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    kureha_i

    @kureha_i

    最近は主に刀剣乱舞の文章を書いています。
    シン・ゴリラ本丸審神者。
    過去の短編投稿します。
    長文は投稿するの面倒なので、HPまでどうぞ。
    http://kureha.ciao.jp/

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    kureha_i

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    変わり種本丸続編。
    時の政府は令和の少子化を憂いている。

    #刀剣乱舞
    swordDance
    #小説
    novel

    とある家族の本丸・二本庄(ほんじょう)家
    夫:英雄(ひでお)
    妻:美子(よしこ)
    子:長男・ワカ、次男・ナカ、長女・姫(通称)

    堀(ほり)家
    夫:大介(だいすけ)
    妻:千鶴(ちづる)
    子:イチ(通称)


     ―――― 保活。
     平成から、令和にかけて未だ解決されない、職業婦人達の戦である。
     専業主婦が主だった時代も、今は昔。
     女も働け、子を産め、更に働けと、心身ともに殺す気満々の政府の意向により、戦は激しさを増している。
     堀家も、その戦に参戦する家の一つである。

     ある日。
     「保育園が・・・決まらないんですよ・・・・・・」
     あとはもやしを残すのみとなったラーメンの、冷めたスープをぐるぐるとかき回す後輩に、英雄は何度も頷いた。
     「うちも、長男の時は大変だったよ。
     保育園が決まらなくて、なのに奥さんの育休期限は迫っていて、そのせいで産後鬱になりかけて。
     生きててごめんなさいとか言われる恐怖ってさぁ・・・」
     「けど、決まったんですよね?
     本庄さんとこ、三人目じゃないすか」
     「そうっ!!三人目で初めての女の子!!
     もう、めちゃくちゃかわいいの!うちのお姫様!!」
     隙あらば写真を見せてくる先輩を邪険にもできず、彼は差し出されたスマホを覗き込む。
     「うわっ!可愛い!
     赤ちゃん抱いてる子、アイドルっすか?」
     「ううん、この子はみだ・・・みーちゃん!
     えっと・・・いとこの子供だよ。
     家が近いから、よく世話をしに来てくれるんだ」
     慌ててごまかした先輩を特に不審にも思わず、彼、堀大介はため息をついた。
     「いいなぁ・・・。
     うちも、せめて親戚が近くにいたら。
     うちはどっちも実家遠いし、親が来るのも大変だし。
     保育園が決まればなぁ・・・本庄さんとこは、どこでした?
     ヒヨコ?ヒマワリ?」
     近隣の保育園の名を挙げる後輩に、彼、本庄英雄は首を振る。
     「うちは結局、保育園取れなかったから、実家の親と親戚が面倒見てくれてるんだ」
     「マジで?!
     本庄さんとこって、そんなに親戚いるんすか?大家族?」
     「いや、俺自身は二人兄弟だけど・・・両家とも、親が兄弟多くて、いとことかいとこの子供とか、まだ学生の子達がたくさんいるから、交代で見てくれてるんだよ。
     彼らが学校に行っている間は親が見てくれて、すごく助かってる」
     「そっかぁ・・・。
     うち、奥さんが同じ会社じゃないですか。
     会社方針だかなんだか知らないけど、育休はひと家族一回だけ、延長なしなんて変な決まりがあって、俺が交代で育休取ることもできないんですよ。
     社長は少子化対策の敵だって、奥さん激怒してます」
     「そのせいでうちの会社、女性の離職率が高いんだよね。
     仕事か子供か、だったら優先順位は当然、子供だしねぇ。
     けど、いつまでもチヅさんがいなかったら、経理部大変でしょ。
     こないだ領収書の提出が遅れたんだけど、『忙しいんだから仕事増やすな!』って怒鳴られた・・・」
     「それは、うちの奥さんがいても同じでしょ。期限守らなかった本庄さんが悪いです」
     「はい・・・」
     しょんぼりと肩を落とした英雄は、食後のお茶を気まずげに飲み干した。


