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    kureha_i

    @kureha_i

    最近は主に刀剣乱舞の文章を書いています。
    シン・ゴリラ本丸審神者。
    過去の短編投稿します。
    長文は投稿するの面倒なので、HPまでどうぞ。
    http://kureha.ciao.jp/

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    kureha_i

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    変わり種本丸。
    こういうシステムあればいいよね。

    #刀剣乱舞
    swordDance
    #小説
    novel

    とある家族の本丸本庄(ほんじょう)家
    夫:英雄(ひでお)
    妻:美子(よしこ)
    子:ワカ(通称)


     ―――― 保活。
     平成から、令和にかけて未だ解決されない、職業婦人達の戦である。
     専業主婦が主だった時代も、今は昔。
     女も働け、子を産め、更に働けと、心身ともに殺す気満々の政府の意向により、戦は激しさを増している。
     本庄家も、その戦に参戦する家の一つである。

     ある日。
     某IT社にて、SEを務める英雄は、マンションの玄関を入った途端、疲れ果てた気配を察してリビングへと足を速めた。
     「美子ちゃん、大丈夫・・・?
     保育園、今日も無理だった?」
     決まっていたなら喜びの連絡が入っただろうが、今日もそれはなかった。
     気づかわしげに問いかけると、テーブルの上に突っ伏した美子が、ぼさぼさの頭を上げる。
     「今・・・落選の連絡来た・・・・・・」
     あえて、家からも職場からもやや遠い、不人気の保育園を第一志望に入れていたのに、それでもダメだったと、肩を落とした彼女は、はっとして英雄を見やった。
     「ごめんなさい!
     ごはんの用意してなかった!!」
     慌てて立ち上がろうとした彼女の前に、英雄は惣菜の入った袋を置く。
     「いや、連絡なかったから、きっとがっかりしてるんじゃないかなぁって。
     野菜中心に買ってきたけど、あっためる?
     冷えてた方が食べやすい?」
     出産後も、食べ物の匂いに参っていた彼女を気遣ってくれる優しさに、思わず涙が出た。
     「ごめんね・・・。
     私、ちゃんとした奥さんじゃないし、母親としてもちゃんとできないし、仕事も復帰できるかわからないなんて・・・。
     ごめんなさいー・・・!
     生きててごめんなさいぃー・・・!」
     元から真面目な性格ではあったが、とんでもないことを言い出す美子に英雄は慌てた。
     「いや!なに言ってるの!
     ごはんくらいいいって!
     俺作るし!難しいなら今日みたいに買ってくるし!
     それよりちゃんと寝てる?!」
     「あんまり・・・。
     夜泣きひどいし、お昼寝もさせられないし、こんなお母さんがのうのうと生きててごめんなさい・・・!
     やっぱり、私なんかいない方が・・・」
     「美子ちゃーん!しっかり!!」
     英雄が、美子の両肩を掴んだ瞬間だった。
     「お困りのようですね?!」
     腕にふわふわした尻尾が触れて、思わず飛びのく。
     「なにこのぬいぐるみ?!いつからあった?!」
     英雄が惣菜を置いた時には、美子の携帯電話以外なにも乗っていなかったはずのテーブルに、いつのまにか四足歩行する動物がいる。
     「しゃべる機能あるヤツ?!」
     新手のスマートスピーカーかと、驚く英雄に美子は首を振る。
     「こんなの、うちにはなかっ・・・」
     「私はこんのすけと申します、管狐でございます」
     「またしゃべった?!」
     「どこから?!」
     と、英雄はそれを持ち上げて、スピーカーを探す。
     「ちょっ!!
     なにをなさるのです!!
     私はれっきとした生き物です!!」
     「直立歩行をしない動物が、言語を話しうる声帯を持つわけないだろう!!」
     見事な突っ込みに、さすがの管狐も言葉を失った。
     「それは・・・未来の政府の技術力によるものとしか・・・。
