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    sky0echo

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    sky0echo

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    交流会で上げる予定だった龍豹パロの没ネタ
    オール没にして描き直した
    めちゃくちゃ中途半端なとこまでしか書いてない

    没ネタ 龍の子供は、親の腹の中で一年から二年の月日を過ごす。
     この期間の開きは、いわゆる母体が胎生の種族か、卵生の種族か、といった違いに起因するらしい。たとえば、鳥や蛇の一族であれば、元々卵生の種族の為、龍族と同じように卵を産む。その為、一年足らずで出産する。しかし、これが犬や猫のように、胎生の一族であれば、一年半ほど時間をかけてようやく出産となるらしいのだ。
     要は、体が卵を産み落とす為の器官が備わっているかどうかの違いらしい。それに加えて、男であれば元々出産の為の器官などない為、もう半年ほど時間がかかるという。
     江澄は胎生の種族で、しかも男なので、おそらく妊娠してから実際に卵を産み落とすまでには、二年ほどかかるであろう、と言われていた。
     二年の妊娠生活とは長いな、とのんびり構えていた江澄であったが、自身の考えがひたすら甘かったことを臥牀の上で思い知らされる羽目になった。
     懐妊する数カ月前、これが悪阻というものでは? と思っていたものは実際全然大したことではなかったと、妊娠してから江澄は理解した。思い知らされたと、言い換えても良い。核が出来た為に、もたらされた体調不良など、屁でもなかったのだ。
     なぜなら実際に懐妊し、とてもあの時とは比べ物にならない程の体調不良に江澄は悩まされていた。
     吐き気、頭痛、それから眩暈。とにかく食べ物を受け付けられない。匂いを嗅ぐだけで吐き気を催し、口に含もうものなら、胃の中を全て空にする勢いで吐き続けてしまう。それから、聴覚が過敏になり、木々の葉音や小鳥の囀りですら煩わしく、頭痛の原因となる。立ち上がることも起き上がることも出来ない。
     世の女性がこれを経験しているのかと思うと、本当に頭が下がる思いだ。
     お腹の子供の為にも、何か食べなければと思うのだが、雲深不知処の薄味の精進料理でさえ、気持ちが悪くなって食べられない。
     水を口にするのがやっとで、代わりに藍曦臣から霊力を送ってもらう日々。
    「……すまない」
     臥牀に横たわり、藍曦臣に手を握られてじんわりと送られてくる霊力を感じながら、江澄は小さな声で謝罪した。
     すると、藍曦臣は気にしなくて良い、と言って江澄の頭を優しく撫でる。ほとんど臥牀で寝たきりの江澄を心配して、藍曦臣は寒室に仕事を持ち込んで日々の執務をこなしていた。なるべく夜狩りも門弟や弟夫夫に任せているようで、寝たきりの江澄に合わせて部屋にこもる毎日だ。それが嬉しくもあり、申し訳なくもある。
     そんなある日のことだった。
    「江澄。生姜湯を用意したのですが、飲めそうですか?」
     藍曦臣は、そう言って、湯飲みを持ち臥牀の側までやってきた。
     今朝もせっかく用意してくれた、朝餉の粥を一口すすって吐いてしまったので、江澄はぐったりと臥牀に横たわっていた。
     くんくんと鼻を鳴らすと、生姜の独特のにおいが鼻腔をつく。食べ物の匂いは嗅ぐと気持ちが悪くなってしまうことが多かったのだが、不思議とそれは気分が悪くならなかった。
     体を起こそうとすると、藍曦臣はさっと臥牀の横にある棚に、湯飲みを置いて、江澄の体を支えてくれる。
    「ありがとう」
    「どういたしまして。……気持ち悪くない?」
     心配そうに尋ねてくる藍曦臣に、江澄がゆっくりと頷くと、彼はそっと江澄の手に湯飲みを持たせた。
     恐る恐る口に運ぶと、それはほんのりと甘かった。
     こくこくと少しずつ飲めば、ぽかぽかと体の内側から温まっていくような気がする。
    「……美味しい」
    「良かった。……飲みやすいように、蜂蜜を混ぜてみたのですがどうですか?」
     甘さの正体がわかった江澄は、藍曦臣に美味しい、と頷いて見せた。
     雲深不知処は、すっかり冬が訪れていて、室内には火鉢が置かれていたが、それでも朝夕は随分と冷える。生姜は体を温めてくれるし、そういう意味でもちょうど良かった。
    「さっぱりして、飲みやすい。……これなら飲めそうだ」
     体が冷えないようにと、綿がたっぷりと入った羽織を江澄の肩にかけてくれる藍曦臣にそう言うと、彼はほっとしたような表情をした。水以外何も口にできない江澄を酷く心配していたから、少しでも口にできたことで安心したのだろう。
     藍曦臣が、江澄を思ってわずかでも口に出来るものを、と色々考えてくれたことがとても嬉しい。隣に座った藍曦臣のわずかに触れる肩から、感じるぬくもりが温かくて、少し照れ臭い。
    「ありがとう……」
     今だけ、と言い訳してすり寄るように肩に頭を乗せると、藍曦臣はきゅっと抱きしめて尾を絡めてくれた。


