お題「雨、やまないな」 瀬名泉「雨、やまないな」
友人と遊んだ帰り、最寄の駅についた私は雨が降っていることに気づき、雨宿りをしてから帰ろうと思った。あいにく傘を持っていなかったので、近くのカフェへと小走りで向かった。
注文したコーヒーを飲み終わっても雨は止まず、むしろ激しくなる一方だった。
「そういえば、泉が雨降るって言ってたかも。朝急いでたからなあ、最悪」
そう言って外を眺めていると、あるカップルが相合傘をしながら笑顔で歩いているのが目に留まった。
「良いなぁ。私も泉と相合傘したい」
なんて呑気なことを言って、勝手に虚しくなる。今日の彼はお仕事で、連絡をしても家にいるはずがないので傘を持って迎えに来てはくれない。
せっかくなのでゆっくり本でも読もうと思い、追加で注文をすることにした。
本に夢中になっているとカランカランと入店する音が聞こえた。もちろんそんな音は何度も聞いているので毎回入店する客を見てはいない。
私はその音を気にせず本を読み続けた。しかし、今回は私の席までその影は近づいてきた。
「ちょっとぉ~」
聞きなれたその声を耳にすると反射的に顔を上げる。
「あんた、傘持って行かなかったの?」
「……い、泉」
「もしかしてと思って連絡しても気づかないし。カフェ覗いたらやっぱりいた」
「え! ごめん、気づかなかった」
「こんなに本に集中してたんなら、気づかないのも無理ないよねぇ」
そう言ってアイスティーを頼んだ彼は向かいの席に座った。悪いことをしたわけじゃないけど、連絡に気づかずにいた自分に罪悪感を抱き、少し落ち込んでしまう。
「別に怒ってないから。続き、読んだらぁ?」
優しい顏で言う彼に安心しながら、その言葉に甘えてキリの良いところまで読む。静かにパタンと閉じて本をしまう。
「終わった? じゃ、さっさと帰るよ~」
そう言ってお会計を早々に済ませた彼は店を出る。雨は相も変わらず土砂降りで嫌になるが、横で傘を広げた彼は私の肩に手を置いて、引き寄せた。
「今日は一つしかないから、これで我慢してよね?」
あ、これ相合傘だ。そう思いながらにやにやとする私を見て、「ちょっとぉ、反省してるわけ?」なんて小言を言いつつも楽しそうな彼を見て、雨も悪くないなと思った。