あんたを噛む理由 漣ジュン「ジュンも彼女に噛み付くことってあるの?」
ダンスレッスンをしている途中、休憩を挟んでいたナギ先輩と俺はイスに座ってスポーツドリンクを飲んでいた。そんなことを言われた俺は飲んでいるにも関わらず、思わず吹き出しそうになりむせる。
「な! ナギ先輩突然なんすか?」
「……大丈夫?」
「大丈夫です。何でそんなことを?」
「以前彼女の首筋に噛みついたことがあるんだけど、普通はしないと怒られたから」
俺は何を聞かされているんだと思いながら軽く相槌をうつ。
「一般的にはどうなのか、気になって調べてみたんだ。そしたら、噛み付くのにも意味があるみたい」
「へぇ、意味なんてあるんですね」
「私は多分『甘えたい』かな。彼女といると構って欲しくなる」
「そ、そうなんですね」
「ジュンは?」
「はい?」
話を振られて我ながら変な声が出る。
「ジュンも噛むと思っていた」
「ま、まあ」
「噛むの?」
「……その話はいいでしょう!」
「やはり私だけなのかな」
シュンとした表情をするナギ先輩を見て俺は慌てる。
「あ、いや。そんなことはないんじゃないすかねぇ?」
「本当?」
「た、多分」
「……じゃあ、ジュンはどの意味で彼女のことを噛むの?」
そんなこと考えたことはない。ただ彼女のことが好きで、噛んだ後にはにかむ顔が愛おしくて。つい噛んでしまう。
「理由はいくつかあるんだけど」
そう言ってナギ先輩はサイトを見せてきた。……あ、これだ。そう思い無意識に読み上げる。
「相手を食べたいくらい、可愛いと思っている……」
「……へぇ、意外。ジュンは彼女に対してそう思っているんだね」
「な!」
自分の顔が熱くなるのがわかり、気を紛らわせるために「早く続きやりましょう!」と言って話を終わらせた。ナギ先輩は楽しそうに笑っているが気にしない。
噛むことに意味があるなんて思いもしなかったが、オレは彼女のことを食べたいくらい可愛いと思ってるらしい。まあそうかもしれない。彼女が愛しくて自分のものにしたい気持ちが強いのかもしれない。
この話を伝えたらいつも顔を真っ赤にする彼女はどんな反応をするんだろうか。今日はどこを噛もうか。そんな邪なことを考えながらレッスンに戻った。