    ***


     それから数カ月は、ほとんど藍曦臣が作ってくれた生姜湯を飲んで凌いだ。たまに、果実を絞って入れてみたり、すりおろしてみたりと、江澄が少しでも何か口に出来るように藍曦臣は精一杯工夫してくれた。勿論それだけでは、栄養が足りないので、当然のように霊力を注いでもらっていたのだが。
    「う……、おぇ……」
     臥牀横に置いた桶に、気持ちの悪さを吐き出していると、魏無羨が背中をさすってくれる。
    「大丈夫だからな、江澄。無理に我慢するなよ」
     藍曦臣は、どうしても外せない宗主としての仕事があり、出かけている間、代わりに魏無羨が江澄の世話を買って出たのだ。一人でも問題ない、と江澄は主張したのだが、心配性の藍曦臣が一人にさせるのを嫌がったのだ。
     それなら師弟の思追で十分と言ったのだが、いざという時に思追一人では対処できないかもしれない、ということで魏無羨が付くことになった。
    「魏嬰、替えの桶を持ってきた」
     そして、当然のように魏無羨の道侶、藍忘機もそこにいた。
    「藍湛! ありがとう。そこに置いておいてくれ」
    「……うぅ、……お前達、いつまでいるつもりだ?」
    「兄上から、江殿の世話を任されている」
    「沢蕪君が帰ってくるまではいるよ」
     自らの醜態に顔を顰めた江澄が、二人に尋ねると双方から答えが返って来る。正直一人にしてほしいが、この様子では帰りそうにない。
    「もし、お前が一人になって、倒れていたら大変だろ? まだ安定期に入ってないんだし、何かあったらことだ。嫌かもしれないけど、諦めて世話されておけって……」
     背中を優しくさする手を止めずに、からからとした様子で魏無羨はそう言った。弱っているせいか、優しさが身に染みる。不覚にも少し泣きそうになった。
    「本当は吐き気止めの薬とか出してやれたらいいんだけど、安定期に入る前はやめておいた方がいいらしいからさ……」
    「わかっている……、ぅ……、迷惑をかける」
     視線を逸らしてそう言えば、魏無羨は一瞬きょとんとした顔をした後、くしゃっとして笑った。
     そんなこんなで半年が経過し、ようやく固形物も多少は食べられるようになった。あまり量は食べられないが、味の薄い汁物や果物くらいは口に出来るようになった頃、母と姉が見舞いにやって来る、との文が雲深不知処に届いた。
    「阿澄。大丈夫?」
     懐かしい姉の優しい声がして、江澄は臥牀から体を起こした。
    「姉上」
     扉の向こうに声をかけると、すっと襖戸が開いて姉と母が姿を表した。
    「江澄。全く貴方という子はっ……」
     開いてそうそう母は眉を吊り上げて、江澄を𠮟りつける表情だ。思わず体を竦めた江澄だったが、母はきゅっと江澄の鼻をつまんだかと思えば、それ以上は何もせず黙って江澄が横たわる臥牀に腰かけた。それから優しくそっと体を倒すように促される。
     母の様子に目を白黒させると、助けを求めるように姉を見た江澄だったが、姉はそんな二人の様子がおかしいようでくすくすと笑っている。
    「は……母上……、あの」
    「貴方は、全く手紙を出すなんて一体どの口が言ったのかしら」
     きゅっと眉をしかめた顔は、怒っているようではあったが、本気で怒っているというよりは心配半分、拗ねている半分、そんな様子であった。言われてみれば、結婚後は藍曦臣とのドタバタで手紙を書く余裕はなかったし、落ち着いた後は手紙のことなどすっかり忘れていた。姉が出産の時に、連絡をもらって顔を合わせたものの、その際にやけに母の機嫌が悪い、と感じたのはどうやらそれが原因らしかった。
    「その……、申し訳ありません」
     申し訳なくなり、しゅんとなった江澄だったが、母は怒ったような顔だったが、優しく江澄の手を握る。
    「次からちゃんと手紙を書きなさい。……こんなに痩せて。ちゃんと食べているの? 全く……」
     心配からの小言が長々と続いたが、途中姉に諫められた母は不承不承といった様子で口を噤むと持ってきた包みを江澄へ手渡した。
    「これは……?」
     開いてみると蓮の実が零れ落ちるようにして出てきた。何だか懐かしくなって、行儀が悪い、と思いながらも横になったまま、一口摘まむ。仄かな甘みが広がって思わず江澄の表情は綻んだ。
    「蓮の実は滋養に良いわ。悪阻が酷くてあまり食べられないのでしょう? 霊力に頼るのも良いけれど、それだけではよくないわ。これならクセもないし、食べやすいでしょう」
    「ありがとうございます。母上」
    「厨房にも沢山届けてあるから、旦那様と一緒に食べてね。阿澄」
     姉の言葉に頷くと、母は立ち上がった。
    「もう行くのですか?」
    「あまり長居しては、貴方の体に良くないわ。また近い内に来るからそんな顔しないの」
     そっと頭を撫でられて、こそばゆさを感じながらも寂しさを覚えた。そんな江澄の様子を察したかのように母に抱き締められる。
    「また近い内に来るわ。体を大事にして。阿澄」



