20ポンドの行方クリスマスまであと3週間ほどとなったある日。ロンドンの外れに佇む小さなスーパーマーケットで、店主の男はオープン前の掃除をして時間を潰していた。平日ともあって外の人通りは少ない。これは暇な一日になりそうだと予感したその時、一台の車のエンジン音が店の前で停まった。熱心な主婦が買い物に来たのかと思って扉の方を見たが、ベルの音とともに入ってきたのは一人のアジア系の男だった。
店主はその男の顔を知っていた。というか一度見たら忘れない外見をしていた。柔和な印象を与えるグリーンの瞳にスッと通った鼻筋。特徴的なピンクの猫っ毛は、襟足だけ黒く無造作に後ろで縛られている。その男を印象づける極めつけは、たまに一緒に来るパートナーらしき男性も美形のアジア人だということだ。
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