     私はただの使者でございますので・・・・・・」
     「使者?
     お稲荷さんのお使い的な?」
     見たところ、犬よりも狐っぽい、と言う美子に、管狐は大きく頷く。
     「改めまして、私はこんのすけ。
     私と契約して、審神者になってください」
     「なにその不吉しか感じないフレーズ!」
     不幸に満ちた物語を知る英雄が、思わず声を荒らげた。
     しかし、それ・・・こんのすけは、構わず続ける。
     「今、審神者になっていただければ、お子様は刀剣男士たちがお世話しますよ!」
     「え・・・」
     強烈な誘惑に、思わず目を輝かせた美子を、英雄が止めた。
     「騙されちゃだめだよ、美子ちゃん!
     得体のしれない場所に、我が子を預けられるか!」
     至極真っ当な意見を、こんのすけは予想済みとばかり、笑みさえ浮かべて頷く。
     「まずは、信用していただくことが第一ですね。
     こちらをご覧ください」
     言うや、こんのすけの首輪が光り、テーブル上に政府紹介の動画や資料が表示された。
     「・・・プロジェクターなんだろうけど、木目のテーブルに照射してこの鮮明さは何だ。
     裏写りしないってのは有機ELっぽいけど、単なる光で4K・・・いや、それ以上の鮮明さを出す技術は・・・」
     「さすがはエンジニア、と言いたいところですが、見ていただきたいのはそこではないのですよ」
     まずは興味を引けたことに満足げなこんのすけが、前脚で画面を指す。
     「ちゃんと、我が政府の説明を聞いてくださいませ」
     2205年の政府代表だという人間の話を聞いていると、確かにそれらしきことは言っているが・・・それを信じていいものかと思う。
     だが、こんのすけは構わず畳みかけた。
     「敵に対して我が政府の戦力差は歴然でして、義勇軍のような、自発的な参加を待っている段ではなくなりました。
     急遽、審神者増員計画が持ち上がりまして、お二人にはぜひ、審神者を副業としてやっていただきたいと。
     本来でしたら一人一本丸ですが、今回は事情を汲んで、ご夫婦で一本丸を担っていただきます」
     「とってもいいお話・・・!」
     是非に、と言いかけた美子を、英雄が止める。
     疲労で思考力が鈍っている彼女に、ここは任せるわけには行かなかった。
     しかし、このままでは前に進めないのも事実だ。
     「・・・先に、見学させてくれないかな。こちらとしても、どういう場所か見ておかないと」
     これで嫌がるようなら信用できないと、言ってみた英雄にこんのすけはあっさりと頷いた。
     「もちろんですとも。
     ではまず、ご夫婦のどちらがメインで始められるか、お決めください。
     そののち、最初の刀をお選びいただきます。
     こちらは既に、政府で用意している5振りのうち、一つを選んでいただく形となります」
     そこで契約は済む、ということはあえて言わずに、こんのすけはゆらりと尻尾を振った。
     「メインは・・・英雄君だよね。一家の主だし」
     「ここは美子ちゃんでいい気はするけど・・・そうだな、何かあったら、この政府と交渉するのは俺かな」
     頑張る、と頷いて、英雄は画面に表示された5振りを見下ろした。
     「5人とも個性的だな・・・」
     「私の好みだと、このほっとけない系男子だけど・・・」
     と、美子が指した山姥切国広に対して、英雄は首を振った。
     「赤ちゃんの面倒を見てもらうんだから、俺達の好みは二の次でしょ。
     沖田総司は確か、子供好きだって・・・」
     と、選ぼうとした彼を、美子が止める。
     「確かに子供好きだって話はあるけど、道場では鬼だったって逸話もあるんだよ!
     この子が大きくなって、剣道やりたいって言い出した時に、容赦ないって!」
     「確かに・・・天才は、凡人のことがわからないっていうよね。
     俺達の子だし、確実に凡人だよね」
     「・・・そこまで我が子に期待しないのはどうかと思うけど、その通りです・・・」
     トンビは鷹を産めないんだと、うなだれた美子は一振りを指した。
     「坂本竜馬は?
     メンタル弱い私達を励ましてくれそう・・・!」
     「確かに・・・!
     凡人の子供でも、メンタルは強く育ってほしい!」
     切実な願いが一致し、選んだ一振りが顕現した。


