確か、その日は合唱部の面々に自主練習をさせて、自分は吹奏楽部で合わせをしていた日だ。部員数の少ない合唱部の練習は、吹奏楽部の練習室である音楽室のすぐ隣、狭い音楽準備室で行われている。こちらで楽器を鳴り響かせない限りは隣から声が筒抜けで聞こえてくるから、サボっていたり、なにか他のことをしていたりするものならすぐにわかる。
合唱部員でピアノをしっかり弾けるのは私だけで、他は発声練習のためにある程度弾けるか弾けないか。だから、突然隣の部屋から精巧なピアノの音が聞こえてきたときにはひどく動揺してしまった。顧問が来るにもまだ時間が早すぎる。指揮をとっていた吹奏楽部員に断って、なおも続く美しい音色に導かれ部室の扉を開ける。調律のなっていない楽器で、ここまでの音楽を奏でられるのは。
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