現代AU 双聶「しばらくの間、泊めてくれない?」
可愛らしく小首を傾げて見せたその姿は、そこらの女子と遜色ない、と言っても過言ではない程少女めいていて、なるほど、思春期真っ盛りの男子学生であればワンチャンス何かを期待してしまいそうなほどであった。
かくいう江澄も男子学生には違いないのだが、そんな気が起きないのは、まず第一に江澄には付き合い始めたばかりの恋人がいて目の前の相手には全くそんな気持ちが湧き上がらない、ということ。
第二に、相手が江澄にとって数少ない友人の一人であること。
そして最後に、目の前でかわい子ぶった彼が猫の皮を被った猛獣である、という事実を知っていること。
「それで、一体何をやらかしたんだ?」
面倒そうな気配を感じつつも、追い出す、という選択肢を持たなかった江澄は、とりあえず家の中へと招き入れながら、そう尋ねた。
大きなキャリーケースと旅行鞄。それから通学時に使っているリュックと、一体どれだけ居座るつもりなんだ、という程の大荷物姿の同級生。聶懐桑。
彼は、えへへ、といった様子で困ったように笑った後、口を尖らせる。
「だって、大哥が……」
やはり、兄絡みか……、と内心溜息をつきながら、江澄はよろけそうになっている懐桑の荷物を持ってやる。
また兄弟喧嘩したのだろう。
懐桑が兄弟喧嘩するのは初めてではなく、その度に昼休憩や放課後、彼の愚痴に付き合わされてきたのだ。
帰りたくないと駄々を捏ねる懐桑を家に泊めたのも一度や二度ではない。
しかし、これだけの大荷物でやってきた、ということは、今までとは少し様子が違うようだ。
長期戦を覚悟しなければならないな、と江澄は今度は声にだして溜息をついたのだった。