     「そーら!こっちじゃ!」
     陸奥守吉行を先頭に、本丸へと案内された二人は、まず見えた天守をあんぐりと見上げた。
     「おしろ・・・お城もらえるのかぁ・・・・・・!」
     「確か、個人所有のお城って昔、あった気がするけど、私たちがもらえるなんてねぇ・・・」
     庶民にとっては見上げる対象でしかなかったものが、所有物としてそこにある。
     それだけでも、感動ものだった。
     「奥さん、ととさん、ぼーっとしとらんじゃーよぅ来いや!」
     「え?」
     早口の土佐弁を聞き損ねた二人に、こんのすけが振り返った。
     「早く来い、と申していますよ」
     「そうちや!
     本丸の中を案内するきね!」
     すたすたと先に行く陸奥守とこんのすけを、二人は慌てて追いかける。
     と、
     「奥さん、ややはわしが預かるきに」
     砂利道に足を取られそうな美子の手から、陸奥守が赤子を抱き上げた。
     「あ・・・!」
     赤子の激しい泣き声を予想して、思わず目をつぶった美子は、意外な静かさにそろそろと目を開ける。
     「凛々しい男ん子じゃ!
     こりゃあー立派に育つぜよ!」
     初対面の・・・しかも、男性には人見知りの激しい子が、楽しげに笑い声をあげる様に、二人は驚愕した。
     「す・・・ごい!
     うちのじぃじにも泣き叫んでたのに!」
     「俺なんか、父親なのに泣き叫ばれるのに」
     乾いた声をあげる英雄に構わず、陸奥守は赤子を高く掲げる。
     「賢いややじゃあ。
     わしに、敵意がないががわかるちや」
     なー?と、笑いかけると、赤子はますますはしゃぎ声をあげた。
     「い・・・いこ、英雄君・・・」
     促された英雄は、赤子を高い高いしながら先に進む陸奥守の後に、とぼとぼと続く。
     ややして、
     「そら、鍛刀場に着いたぜよ。
     まずは、新しい刀を顕現させんといかんちや」
     声をかけられて、彼はようやく顔をあげた。
     「鍛刀・・・。
     政府から配給された資材を使って、新しい刀を作るんだな」
     こんのすけから渡されたマニュアルを繰って、英雄が頷く。
     「よし、ここでケチってもしょうがない。
     太刀狙いだな!」
     言うや、早速資材を配合する英雄に、陸奥守は感心した。
     「ととさん、豪気じゃの。
     ま、殿様はそんくらい、豪気に行けるんがいいぜよ!」
     「と・・・殿様・・・!」
     持ち上げられて、嬉しげな英雄が、耳まで赤くする。
     「よ・・・よし、これで鍛刀してくれ!」
     英雄の命に従い、小さな刀工達が一振りの刀を打ち上げた。
     「僕は歌仙兼定、風流を・・・」
     「なんで打刀ー!!!!」
     英雄の絶叫に挨拶を遮られた歌仙は、むっと眉根を寄せる。
     「人の挨拶を遮るなんて、雅ではないね。
     僕じゃあご不満かい?」
     「そんなことは決して!!」
     慌てて言った美子が、英雄の袖を引いた。
     「ま・・・まずいよ、怒らせちゃ!
     彼、あれだよ・・・!
     36人斬ったって言う・・・!」
     「そうだった・・・!」
     ガタガタと震えだした二人に、歌仙はますます不機嫌そうな表情になる。
     「君達ね・・・」
     「まぁまぁ!
     そう、怒ることでもないがよ!」
     赤子を抱えたまま、陸奥守が間に入った。
     「ととさんは太刀がほしゅうて、資材を奮発したがよ」
     「あぁ、それなのに僕が来てしまったと。
     ・・・それじゃあまるで、僕が不調法者のようじゃないか。失礼な」