     「・・・ってことがあってね。
     堀君ちも大変みたい」
     「わぁ・・・。
     ワカの時の私みたいになってるよ、きっと」
     眉をひそめた美子は、賑やかな本丸の食堂で、食後のお茶に満足げなため息をついた。
     「今日のお茶は誰だろう!
     ちょっと待って・・・まだ言わないで・・・!
     うんとー・・・・・・鶯丸さん!」
     いたずらっぽい目で主夫妻を見ていた鶯丸が、くすくすと笑う。
     「残念、不正解だ。
     今日の茶を淹れたのは、小夜だよ」
     「・・・おいしかったですか?」
     恥ずかしげに、横目で見つめてくる短刀に、美子は大きく頷いた。
     「甘みがあって、さわやかで、温度もちょうどいい飲みやすさ!
     完璧だよ!」
     奥方に褒められた小夜は、耳まで赤くして歌仙へと駆け寄り、彼の袴に顔をうずめる。
     「はい、よくできたね。
     お褒め頂いて光栄だよ」
     小夜の誉れは指導した自分の誉れ、とばかりに一礼した歌仙へ、美子は嬉しげに頷いた。
     「うちはラッキーだったなぁ。
     保育園は全部外れたけど、こんのすけが契約に来てくれたおかげでこんなに・・・」
     ふと、思い至って美子は、こんのすけを呼ぶ。
     「ねぇ!
     こないだ、お友達紹介キャンペーンがなんとか、って言ってたよね?!」
     美子の問いに、こんのすけは咥えていた油揚げを飲み込んでから頷いた。
     「はい。
     時の政府は、この時代の少子化を大変憂いています。
     早急になんとかしたいと考えており・・・」
     「英雄君!」
     「至急!堀君ちに派遣だ!!」


     「なにこのぬいぐるみ?!
     どこにあった?!」
     突然、テーブル上に現れた四足歩行の毛玉に、大介は目を丸くした。
     やや離れた場所では、千鶴が爆音で泣く赤子を必死にあやしている。
     「ミルクはあげたし、おむつも替えたのに、なんで泣くの?!
     どこか痛いの?!」
     自身も泣きながらあやす千鶴の手から赤子を抱き上げると、彼女はその場にへたり込んだ。
     「もう・・・わかんない・・・。
     病院に連れて行っても何ともないって言われるし、なのにずっと泣き止まないし、私がダメな母親だから、ずっと泣いてるんだ・・・」
     「そんなことないって!
     俺が抱っこしても泣いてるんだから、チヅちゃんが悪いんじゃなくて俺も悪い・・・じゃなくて!
     えっと・・・えっと・・・」
     かける言葉も見つからず、困惑する彼の肩に、ふわふわとしたものが乗った。
     「うわっ!なに!!」
     テーブル上に突如現れたぬいぐるみに乗られて、驚く彼の肩で、それはゆっくりと尻尾を振る。
     その毛先が赤子をくすぐるうちに、泣き喚いていた子はすっかり静かになってしまった。
     「た・・・助かった・・・!」
     「今のうちに、寝かせてください」
     「うわっ!しゃべった!!」
     動いただけでも驚きなのに、話しかけられた大介は思わず大声を上げる。
     「お静かに。
     また泣いてしまわれます」
     「あ・・・うん」
     ひとまず赤子を安全な場所へ、と彼はベビーベッドへ運んだ。
     と、しゃべる毛玉はベビーベッドの中へ飛び込み、尻尾を揺らして赤子をくすぐる。
     すっかりご機嫌になり、笑い声さえあげる子に、千鶴もほっと肩の力を抜いた。
     「さて、私はこんのすけと申します」
     ベビーベッドの前に座り込んだ夫妻へ、こんのすけは話しかける。
     「本庄家のこんのすけより、当家の困窮状況を伺いまして、やって参りました。
     いわゆる、お友達紹介キャンペーンです」
     「へ・・・?
     本庄さんとこの・・・?」
     「おともだち・・・・・・」
     呆然とする二人へ、こんのすけは大きく頷く。
     「まずは、時の政府よりのご挨拶をお聞きください」
     と、こんのすけの首輪が照射する光が、薄暗い部屋の壁に当たって動画を再生した。
     2205年の政府代表者が話す、歴史修正主義者との戦のこと、審神者としての役目、刀剣男士という存在。
     それは、にわかには信じられないものだったが、
     「既に、本庄家では七年前より取り組んでおられまして、現在三人のお子様がすくすくと成長しておられます」
     の一言に、心が揺らぐ。
     「長男のワカ様は闊達にして次期頭領としての才覚があられ、次男のナカ様は大変お元気であられますし、今年お生まれ遊ばした姫様に至っては、天姿国色(てんしこくしょく)かと男士一同、蝶よ花よとお世話申し上げております」
     「三人も・・・!すくすく・・・・・・!」
     よろりと、膝立ちになった千鶴へ、こんのすけは小首を傾げた。
     「保育園いらずですよ?」
     「ぜひ!!」
     掴みかからんばかりに迫る千鶴の隣で、しばらく考え込んでいた大介がストップをかける。
     「待って。
     先に、本庄さんに電話させて。
     話はそれから」
     「えぇ、どうぞ。
     早い者勝ちではありませんので、十分にご相談ください」
     こんのすけが尻尾を揺らす先ではいつの間にか、赤子がすやすやと寝息を立てていた。


