「また毛繕いか」
「毛繕いなんですかこれ」
「ぽいけどな」
心操はそれ以上何も言わず、今や師と並ぶほど器用に捕縛布を扱う利き手を、相澤の癖毛を一房一房撫で付けるのに従事させた。
最近の心操は何くれと相澤を身綺麗にしようとしてくる。ろくに手櫛もされない長髪が乱れていれば恭しく整え、シャツの裾が臍回りで蟠っていればインナーから直そうとし、切りっぱなしの爪にやすりを掛けようと提案してくる事もあった。こんなおっさんを綺麗にしてどうする、と相澤が呆れたように言えば、綺麗にしたいのとは違う、ときっぱりとした答えが返ってきた。その度相澤は、何が違うのだろうと首を傾げた。
心操はおそらく、相澤を円くさせたいのだった。
苛烈な生き方をしてきた相澤は、身なりに気を遣わないのも相まって、他を寄せ付けない印象が強い。でも心操は、そうでない相澤を知っている。
今も心操は、素手で適当に観葉植物の世話をした相澤の指先を手入れしていた。指紋に入り込んだ土くれを丁寧に石鹸で落とす。爪の溝の微細な汚れを取り除けば、境目の皮膚がふっくらして見えた。弾力があり、血が通っていた。