     ますます不機嫌になった歌仙に、二人は慌てる。
     「そんなことありませんっ!!」
     「むっちゃんと歌仙くんで、めっちゃ悩んだんですよ、私達!!」
     と、事実ではないことまで言ってごまかそうとする彼らに、歌仙は鼻を鳴らした。
     「まぁ、いいよ。
     どうやら僕は、陸奥守に続いて二番目の刀剣らしいしね。
     陸奥守、早速戦に行くかい?
     そうでないならば、厨を整えておこうか?」
     「そりゃー助かるぜよ!!
     腹が減っては戦はできんからの!」
     嬉しげに言って、陸奥守は二人を振り返った。
     「この歌仙は、細川家に伝わった刀じゃ。
     文化人として有名な家じゃき、歌仙に色々教えてもらえば、ややは頭のえい子になれるぜよ!
     それに、うんまい飯を作ってくれるぜよ!」
     「それは・・・助かる!!」
     「英雄君、理系だから国語は全然だめだもんねぇ・・・。
     それに私も・・・ごはん・・・うっ!頭が・・・!!」
     決して得意とは言えないと、青ざめる美子に、歌仙が笑みを漏らした。
     「わかった。
     では、今日の膳は特別なものにしてあげよう。
     こんのすけ、本丸の案内は陸奥守に任せて、僕を万屋へ案内したまえよ」
     「わかりました!
     では、陸奥守吉行。
     お二人と若様をよろしくお願いいたします」
     「わ・・・若様・・・・・・!」
     こんのすけの言いように、美子は思わず赤面した。
     「なんか・・・いきなり尊くなったなぁ。
     まさか、我が子がそんな呼ばれ方をするなんて」
     苦笑しつつ見やった赤子は、陸奥守の腕の中で機嫌よく足をばたつかせている。
     「ととさん、ほれ、次の鍛刀じゃ。
     また太刀を狙うがかい?」
     「あぁ!
     打刀や脇差、短刀は戦闘で手に入るみたいだからね。
     戦場のレベル的に、鍛刀では太刀を頑張らないと!」
     と、彼はこんのすけにもらった『はじめての審神者』マニュアルを握りしめつつ頷いた。
     「次こそは!太刀!!」
     再び刀工達へ命じると、小さな彼らはてきぱきと動いて、また一振りを打ち上げる。
     「僕は、燭台切光・・・」
     「キタアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
     大歓声に挨拶を遮られ、驚いた光忠は手を取り合って跳ねる夫婦に苦笑した。
     「そんなに喜んでもらえて、何よりだよ」
     「早々に来てくれて、ありがたいぜよ!」
     陸奥守が声をかけ、部屋の外を指す。
     「ただ、このことは歌仙には言いなや。
     太刀やないってがっかりされて、機嫌の悪いきに」
     ひそひそと囁く彼に、光忠は吹き出した。
     「了解。
     歌仙君は、今?」
     「厨・・・いや、食材の調達ぜよ」
     「じゃあ、僕は厨に行こうかな」
     部屋の外を見やって、微笑む。
     「歌仙君が帰ってくるまでに、火を入れておこう」
     「おう!頼むぜよ!!」
     手を振って去って行く光忠を見送った陸奥守は、『この勢いを逃すな』と、鍛刀にいそしむ二人を振り返った。
     「他にも、刀装らぁ作らないかんきに、無駄遣いしやーせんようにな」
     「わかってる!
     計算は任せてくれ!」
     これでも理系だと、胸を張る英雄に陸奥守は苦笑する。
     「歌仙・・・。
     ととさんと仲ようしてくれろうか」
     文系と理系は難しいかもしれないと、困り顔の彼を勇気づけるように、赤子は手を伸ばした。
     「そうじゃな。
     わしがなんとかするきに、まかしちょけ!」