     「最初の刀、かぁ・・・誰にする?」
     英雄と連絡を取ったのち、すっかり乗り気になった大介の問いも終わらないうちに、千鶴は五振りのうちの一振りへと手を伸ばした。
     「沖田君一択!!
     うちの芹沢鴨を斬ってほしい!!」
     「え・・・。誰それ?」
     「社長!!」
     「社長、田中じゃん・・・」
     「鴨は鴨鍋じゃ!!」
     血走った目で掴むや、刀剣は人の姿へ変わった。
     「え、なに、こっわ。
     なんでそんなに怒ってんのー?」
     苦笑した彼は、自身の腕を掴む手をそっと離して、姿勢を正す。
     「俺、加州清光。
     よろしくね」
     途端、ベビーベッドから大きな泣き声が上がった。
     「うっわ、びっくりしたー。
     なになに、赤子?
     かっわいー!抱いてい?」
     答えを待たずに赤子を抱き上げた加州は、にこりと笑う。
     「うん、元気。
     声が大きい子は息が長く続くから、武術に向いてるよ。
     俺がこの子を強くしてあげる」
     赤子の号泣もどこ吹く風と笑った加州は、改めて主夫婦を見遣った。
     「うん。
     まずは二人とも、可愛くしよ?
     主には鍛刀とか戦準備とかやってもらわなきゃだけど、奥方は食べるか寝るか美容院に行くか。
     二、三日かけて、ゆっくりしておいでよ」


     「人間に戻った気がする」
     三日後、美容院で髪を整えた千鶴は、本丸の縁側で鏡を見ながら呟いた。
     「キヨちゃんが来てくれるまで私、母熊だった」
     「触るな危険」
     うん、と頷いた大介は、傍で赤子にミルクを与える乱藤四郎に目を細める。
     「うちにもアイドルが来たなぁ」
     「アイドルってボクのこと?!」
     嬉しげに目を輝かせる彼・・・顕現して初めて男士だと知った乱に、大介は頷いた。
     「女の子だと思ってたんだよ。
     乱ちゃんみたいな可愛い子がお世話してくれて、イチの理想が高くなりそう」
     「大丈夫だ。
     乱は戦闘になると性格が変わるからな。
     こいつに比べりゃ、世間の女子はだいぶ優しい」
     笑いながら寄ってきた薬研が、甘くとろりとした液体を匙で掬う。
     「そーら、疳の虫に効く薬だぜ。
     イチ坊の好きな味にしてやったからな。
     ま、肺が強くなるから、泣くのはいいんだけどよ、泣きすぎるのもあれだからな」
     ミルクを平らげた赤子は、薬研が与える薬までも、嬉しそうに舐めとった。
     「信じられない。
     ずっと泣きっぱなしだったのに」
     平野が淹れてくれた温かいお茶を飲んで、千鶴がほっと吐息すると、薬研はまだ欲しがる赤子から匙を引く。
     「環境が落ち着いたからだろ。
     刀は家の守りだ。
     周りに自分を守ってくれる連中が大勢いるから、イチ坊も安心したのさ」
     「こんなにいないと安心できないなんて、意外と小心者かもね」
     くすくすと笑う乱に、大介が苦笑した。
     「俺に似たのかなぁ」
     「私かもよ・・・」
     はふ、と吐息する千鶴には、その場の全員が首を振る。
     「それはないよ。
     奥方さん、母熊みたいにあらぶってたもん」
     またくすくすと笑う乱に、千鶴は頬を染めた。
     「だって・・・あの時はまだ、精神的に不安定で、体力も限界だったし・・・」
     「でももう、大丈夫でしょー」
     とてとてと、縁側を歩いてくる足音を見遣れば、清光と安定が並んでいる。
     「うん、可愛くなった。
     やっぱり、可愛くないと気分もアガらないしねー」
     にこりと笑う加州に、千鶴は顔を赤くした。
     「ちょっと、清光ー。
     人妻にそういうこと言っちゃダメだって。
     でも、今度の髪型、似合ってるよ。可愛い」
     安定にまで言われて、顔を上げられない千鶴に大介が笑い出す。
     「俺の奥さん、誘惑しないでくれよー」
     「そりゃ一大事だ」
     「間男は重ねて四つだよ?」
     物騒な笑みを浮かべる薬研と乱に、二振りは大仰に震え上がった。


