りつ夢2りつ夢2
「前は可愛かったのに」
「? なに?」
「りつくんは付き合ってから猫ちゃんみたいになったねって思っただけ」
「猫……猫、ふーん」
以前のステージ衣装で猫の耳やしっぽのついた衣装を着ていたからなのか結構嬉しそうにしているりつくん。
猫みたいだと思っているのは本当だがほめているわけではないのに。猫のようにふてぶてしいと言いたかったのだ。
付き合う前はぶっきらぼうながらも私のことを意識してくれていて、ふんわりとセットされた黒髪の内側に隠れた耳を真っ赤にしていたりしたのに。いまではぶっきらぼう、というか不愛想なところだけが残って恋人らしい甘さはほぼほぼ無い。なんでこうなっちゃったんだろう。りつくんはいわゆるアレだったのかもしれない。
釣った魚に餌をやらない、ってやつ。
今は私の前でも気を抜いた姿を見せてくれるようにはなっているけどそれも素を見せているというよりいないものとして扱われているような気がしてならない。
まおに相談してみようかとも思うけどりつくんは私のことをあからさまな彼女扱いはしないくせにほかの男の人と話そうとしたり遊びに行こうとすると不機嫌になる。自分のおもちゃを取られるようで気に入らないんだろうな……
『ねねね、合コン行かない?』
「合コン?いや、私は彼氏……」
彼氏。彼氏って何だろう。自分の世話をさせて離れようとしたら強引に引き止めてその時だけ甘えてなかったことにする。それって本当に彼氏なのかな
『彼氏?もしかして恋人出来てた?余計なお世話だったか』
「ううん、彼氏とか興味ないって言おうとしただけ。でもやっぱり行こうかな」
お!と嬉しそうに声を上げたみかは部活で忙しくてあんまりクラスメイトと関われない私にもよく話しかけてくれるような子でクラスの中心的な子。おとなしい子にとってはちょっとにぎやかすぎるって理由で苦手に思われてるみたいだけどそれでも嫌いってわけじゃないからすごい子だ。
『放課後校門前で集まるから!』
「うん わかった」
私はりつ君が好き。でもりつくんはもう私のことをそこまで好きじゃないんだと思う。だから離れる。ううん、離れたままになるわけじゃない。でもこのままだとちょっとつらいから、だから気ままな猫のように勝手にお出かけする(りつくんのテリトリーの外に出る)の。
ちゃんと戻ってくるよ。それでも私ばっかり縛り付けられて、そのくせ甘やかしてくれないから出て行っちゃう。
ねこみたいな彼なら彼女も同じようにねこみたいに軽い気持ちでいなきゃ耐えられないんだって初めて知ったよ りつくん。
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カラオケで始まった合コンは思った以上に楽しいもので開始直後の楽しめるかどうかって気持ちなんて吹き飛んだ。これは合コンという名目ではあったけど恋人とか気になる人がそっけなかったりして辛くなっちゃった人が集まって遊んで暗い気持ちを吹き飛ばすためのものらしかった。それを聞いてからはずいぶんと気が楽になって、アイドルの彼と付き合うんだからって張りつめていた心の糸が緩んでひさびさに笑えてたと思う。本当に楽しかった。
久しぶりに全力であそんで同じような事になってる子と相談しあったり、逆に男の子にアドバイスしたり………帰りは途中まで同じ方向らしい女の子と一緒に帰ることになった。彼女は幼馴染が軽い女性恐怖症を患っているみたいで、かわいい女の子らしいものが好きだけどその幼馴染のそばにいるためにボーイッシュな格好をしているとっても健気な子だった。
『身長が高くてよかったよ』
って笑うその子は本当にかっこよくて、それでもかわいかった。その話を聞いたときはつい泣いちゃって、でもそのおかげで出会って数時間しかたってないのにとても仲良くなれて連絡先も交換した。
家まで送ってくれるという言葉に甘えて家の近くまで来ると自室の明かりがついてるのが見えた。多分りつくんが来ている。送ってくれた彼女が気を使ってもうちょっとどこか歩こうかと誘ってくれたけど割ともう暗くなっているしこれ以上引き止めるわけにもいかないからそこで別れて私は家に帰った。
明かりがついていたから部屋にいるものだと思っていたけれど予想は外れてりつくんは玄関で私を出迎えてくれた。
「あ、ただいまりつくん。うちに来てたんだね」
私の言葉には返事をせず全然目も合わない。ずっとうつむいたままのりつくんにちょっと怖くなって時間も遅いし帰る準備をしたらどうかと提案すると手首を近まれていきなり抱き寄せられた。
私の言葉には返事をせず全然目も合わない。ずっとうつむいたままのりつくんにちょっと怖くなって時間も遅いし帰る準備をしたらどうかと提案すると手首を近まれていきなり抱き寄せられた。
「あいつのがいいから俺を帰らせようとするの?あんなに楽しそうに笑ってたの見たことない。何がダメだったの?おれのこと、」
「きらいになった………?」
か細く言われた言葉に面食らって体にまわっていた腕から抜け出す。そのことにより一層傷ついた顔をしたりつくん
「まーくんの良さは俺が一番知ってるからまーくんとあんたが話すのはいやだった。でもほかの男にとられるって考えたら本当に」
本当に、殺したくなる
低くうなるように声に出された言葉とは裏腹の泣きそうな声でそんなことを言われたら全部を白状するしかなくなる。段々と顔も泣きそうに歪んできたりつくんを抱きしめて洗いざらい話すことにした。
それからはりつくんはすっごい甘やかしてくる様になってこっちが疲れてしまうほどだ。
なんで素っ気なかったのかと聞けば距離感がわからなかったのと、素っ気ない時の自分を好きになったのだと思って甘やかさないように意識していたらあんな冷たい態度をとってしまってたのだと知った。
ちょっと疲れちゃうけど、それでも素っ気なさすぎる前よりはずっと良いと言えばりつくんは嬉しそうに微笑んだ。