    一年が経つ頃には、ようやく体調も落ち着いて普通に食事もとれるようになった。龍の卵はとても小さいらしく、腹は全く膨らまないのが少し不思議だったが、臍の下に現れた巻雲紋は、ときおり青白く発光し、脈打っていた。それがまるで小さな命の息吹のようで、いとおしい。
     一年が過ぎた後は、特に大きく体調を崩すこともなく順調に日々を過ごしていた。そうして、江澄はその日を迎えた。
     懐妊している際は何もしていなくても疲れて、眠くなることが多かったのだが、その日は朝からすっきりと目が覚めていた。
     姑蘇藍氏お抱えの産婆の話では、そろそろ出産(という名の産卵)時期なので、体調の変化には気をつけろ、と言われていた。別に体調が悪いわけではないし、問題ないだろう、と結論付けた江澄は、立ち上がって着替えを取ろうとして、ふと違和感に気付いた。
     何かが足を伝う感触があったのだ。
     違和感を覚えて視線を下げれば、ぽたぽたと水滴が落ちて床を濡らしていた。慌てて、その場に座って衣を捲れば、江澄の下半身から透明な液体が零れているのだ。手で触ってみると、わずかに温かく、しかし粘度はなくさらさらとしていた。
     くんくんと触った指を嗅いでみるが特に匂いもない。
     感覚があまりないので気付かなかったが、どう考えても後孔から漏れているのだろう。
     何かの異常だろうか、どうしたら良いのだろう?
     焦っているうちに、みるみる内に、床には水たまりが出来ていく。
    「江澄? 起きているのですか?」
    「曦臣っ……」
     物音で気付いたのか、部屋に入ってきた藍曦臣は、床に座り込んだ江澄に驚いて慌てて近寄って来る。
    「どうしたのですか? どこか具合が悪い? けがは?」
     矢継ぎ早に尋ねてくる藍曦臣に、江澄は首を振った。
    「体調は平気だ、ただ……、足の間から液体が……」
     江澄が視線を下げるのに、合わせて藍曦臣も彼の下半身を覗き込めば、そこには透明な液体が水たまりを作っていた。体内から出てくるには、尋常じゃないほどの量に、藍曦臣も険しい表情を見せる。
     しかし、すぐに江澄を安心させるように、微笑むと彼の体を抱えてそっと臥牀に戻してやる。
    「曦臣、これじゃあ、臥牀が……」
    「気にしなくて構いませんよ。それよりも体を冷やすと大変です。すぐに産婆を呼んできますので、少し待っていてください」
     布団をしっかりと、江澄の体にかけてやると、藍曦臣はさっと部屋を出て行った。一人取り残された江澄は心細さを感じつつも、すぐに戻って来る、という彼の言葉を信じて布団に包まった。
     すると、一柱香もしないうちに、藍曦臣は戻ってきた。
    「思追と会ったので、彼に産婆を呼んで来るように頼みました。恐らく産気づいているのでしょう。横になっていて」
     臥牀の上に腰かけていた江澄の体をそっと倒した藍曦臣は、不安そうな様子の彼の頭をそっと撫でてあげる。その間も股の間からはたらたらと足を伝っていくように液体が零れている。そのうちなんだか、腹の奥がうずくような気がして変な心地だ。
    「はぁっ……、しーちぇ、なんか、変……」
     じくじくと痺れるような淡い感覚に腹がきゅうっと締まるような感覚があった。心臓が徐々に激しく脈打って全身が熱くなってくる。妙な感覚を何とかしようと体を丸めると、衣服が擦れる感覚にびりびりとした痺れを感じた。
    「ぅ……ん、っ……」
    「阿澄⁉ 大丈夫ですか?」
     焦ったように尋ねる藍曦臣に、なんとか頷いてみせる。そうこうしている間に、思追が産婆を呼んできたようで外で声がした。
    「沢蕪君、産婆を呼んで参りました」
    「入ってください」
     藍曦臣が外へ向かって声をかけると扉が開いて、年老いた老婆が入って来る。この雲深不知処で何人も診て来たベテランの産婆だ。
    「阿澄は……」
    「問題ないよ」
     心配そうに尋ねた藍曦臣に、産婆は江澄の様子を見るとすぐにそう答えた。その様子にホッと息を撫で下ろす。
    「産気づいているね。この様子じゃ、あと一時辰かそこらで顔を出すはずだよ」
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    sky0echo