     ―――― 数年後。
     「何よ!
     姫の馬になれないっていうの?!」
     「誰がお前の馬になどなるか!この!俺を!下に置くなど許さんっ!」
     小学一年生の教室で、大声を上げる子供達を、担任教師が叱りつけた。
     「特に本庄さん!
     お友達を馬にしようなんて、いけません。
     謝りなさい」
     「嫌よっ!!」
     ふんっと、そっぽを向いてしまったワガママ姫に、担任教師はため息をつく。
     「お兄ちゃん達はこんなにわがままじゃなかったのに、どうしてそんなことを言うの」
     「だって亀甲は馬になってくれるもん!」
     「あいつか!!」
     思わず舌打ちした担任教師は、首を振って子供達と目線を合わせた。
     「この件については、ご家族にお知らせします。
     堀君も、本庄さんが謝ったら許してあげますね?」
     「誰がっ!」
     「謝らないもん!」
     強情な二人にため息をついた担任教師は、連絡帳に事情を記載したのち、少し説教をして帰らせた。


     「―――― ってことがあったの!
     なによ、イチのやつ!
     兄上達だって姫の言う通りなのに!
     姫に逆らうなんて許さない!」
     ふっくらとした頬を紅潮させて、畳を叩く彼女の前で、亀甲貞宗は居住まいを正した。
     「姫、それは本当なの?」
     「本当よ!
     イチのやつ、生意気!お仕置きして!!」
     ずいっと迫った彼は、悲しげな顔をして小首を傾げる。
     「姫・・・。
     姫の馬は僕だけなのに、他の子も馬にしようとしたの?
     僕のことはもう、飽きちゃったの?」
     「え・・・」
     意外な問いに、姫は呆気にとられた。
     「姫が、初めて僕を馬にしてくれた時・・・僕以外の誰も馬にしないって約束してくれたのに。
     姫は、ほかの子に乗り換えるんだね。
     僕はもう、いらないの・・・?」
     涙を浮かべる亀甲に、姫は慌てて縋りつく。
     「そんなことないよ!
     亀甲だけだよ!!」
     「でも・・・その子の方がよかったんでしょ?」
     「ううん!
     生意気だから、馬にしてやろうと思っただけ!!
     亀甲の方が好きよ!」
     その言葉に、ようやく笑顔になった亀甲が姫を抱きしめた。
     「うれしいよ!僕の小さなご主人様!」
     だから、と、膝に乗せた姫に微笑みかける。
     「その、イチ君とやらには謝った方がいいのじゃないかな」
     「なんでっ!
     生意気だから、別の仕返しする!」
     「姫、その子にいじめられたの?」
     「ふん!
     イチがそんなことできるわけないじゃない!」
     気の強い姫に、亀甲は穏やかな笑みを向けた。
     「じゃあ、これは姫がいけなかったよ。
     姫だって、イチ君に馬になれなんて言われたら、怒るでしょう?」
     「兄上達だって姫を下に置かないのに!
     姫を下に置くなんて許さない!
     ・・・あ」
     「どうしたの?」
     突然、動きを止めた姫に、亀甲は小首を傾げる。
     「今の・・・イチも言ってた」
     気まずげに頬を膨らませた姫に、亀甲は微笑んだ。
     「そうか。
     大包平君みたいなことを言うよね」
     「あいつも・・・本丸の子」
     「じゃあ、あっちの本丸の大包平君が導いているんだよ。
     嫌なことは嫌って、ちゃんと言えるの、偉いね」
     ふてくされた姫をまた抱きしめて、よしよしと頭を撫でる。
     「姫は、イチ君に嫌なことをしちゃったんだ。
     悪いことをしたら謝るのが礼儀だよ。
     じゃないと、いつまでも戦をすることになるもの。
     姫なら、ちゃんとごめんなさいできるよね?」
     「・・・・・・うん」
     「ふふふv
     姫みたいないい子の馬になれて、僕は嬉しいよ!
     今日は存分に乗りこなしておくれ!」
     早速四つん這いになった亀甲の背に乗り、機嫌よくはしゃぐ姫の姿に、兄達は襖の陰からそっと吐息した。