     「ごめん!残業で遅くなっちゃった!」
     職場復帰して1か月。
     最初のうちは、気遣ってくれていた同僚ももはや、それどころではなく、業務量はすっかり元通りだった。
     子供を保育園に預けられなかった、ということは総務には知られているため、保育園が決まるまでは実家の親に来てもらっている、という体裁にしている。
     しかし、当初は心配していた本丸保育園は期待以上に優秀で、陸奥守だけでなく、世話好きな刀剣達が赤子を『若君、若君』と持ち上げては、熱心に世話を焼いてくれていた。
     「大丈夫。
     お迎えと審神者の仕事は俺がやったよ」
     先に帰っていた英雄が、すっかりご機嫌のワカをあやしながら、こぶしを挙げる。
     「ちっちゃい子大好き毛利、確保しました!」
     「英雄君のドロ運、神か!!」
     大坂城自体よりも難攻不落と噂される毛利藤四郎が、どの本丸よりも早く顕現したことは、既にSNSで評判になっていた。
     極端な審神者などは、『毛利確保のために赤子を産むか』と、惑乱するありさまだ。
     しかし、英雄は頬を染めながら手を振った。
     「いやいや、人妻・美子ちゃんの包丁引き寄せ運には負けます。
     俺が行くとあの子、機嫌が悪くなっちゃうからさ、明日は美子ちゃんが行ってあげてよ」
     「そうだね。
     短刀ちゃん達と遊びたいなぁ・・・」
     部屋着に着替えた美子は、つい先月までボロボロだった髪を一つにまとめた。
     預け先ができたおかげで、半年ぶりに美容院へ行くこともでき、余裕ができたおかげで肌の調子もいい。
     いや、肌の調子がいいのは、余裕のせいだけではない。
     「これ、みっちゃんが俺達のごはんも作ってくれたよ。
     お刺身が冷蔵庫に入ってるから、取ってきて。
     俺、ワカにミルクあげてるから、先に食べてー」
     「うん」
     刺身の皿を持ってテーブルに着いた美子は、早速箸を取った。
     「・・・みっちゃんのごはん、至福。
     私が作るのより断然おいしい・・・!」
     帰れば既に食事の用意ができている、というだけでもありがたいのに、健康を考慮したメニューが食卓に並ぶ様は拝んでも足りない。
     「もう、みっちゃんと歌仙君には足を向けて寝られないよね!」
     「あー・・・そうだね、歌仙にもだね」
     理系というだけで、目の敵にされている英雄は複雑な気分だが、歌仙の料理がおいしいことは間違いない。
     「あいつは、俺に嫌味さえ言わなければいいやつなんだけど・・・」
     なんだかんだ言いながら、ワカの世話をしてくれるしと、自分を無理やり納得させる。
     「そうだ・・・。
     歌仙と言えば今日、ワカの様子が変だって、最初に気づいてくれたらしいよ。
     熱を出したそうだけど、歌仙から引き継いだ薬研がしっかり面倒見てくれて、もう大丈夫だって」
     その言葉を証明するように、赤子はご機嫌でミルクを平らげてしまった。
     「なにからなにまで・・・!
     私、200年後も生きていたら絶対、時の政府を支持するよ!!」
     箸を振りかざして決意表明する美子に、英雄が笑い出した。
     「死んでると思うよ。
     あ、デザートは鶴丸さんが作ってくれたんだけど、『ぜひ奥方に!!』って渡されたんだ。
     何かあったの?」
     いたずらでも仕込んでいるのだろうかと疑ったが、そうでもないようだ。
     不思議そうな彼に、美子は頷いた。
     「私の名前が、明治天皇のお后と同じなんだって」
     「へぇ。美子っていうんだ」
     知らなかった、とつぶやく彼に、再び頷く。
     「漢字だけが一緒で、はるこ、って読むらしいんだけど。
     なんだか、面白い皇后さまだったらしくて、小柄なのに気は強かったとか、釣りが好きで、宮殿の池で釣りをしていたとか。
     そんで、鶴さんが怪奇ごっこして遊んだら、池に捨てられそうになったとか」
     「鶴丸さん、魚の餌になるところだったのか」
     ワカをベビーベッドに寝かせた英雄も、テーブルに着く。
     「怪異ごっこって、なんだろうな。
     まぁ、鶴丸さんのことだから、派手にやったんだろうけど」
     箸を取り、光忠特製の肉じゃがを頬張った彼が、しばし無言になった。
     ややして、
     「あの・・・ね、美子ちゃん」
     もじもじと、言葉を詰まらせる彼に、美子は小首を傾げる。
     「どうしたの?」
     「こないだようやく来た・・・小狐丸がね、ワカをあやしてくれたんだけど・・・。
     あ、ワカは、もふもふが気に入って、ずっと小狐丸になついててね!
     それで・・・・・・」
     すーっと、彼は目線をそらした。
     「この本丸に任せておけば、お子様のことは安心でしょうって。
     だから・・・気兼ねなく、産めよ殖やせよ、って煽って来る」
     「稲荷・・・!」
     そういえば豊穣の神の使いだったと、美子まで顔を赤くする。
     「もしかしてこの、家族で本丸を作るって特例さ・・・」
     英雄が、赤くなった顔をあげた。
     「少子化を憂いた2205年の政府が、ここで止めようって持ってきた計画だったんじゃないかな」
     「こんのすけなら・・・やりそうだな」
     したたかな管狐の笑みを思い浮かべつつ、二人は赤くなった顔を見合わせた。