    PROGRESSpixivにあげている曦澄
    空蝉の続き
    多分pixivにあげられるのはまだまだ先
    推敲中なので、直すとこかいっぱいあると思うけど
    とりあえずモチベをあげたいので、応援してほしい()
    泥濘に微睡む② かつて訪ねた不浄世は、良く言えば質実剛健、明け透けに言ってしまえば飾り気がなく質素、無骨な印象を持った屋敷だった。しかし、今はどうだろう。美しく繊細な色合いの花瓶がそこかしこに飾られて、季節折々の花が生けられている。調度品も茶器も決して華美ではないが、一目見て品の良さが分かる逸品揃いだ。
     雅事に造形の深い聶懐桑が宗主となってから、不浄世は少しずつその姿を変えているように思えた。かと思えば、時折以前のような無骨な姿を現す一面もあるからにして、きっと彼は兄の面影を残しつつ、この地を美しく彩っているのだろう。兄が愛した土地を、弟もまた愛しているに違いない。
     清河の地で開催された清談会。姑蘇藍氏宗主として、此度の清談会に藍曦臣は参加した。ここ数年、閉関していた藍曦臣は清談会を叔父の藍啓仁に任せることが多かったのだが、閉関を解いた今、いつまでも叔父に甘えるわけにはいかないだろうと、今回は自身が参加することにした。供をつけようか、と案じる叔父の言葉を断ったことに深い意味があるわけではなかったが、だが、供がいてはあまり自由に彼を訪ねられないかもしれない、という私情があったことは否定できない。
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    recommended works