     「なるほどぉ・・・。
     僕たちが甘やかしてしまったせいで、姫がとんでもないわがままになってしまったと」
     「自覚があるだけに、責任を感じてしまうな、兄者・・・」
     若君達からの相談を受けて、髭切と膝丸は深々と吐息した。
     「初めての姫だって、はしゃいじゃったからなぁ。
     若君達も、散々甘やかしたもんねぇ」
     髭切が苦笑すると、ワカは悄然と肩を落とす。
     「男ばっかりの本丸で、初めての女の子だったから・・・何でも言うこと聞いたし、ほしいものはなんでもあげちゃったから・・・」
     「このままじゃ、姫はクラスで一人ぼっちになっちゃう」
     そう言って、ナカもため息をついた。
     最近では、学校にも本丸育ちの子女が多いとはいえ、姫ほどわがままに育った子はそうそういない。
     「今回は亀甲がなだめてくれたけど、これからのためにも姫には、もうちょっとコミュ力あげてほしい」
     「そうだねぇ・・・。
     その点に関して、僕ら平安刀は全く自信がないんだよねぇ」
     「姫は男子よりも大切な存在だ。
     多少わがままでも、健やかに育ってくれるだけで万々歳というものだ」
     困り顔を見合わせて、二振りは主君の息子達へ目を戻した。
     「一期なら、たくさんの弟達を取りまとめているわけだし、なんとかならないかなぁ」
     「俺もそう思うが、彼も姫に関しては甘やかすばかりだ。
     ここはもう少し、我慢を教えてやれる刀・・・誰だろう?」
     そう思うと、浮かぶどの顔も、姫を甘やかしてきた実績しか持っていない。
     「なんで姫に甘いんだ、ここの男どもは」
     「兄上、姫に一番甘いのは兄上です」
     呆れるワカに、ナカがため息をついた。
     「ここは、母上にびしっと言っていただきましょう」
     「それは・・・そうだけど・・・・・・」
     ちらりと、ワカは気まずげな髭切と膝丸を見遣る。
     「母上が姫を叱ってると、みんながとりなしに来るだろ。
     姫はそれがわかってるから、すぐに誰かに泣きついて、ちゃんと叱られないまま許されちゃうんだ」
     「だって!
     姫が泣いてるの、かわいそうだもの!」
     「男子たるもの、女子供を泣かせることは最低な行為だ!」
     「これだよ・・・」
     何とかしなくちゃ、と、この本丸の嫡男は、決意と共に立ち上がった。


