    「え?そっちこそ急に何よ」
    「先にくっついてきたのはお前じゃろう」
    「ええ?そっちが先でしょ」
    理不尽に怒られて目を瞬かせた私は離そうと腕を引くと、彼の腕がついてくる。
    まるで、そう、接着剤でもつけられてしまったかのように。
    「……ははーん、これが能力ってわけ。」
    「厄介じゃのう…」
    「どうする?」
    「どうするもこうするも、これでやるしかないじゃろう」
    「んはは、共同作業だねぇ。」
     しかし、私とカクではおよそ30センチの身長差がある。そんな状態で腕がくっついているということは、カクが手を上げると私は背伸びをしなければいけなくなるわけで、カクは腕を上げ下げして私が背伸びをする様子を眺めては、「やりづらいのう」と渇いた笑いを落とした。
     ぬいぐるみがのそりと動く。地を蹴るようにというよりも、一歩一歩踏みしめるようにのしのしと近付いてくるぬいぐるみはスピードが出ていないものの、逆にそのゆっくりさが妙に気持ち悪い。一体何を企んでいるのかも分からないと、カクとアイコンタクトで合図を送り、芸も無く先ほどと同じように腕を振り上げるこちら側に振り下ろすぬいぐるみに向けて左足を踏み込んで、右足をしなる鞭のように払う。嵐脚未満で留めた蹴りはぬいぐるみの腕を払うと、もすりとぬいぐるみの体はもう一度のけぞって、左に踏み込んだ軸足と同じく左に傾いた私の体を隣に立つカクが受け止めた。


    ######


    背中合わせにくっついたり腕がくっついても、意外と戦闘できちゃう二人を書きたかったんですが、①で🦒の体調不良描写を入れた割に回復が早すぎるのでぼつにしました。
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