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    PROGRESS長編曦澄14
    兄上おやすみ、猿です。
     江澄の私室には文箱が二つあった。
     蓮の飾り彫が施された美しい文箱には、私信を入れている。主に金凌からの文である。もう一方、水紋で飾られた文箱は最近になって買い求めたものであった。中には藍曦臣からの文が詰まっている。この短い間によくぞ書いたものよ、と感嘆の漏れる量である。
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     やはり金鱗台での、あの八つ当たりはいけなかったか。あの時は正当な怒りだと思っていたものの、振り返れば鬱憤をぶつけただけの気がしてしかたがない。
     藍曦臣に呆れられたか。
     だが、そうとも断じきれず、未練たらしく文を待ってしまう。あの夜の藍曦臣の言葉が本気であったと信じたい。
     大切な友、だと言ってもらえた。
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    DONEプライベッターから移動。
    TLで見かけて可愛くて思わずつぶやいたカフェ曦澄の出会い編。
     その日、藍曦臣がその店に入ったのは偶然だった。
     一休みしようと、行きつけの喫茶店に足を向けたが、残念ながら臨時休業だった。そう言えば前回訪れた際に、店主が豆の買い付けのためにしばらく店を休むと言っていたことを思い出す。それがちょうど今月だった。休みならばまっすぐ家路につけばよかったのだが、喉が乾いていたのと、気分的にカフェインを摂取したくて仕方がなかった。ならば、と喫茶店を探しながら大通りを歩いたが、めぼしい店が見つからず、あったのはチェーン系のコーヒーショップだった。
     藍曦臣が外でコーヒーを飲むのは常に、注文を受けてから豆を挽き、サイフォンで淹れてくれる店で、チェーン系のコーヒーショップは今まで一度たりとも入ったことがなかった。存在そのものは知識として知ってはいるが、気にしたことがなかったため、今日初めてこの場所に、コーヒーショップが存在する事を認識した。
     戸惑いながらも店に足を踏み入れる。席はいくつか空いていたが、席へと誘導する店員はおらず、オーダーから受け取りまでをセルフで行い自分で空いている席へと座るのだと、店内を一瞥して理解した。
     あまり混んでいる時間帯ではないのか 3066

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄11
    これからの恋はあなたと二人で
     寒室を訪れるのは久しぶりだった。
     江澄は藍曦臣と向かい合って座った。卓子には西瓜がある。
     薄紅の立葵が、庭で揺れている。
    「御用をおうかがいしましょう」
     藍曦臣の声は硬かった。西瓜に手をつける素振りもない。
     江澄は腹に力を入れた。そうしなければ声が出そうになかった。
    「魏無羨から伝言があると聞いたんだが」
    「ええ」
    「実は聞いていない」
    「何故でしょう」
    「教えてもらえなかった」
     藍曦臣は予想していたかのように頷き、苦笑した。
    「そうでしたか」
    「驚かないのか」
    「保証はしないと言われていましたからね。当人同士で話し合え、ということでしょう」
     江澄は心中で魏無羨を呪った。初めからそう言えばいいではないか。
     とはいえ、魏無羨に言われたところで素直に従ったかどうかは別である。
    「それだけですか?」
    「いや……」
     江澄は西瓜に視線を移した。赤い。果汁が滴っている。
    「その、あなたに謝らなければならない」
    「その必要はないと思いますが」
    「聞いてほしい。俺はあなたを欺いた」
     はっきりと藍曦臣の顔が強張った。笑顔が消えた。
     江澄は膝の上で拳を握りしめた。
    「あなたに、気持ち 1617