     「・・・というわけで、姫のわがままをなんとかしたいんだ」
     相談を受けた太郎太刀は、長い爪の先を顎に当て、ゆっくりと吐息した。
     「こういうことは、私よりも石切丸殿の方がふさわしいのでは?
     なにしろ私は・・・」
     と、彼はあらぬ方を見遣る。
     「現世のことになど、興味はありませんので」
     「だからだよ!
     太郎は、姫が泣いてわがままを言っても、道理が通らなきゃ受け入れないだろ!」
     「それはそうです」
     ワカの言葉に、太郎太刀は頷いた。
     「私がここにいるのは、戦で必要とされたからです。
     そのほかは瑣末事。
     姫が泣こうと喚こうと、私には興味がありません」
     「あ、そこはもうちょっと優しく・・・」
     「若君」
     ひたと見つめられ、ワカは居住まいを正す。
     「一度決めたことを、易々と翻してはいけません。
     あなたはこの本丸の、嫡子なのですよ」
     「はい」
     「嫡子って大変だなぁ」
     思わずぼやいたナカが、ぺこりと一礼して立ち上がった。
     「俺、ネマワシしてくる。
     じゃないとみんな、こっそり姫を甘やかすから」
     と、太郎太刀の部屋を出たワカは、母の携帯へ電話をした。
     「・・・ということで、姫のしつけをしますから、母上からみんなに、姫の甘やかし禁止を告知してください。
     みんなが甘やかすのを禁止されてる、って聞けば、そっけなくされても姫が泣くことはないし。
     はい、それでは」
     通話を切ると、傍に兄がいる。
     「お前だって甘やかしてる」
     「みんなが動きやすいようにネマワシするのはナンバー2の仕事だって、兼さんに言われました。
     歳さんカッケーって言ってたら教えてくれました」
     「うん、ありがと」
     わしわしと頭を撫でてやると、邪険に振り払われた。
     「なんだよ」
     「子供じゃないんで」
     誰の影響なのか、馴れ合わないと言わんばかりの態度に呆れてしまう。
     「・・・小学生なのに?」
     「小学生でもです」
     礼儀正しくふるまうように、と叱られてしまい、ワカは唖然としたまま頷いた。


     母からもしっかりと叱られた姫は、ふてくされた顔のまま、太郎太刀の前に座った。
     「やれやれ。
     花のかんばせが台無しですね」
     苦笑した太郎太刀は、先に立って、ついてくるように促す。
     「姫はどこ行くの?」
     「私をどこへ連れて行くのですか、とお尋ねなさい。
     そのような問いかけは、とても幼いものですよ。
     もう、小学生になられたのでしょう?」
     「うん」
     「はい、とおっしゃい」
     「はい」
     甘やかしてくれない太郎太刀の足に小走りでついて行くと、畑へと出た。
     そこでは桑名を中心に、江の刀達が農作業に励んでいる。
     「お連れしましたよ」
     太郎太刀が声をかけると、振り返った桑名がにこりと笑った。
     「ワガママ姫のご登場だ。
     じゃあ、まずは雑草取りをしてもらおうかな」
     「えー!
     姫、雑草取りきらい!」
     ぷいっと、そっぽを向いた先に太郎太刀の目があり、頬を膨らませてうつむく。
     「そうだねー。
     地道な作業だけど、実った時が楽しいよ。
     特別に、姫だけの場所を用意したからついておいで」
     後を兄弟に任せて、桑名が姫を手招いた。
     太郎太刀にも促されて、渋々ついていくと、花壇が並ぶ一画の、まだ何も植えられていない場所を示される。
     「姫は、どんな花が好き?
     野菜でも果物でもいいよ。
     僕が手伝ってあげるから、好きなものを育ててごらん」
     「姫の場所?!
     あ・・・えっと、わたしの・・・うんと・・・・・・」
     「そうそう、姫が自由に使っていい畑だよ」
     太郎太刀の顔色を窺いながら、言葉を言い換えようとする姫に、桑名がにこりと笑った。
     「まずは雑草を取りながら、何を植えるか考えてごらん」
     「うん!
     じゃない、はい・・・」
     度々太郎太刀の顔色を窺う姫に、桑名が笑いだす。
     「姫の成長も楽しみだね」
     添え木、と呼ばれた太郎太刀は、複雑な表情で小首を傾げた。


