光ウェディングフォト撮りたい!
意気揚々とそう言ってきたのは恋人の七ツ森。
一見クールで、仕事であるモデルをしている時はワイルド系と称されているが、風真の前ではこんな風に見えないしっぽを振って甘えてくる。
カワイイ。身長180を超えている男に対して言う言葉ではないのは重々承知しているが、風真の目から見たら七ツ森はカワイイのだ。
そんな七ツ森のオネガイは快く応じて上げたい……とは思っている。
七ツ森は女装の嗜みもあるし、おそらく彼がウェディングドレスを着るのだろう。その隣に自分が白のタキシードで並ぶ……のであれば問題はない。
が。だがしかし、だ。
もしかしたら逆かもしれないと背中に冷や汗が垂れる。
というのも、七ツ森との関係は恋人同士。つまり、身体の関係もある。その際の役割というか……つまり抱かれる側なのは風真の方なのだ。いわゆる、女役、だ。
そうなれば、「ドレスはカザマが着て」と言ってくる可能性もあるかもしれない。
恋人の願いはかなえてあげたい、とは思うが場合にもよる。正直に言えば恥ずかしい。仮に七ツ森しか見ていなかったとしても、ドレスを着るのは
「二人してタキシード着て写真撮ろ!」
「先にそれを言え」
「え」
ドレスを着る事を想像して悶々としていた己の方がよっぽど恥ずかしかった。
そんなわけで、七ツ森が予約していたスタジオで貸衣装に身を包む。
風真の衣装は七ツ森が選んだものだ。似合っているかどうかはよく解らないけれども、七ツ森が選んだのなら間違いないだろう。そもそも彼が喜ぶのならそれでいいのだから。
スタジオに入ると、こじんまりとした会場が作られていた。カメラマンは男同士という事を揶揄う事もなくポーズの指定やアドバイスを次々に出していく。さすが七ツ森は支持されるがままにポーズを決めているが、風真の方がそうはいかない。ぎこちないながらも七ツ森に誘導されどうにかこうにかポーズを決めていた。
数枚撮影したあと、カメラマンがスタジオを出ていったので二人きりに。
「カザマ、疲れた?」
「いや……あ、まぁ……少し、な」
多少繕って見たものの表情でバレるだろうと本音を伝えたら、七ツ森はクスクス笑って「でも絶対いい写真撮れたから!ありがとう!」と嬉しそうに笑っている。その顔が見れただけで十分嬉しい。
撮影は終わったけれど、スタジオを借りている時間内はココに二人で居て良いらしい。狭いスタジオ内を手を繋ぎながら歩いたり、肩を寄せ合ったり抱きしめ合ったり……カミサマの前で誓ったり。
触れるだけだったそれを何度か繰り返していく内に、だんだんとエスカレートしてくる。それはいつもの事なんだけど、流石にここではまずい。そう思うけれども、カミサマの前で、いつ誰が来るかもしれない場所で、穢れの無い真っ白な衣装を着て……そんなシチュエーションが互いの興奮に火を注ぐ。
舌を絡めながら七ツ森の手が風真の後頭部から襟足へと移動し、首をなぞる。ゾクっと震え、一瞬足から力が抜けた。
「あっ」
「カザマッ」
そのままペタリと床に座れば、焦った表情の七ツ森が心配そうにのぞき込んできた。
「ゴメン、調子のった」
「いや俺もだから」
だから気にするな、と笑って見せたら、七ツ森がジッとこっちを見てくる。
「七ツ森?」
「カザマ、すげーキラキラしてる」
「え? あ、光が」
「うん。すげー眩しい」
天窓を模している天井からの光が、風真を照らしていた。それを眩しそうに見ながら、七ツ森がまた顔を寄せて来た。
今度は軽く触れるだけのキスをして、お互いクスクス笑って。そろそろ時間切れかもな……と腰を上げようとした時。
「ね、膝枕してもらってもいい?」
「は?」
「寝転がって、光が見たい」
風真の太腿にあたる光を浴びたい。そんな可愛いオネダリを拒む理由もなく。
「どうぞ」
「アリガト」
促せば嬉しそうにころりと寝転がり頭が乗っかった。
そのまま両手を天井に向ける七ツ森の左手に光るモノが。
この衣装とセットなソレは、風真の左手の指にもはまっている。
「カザマ」
「ん?」
七ツ森の左手が、風真の左手を軽くつかむ。
「まだ、まだ無理だけどさ」
「……ああ」
「いつか、俺から贈らせてね」
「ああ……俺も、七ツ森に贈るよ」
お互いの顔は見ずに、二人を照らす光を見ながら。
思い描くものは、未来は、同じ。
その時を想いながら、二人で静かに笑っていた。