秘めたる想いをいつの日か。年の瀬になると炭治郎の元に訪れる宇髄は今年も変わらずだった。何をする訳でも無くただお互いの近況を話したりぼぅっと縁側でお茶を飲んだり。傍に、隣に居る事が心地良かった。
「もう直ぐ新しい年ですね」
「もうそんな時間か。お前と居るとあっという間に時間が過ぎていく気がするぜ。こんな風に年越しを出来るなんて思ってもみなかったなぁ。…ありがとな」
「俺の方こそありがとうございます。毎年会いに来てくれて嬉しいです」
闘いに明け暮れていた日々は終わり、今は平和な日々を過ごしている。毎日会えなくてもこの時が嬉しくて炭治郎は楽しみにしていた。それは宇髄も同じなのだと、匂いで分かる。
遠くから聴こえる除夜の鐘。それが終わると新しい年が明ける。新年はどんな年になるだろうな。またこうして共に過ごせるだろうか。
「宇髄さんあけましておめでとうございます!今年も宜しくお願いします!」
「あけましておめでとう竈門。今年もよろしくな」
囲炉裏を囲んで他愛もない会話を繰り返していると朝が来る。外へ出るとまだ吐く息が白い。初日の出を一緒に見た後に宇髄は帰路へとつくのが恒例だ。寂しい、と思ってしまうのは炭治郎の心の奥底にある宇髄への気持ちがあるからだろうか。宇髄には家庭がある。それを壊すつもりも、この気持ちを伝える気もない。けれど、次に会えるのが一年後と思うだけで言いかけそうになる。
「…宇髄さん、俺」
「また年末に来るから、元気にしていろよ」
「はい…宇髄さんもお元気で」
言いかけた言葉を飲み込んで笑顔で送り出す。ふわりと炭治郎の頭を撫でる宇髄の顔が朝日が眩しくて見えなかった。頭から手が離れる感触に顔を上げると、既に後ろを向いていた宇髄が手をひらひらと振りながら帰っていく。その背中を眺めて炭治郎は次に会える日を楽しみに家の中へと入ろうとした時だった。微かに感じた匂いに心臓がどぎどきとした。今まで感じなかった宇髄の感情の匂い。これが本当ならば次に再会した時炭治郎は言ってしまうだろう。
『ずっと貴方が好きでした』