     「では、馬になることはきっぱりと断ったのだな!立派だったぞ、一郎君(ぎみ)!!」
     堀家の本丸で、イチは大包平の大声に大きく頷いた。
     「もちろんだ!
     この!俺を!下に置くなど、女とて許さん!!」
     「うるさいなぁ・・・耳が痛くなるよ」
     そっくりに胡坐をかいて向かい合い、大声をあげる大包平とイチの傍らで、鶯丸が苦笑する。
     「しかし、本庄家とは何年もの付き合いだが、あちらの姫はそんなに横暴だったろうか」
     小首を傾げた鶯丸に、イチは気まずげな顔をした。
     さりげなく表情を窺っていた鶯丸は、ちゃぶ台の上の茶器を、ゆっくりと持ち上げる。
     「一郎君、俺がこの茶を飲み終わる前に、正直に話してごらん」
     ふぅ、と、茶器に息を吹きかける彼から目を逸らし、イチは頬を膨らませて俯いた。
     「・・・花なんて変な名前、鼻の穴みたいって言った」
     「なんだと!!
     では!先に侮辱したのは一郎君ではないか!!!!」
     ならば!と、大包平がこぶしを握って立ち上がる。
     小学校に入ったばかりのイチから見れば、山のようにそびえる巨体は、はるか上から彼を見下ろした。
     「こうしてはおれん!
     急ぎ本庄家の本丸へ赴き、謝罪しなければならんぞ!!」
     「え・・・」
     困って見遣った鶯丸は、茶器を卓に戻して頷く。
     「いいか、一郎君。
     名というものは大切なものだ。
     俺たち刀剣は名をもって顕現し、もののふは名こそ惜しむ。
     それを侮辱した一郎君が、今回の発端だ。
     おのこならばおのこらしく、潔く謝罪してくるんだ」
     「えー!」
     不満げな嫡子を、大包平が肩に担いだ。
     「四の五の言っている場合ではない!行くぞ!!」
     そのまま走り出した大包平の背を、鶯丸は微笑んで見送る。
     「気の強い者同士、よい相性だと思うが・・・そうだな、今世では、婚約はまだ早いな」
     くすくすと笑いながら、鶯丸はまた、茶器を温かい茶で満たした。


     「たのもーう!!!!!!!!」
     本丸中が揺れるかと思う大音声に、本庄家の刀剣達が何事かと出てきた。
     「なにごとだ!!!!」
     負けじと声を張り上げる本庄家の大包平に、堀家の大包平が向かい合う。
     「我が本丸の嫡子殿、一郎君が、こちらの姫へ無礼を働いたとのこと!!詫びに参った!!!!」
     「それは殊勝だ!!
     俺が案内しよう!!!!!!!!」
     「やめろ、本丸が壊れる」
     間に入った本庄家の鶯丸が、ため息をついた。
     「一振りでも十分にうるさいのに、二振りもいられては鼓膜が破れてしまう。
     俺が案内するからお前は引っ込んでいろ」
     大包平を押しのけて進み出ると、イチを抱えた大包平が一礼した。
     「お頼み申す!!!!!!」
     「わかったから静かにしてくれ。
     うちの姫を怯えさせると、本丸中の刀剣を敵に回すことになるぞ」
     こっちだ、と、鶯丸は先に立って、畑へと案内する。
     そこでは太郎太刀、桑名と共に、この本丸の姫が雑草取りにいそしんでいた。
     「おや・・・。
     別の本丸の方ですか」
     太郎太刀が声をかけると、イチを下ろした大包平が口を開く。
     「俺は・・・!!!!」
     「静かにしろと言っただろう」
     鶯丸に容赦ない力で襟を引かれ、咽る大包平を見上げたイチは、不満げに頬を膨らませて姫を睨んだ。
     「なによっ!」
     気の強い姫が睨み返すと、間に入った桑名がイチを手招きする。
     「せっかく来たんだ、手伝っていきなよ、雑草取り」
     「はぁ?!」
     ますます不満顔のイチに、しかし、桑名はにこりと笑った。
     「どうやら君は、大包平の薫陶を受けているようだ。
     だったら、こういう地道な仕事もまじめに取り組むんじゃないかな。
     うちの姫は・・・」
     と、気の強い少女を見下ろす。
     「みんなが甘やかしたせいで、すごくわがままになっちゃって。
     今、太郎太刀に躾しなおされてるところなんだよね」
     ね?と、覗き込んだ顔は、不満げに膨らんでいた。
     「正面から言うよりも、並んでいた方が話しやすいってこともあるでしょ」
     どう?と、声を掛けられた大包平が、彼の体格に比べて小さな一画にしゃがみ込む。
     「さぁ!一郎君!!俺達もやるぞ!!!」
     「うー・・・」
     ごねるイチの背を、鶯丸が軽くたたいた。
     「覚悟を決めてきたのだろうに、ためらうものじゃない。
     いさおしを上げておいで」
     しょうがなく土の上にしゃがみこんだイチは、姫と並んで雑草を取り始める。
     「・・・名前、馬鹿にしてごめん。
     それはダメだって、うちの鶯丸に、叱られた」
     ぼそぼそと言うイチに、姫の尖っていた目尻も下がった。
     「・・・姫も、他の子を馬にするのはダメって、亀甲に言われた。
     母上にもすごく怒られたから・・・イチのことも、許してあげる」
     「うむ!!偉いぞ、二人とも!!!!」
     突然の大音声に、子供たちが飛び上がる。
     「・・・堀家の大包平。
     言ったはずだ、うちの姫を怯えさせるなと」
     鶯丸だけでなく、太郎太刀にまで睨まれて、大包平は一礼した。
     「すまん!
     しかし、一郎君と本庄家の姫の寛容さに心打たれたのだ!!」
     「まぁ・・・種を狙っていた鳥を追い払ってくれたことにはお礼を言うよ」
     くすくすと笑って、桑名が姫の隣にしゃがみ込んだ。
     「さて、姫は何を植えるか、考えたかな?」
     問うと、イチをちらりと見て頷く。
     「いちご。
     みんなで食べるの」
     言うや、ぷんっと、そっぽを向いた。
     「姫のこと、もう馬鹿にしないなら、イチにもあげていいよ」
     「イチゴかぁ・・・」
     困り顔で頭をかきながら、桑名が苦笑する。
     「イチゴはもう、植える時期を過ぎてしまったからね。
     今回は花にしよう。
     ヒマワリなんかどうかな?
     種が食用のものを植えてあげるから、夏には燭台切にお菓子を作ってもらおうね」
     一緒に食べよう、と、頭を撫でてもらったイチが頷いた。
     「和解だな。
     お前たち、作業が終わったら縁側へおいで。
     菓子と茶を出してあげるから」
     農作業を手伝う気などさらさらない鶯丸が、ひらりと手を振って行ってしまうと、太郎太刀が軽く手を叩く。
     「では、早々に終わらせましょう。
     姫には後ほど、言葉遣いの指導をしますので、そのつもりで」
     「えぇー・・・」
     見遣った桑名は、『奥方に禁じられてるから』と笑って助けてくれず、姫は渋々頷いた。