     ―――― それから数年後。
     刀剣達に見守られ、元気に成長したワカは、小学校に入学した。
     初の三者面談にて、美子は緊張気味に、まだ若い担任と向かい合った。
     と、大勢の一年生を相手にしているとは思えないほど、きれいにヘアスタイルを保った女性教師は、場を和ませるように微笑む。
     「本庄君はとても礼儀正しい子ですね。
     今も、きちんとお座りして、先生の話を聞いてくれています」
     ねぇ?と声をかけられたワカは、得意げな笑みを浮かべて頷いた。
     「ところで、お母さんに確認なんですが」
     「は・・・はい!」
     息子よりも緊張している彼女に、担任はまた微笑んだ。
     「本庄くんは、本丸育ちですね?」
     「え?!あの・・・!」
     今まで、誰からも聞かれたことのないことを問われ、慌てる美子を彼女は、笑って制した。
     「私も審神者ですから、事情はよく分かっているつもりです」
     「あ・・・それで・・・!」
     まだ小さな子供達を大勢まとめるなんて、想像を絶する大変さだろうと思っていたが、余裕すら感じさせる雰囲気は、仕事にのみ集中できる環境を持っているせいだろう。
     そのありがたさは、美子もよく理解していた。
     と、担任はゆったりとした口調で続けた。
     「本丸育ちの子は、自己紹介に武家風の名乗りをするので、すぐに分かります。
     今年のクラスにも何人かいましたから」
     「・・・源氏さんたちに、今世の名乗りはそうじゃないと言っておきます」
     赤面した顔を俯ける美子を、ワカが不思議そうに覗き込む。
     「いえ、とってもしっかり者で助かっています。
     一年生の担任は毎年、本丸育ちを取り合うくらいで」
     「そんなに・・・いるんですね」
     自分たちのことしか知らなかったと、驚く美子に担任は頷いた。
     「幼い頃から、大勢に囲まれて育つので、社会性が育ちます。
     男子は凛々しく、女子はお姫様扱いに慣れて、こちらも凛々しくなります」
     「あれ?おしとやかになるんじゃ・・・?」
     意外だと、つぶやく美子に彼女はまた頷く。
     「姫と言っても、武家風の教育ですからね。
     本丸育ちではない男子よりも、凛々しい女子が多いです。
     ただ、理想が高くなってしまうのが問題で・・・男性教師はたいてい、ジャガイモ扱いされて下に見られます」
     「やたら顔がいいのが並んでますからねぇ・・・」
     思わず苦笑した彼女の前で、担任は表情を改めた。
     「中には変な影響を受ける子もいますので、特に、村正と亀甲には気をつけてください。
     いたずら程度なら可愛いものですが、あれが通常の価値観だと勘違いすると、社会に出た時が・・・」
     「気をつけます!!!!」
     あの二人だけでなく、妙な価値観を持つ刀は多い。
     そもそも、殺生を気にしないところから違うのだから。
     慌てる美子に、担任は微笑んだ。
     「三人目、でしたね?
     本庄君、またお兄ちゃんになるね」
     うん、と、ワカは母親のお腹に頬ずりする。
     中の子は既に、女の子だとわかっていた。
     本丸でどんな姫に育つのか、話を聞いた後では少しの不安もあるが・・・2か月後が楽しみな美子だった。




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