     「見事な人選だったね」
     「さすがは我が本丸の嫡男だ」
     髭切と膝丸に褒められて、ワカは嬉しげに頬を染めた。
     「中君(なかのきみ)の根回しも見事だったし、我が本丸は将来も安泰だね」
     おいで、と、髭切が手を伸ばすと、ナカは嬉しげに駆け寄って、彼の膝に乗る。
     「お前、子供じゃないって言ってたじゃん・・・」
     「髭切は別です」
     うんと年上だから、と、筋が通っているのかいないのか、よくわからない理由をあげる弟に、ワカはぷす、と鼻を鳴らした。


     一方、堀家の本丸では。
     「一郎君!!!!今日は立派だったぞ!!!!!!!!」
     大包平の大音声に小動もせず、イチは大きく頷いた。
     「俺も!!
     本庄家の兄君達のように!!!
     弟を守れる男になるんだ!!!!」
     「・・・とっても立派な心掛けですけど、ちょっと静かにしてくれません?
     鼓膜が破れちゃいます」
     回廊を通りかかった堀川国広が、耳に当てていた手をそろそろと外す。
     「あぁ、散らばっちゃった・・・。
     もう!
     お二人の声にびっくりして落としちゃったんですから、拾うの手伝ってください!」
     「すまんっ!!!!」
     「ごめんなさい」
     すぐさましゃがみ込み、回廊中に散らばった紙を集めながらイチは、難しい漢字の並んだ書面を眺めた。
     「これ、母上の?」
     「そうですよ。
     会社の芹沢鴨を、社会的に抹殺するための証拠集めです。
     僕、闇討ちは得意なんですよv」
     にこにこと、人当たりのいい笑みを浮かべながら、言うことはえげつない国広に、イチは集めた書類を渡す。
     「次の若子(わこ)さまが生まれる前に、鴨鍋の準備をしておけと命じられましたから!」
     「なるほど!
     勇ましい奥方だ!!」
     なにが『なるほど』なのか、意味がわからないながらも、イチは大包平を真似てこぶしを掲げた。
     「母上に、がんばれって言って!
     国広も頑張って!」
     「はい!任せてください!」
     大きく頷いた国広は、拾ってもらった書類を受け取るや、くるりと踵を返した。
     「では一郎君!!
     立派な男になるべく!!
     修行だ!!!!」
     「はいっ!!!!」
     二人の大声にまた、国広は回廊に書類をぶちまけた。



     了
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