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    ikasoumen11

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    POIPOI 21

    ikasoumen11

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    ポメガバ尾勇

    お菓子キャッチ遊びをする尾勇勇作は、今回ポメってもう3日戻らなかった。
    それどころか、人間の思考すら在るのか怪しかった。寝る、食う、遊ぶを繰り返すものの、なかなか人に戻らないし、意志疎通用の板も、「???」っといった感じでこちらの質問にも小首を傾げるだけのこともあった。
    大丈夫なのか、コレ。
    本によると疲労があまりに強いとある程度は残る筈の人としての自我が、犬の本能に飲まれることがあるらしい。
    ちゃんと戻るんだろうな、オイ。
    不安を抱えながら、尾形は勇作を今日も世話していた。散歩、エサ、トイレの始末にブラッシング…もう、小型犬飼ってるだけの生活が続いた。
    「勇作さん。」
    「アンっ!」
    呼ぶと勇作は返事を元気に返した。
    名前は忘れてないことに安堵する。知能はどれ程なのだろう。
    「お手は、こうしたら、ここに手を…解りますか?」
    「キャン!」
    「…お手」
    ぱふっ!
    ざらりとしながらももちりと柔らかい肉球の感触が、尾形の手のひらに広がる。
    えらいえらい、と頭を撫でると勇作は嬉しそうにもふもふの尻尾を振った。
    …ついに芸を覚えさせてしまった。いや、言葉をちゃんと理解しているか確認するためだ。
    でも只の賢めの犬だったら…?
    まぁ、いいか。
    「賢いですね、ほら、おやつです。」
    そういって取り出したのは、おやつ犬ボーロ(ポメガバース用)丸いコロコロした焼き菓子みたいなものだ。
    すると勇作の瞳はキラキラと輝き、尻尾は引きちぎれんばかりに振られている。
    やっぱりかなりポメ化が強いな…こっちの言わんとしてることは察するが、犬扱いをこうもすんなり受け入れるとなると人の自我や理性はあまりない可能性がある。
    ストレス発散を、より進めなければ。
    尾形はふと思い付き、取り出したおやつを勇作の方に向かって軽く投げた。
    すると勇作は、おやつ目掛けて小さなもふもふボディをジャンプさせお菓子を華麗に口でキャッチしたのだ。
    「おお、やりますね。」
    尾形は、もう一つ投げる。
    勇作のもふもふボディもまたジャンプして、おやつ犬ボーロを綺麗にキャッチした。
    「次!」
    尾形はボーロをより高め、勇作の後ろを狙う。が、勇作は回転すると背後のおやつを落とすことなく受け止めた。
    そうか、これなら走るより動きはあるし、頭も使うし、成功の達成感もある。いいかもしれん。
    掛け声なしの二連投、しかし勇作はそれもバウンドする毛玉の動きで受け止めた。そして明後日の方向に投げられた菓子も、自身の体長の三倍のジャンプで取ったのだ。
    「…あなた、凄いですね…」
    もぐもぐと満足げにお口を動かしお菓子を満喫する勇作の運動能力に感心しながら、これってそんなに旨いのか…と犬ボーロを摘み、尾形はそれを眺める。
    すると、じっ…とつぶらな視線。
    その視線の主が足元に居る。
    「…はいはい」
    投げようか、とも思ったがすぐ足元にいたのでそのまま手から与える。勇作は小さな舌で舐め取って、ボーロを食べる。
    ボーロを食べ終えても、まだ勇作は尾形の指を小さな舌でチロチロ舐めた。もうありませんよ、と言っても勇作は無邪気に手に口をつけて湿った鼻も擦り付ける。
    手が汚れた、と思いながらも尾形は期待に満ちた目で見つめる勇作の額を撫でてやった。


    あれから一月、勇作は犬ボーロキャッチ遊びで満足したのか、次の日もとに戻っていた。
    尾形は今、ダラダラとビールとスナック菓子を投げ食いしながら、たいして面白くもない動画を見ている。
    横で勇作も酎ハイを片手に動画を眺めている。
    いつの間にやら、勇作は人の姿のままでも出入りするようになっていた。迷惑だと言いたいが、現状把握とある程度は相手をしてストレスを発散させてやらないとと思うと邪険にもできない。こっちの方がストレスになりそうだ。
    勇作的にはこの動画の芸人は割りとツボらしく、結構楽しそうに笑っている。
    そんなに面白くねぇよ…と思いつつ弟の笑う顔を眺めながら菓子を放る。
    あっ…
    手元が狂い、スナックは明後日の方向に飛ぶ。
    しまった、まあ、いいか。
    たかが菓子だし。
    しかし、それでもとっさにしまったと思う辺り俺もー

    その瞬間だった。

    ばくっ!!

    床に落ちるだろうと思った菓子は、突如現れた勇作の口の中へと吸い込まれていった。
    絶句する尾形と目があったベッドスライディングの体制の勇作は、あ、その、とっさに…すみません、はしたないですね…と真っ赤になりながら身を起こし、肩をすぼめてチューハイ缶に口をつける。
    「何で、食おうと思ったんです?」
    「あ、いや、その、反射的にといいますか…」
    そう恥ずかしそうに言う勇作に向かって、尾形はまたスナック菓子を投げる。
    先ほどよりはその口を狙った菓子の軌道に、勇作はまた口を開けて受け止めた。
    もぐもぐ、ごくん。
    「はっはははっ…」
    「はは…お恥ずかしい…」
    一度ならず二度までも投げられた菓子を口でキャッチするなんてと居たたまれない気になりながらも、目の前の尾形があまりに可笑しそうに笑い出すので、勇作もつられて笑う。
    「勇作さん。」
    笑っていた兄に急に呼ばれたかと思うと、目の前に菓子。とっさにまた口を開いたが、菓子と共に口内に入ってきたのは尾形の指。
    慌てて吐き出そうとするが、正面の兄はそれを許してくれない。勿論噛むわけにはいかない。勇作が舌で押し出そうとしたら、尾形は何故か楽しそうに自分の口元を眺めている。
    一緒に口内に入ってきた菓子がぐずぐすに溶けてなくなるまで、結局尾形の指は口の中に居た。

    「な、なんで…」
    勇作は意味が解らないという顔をしている。
    たまに抜き差しの動きをし、舌に触れ、軽く口の中を混ぜ、その指をしゃぶらせた。生暖かい中の感触が指に残っている。
    ようやく引き抜いた唾液と菓子かすでデロデロの指をしげしげ見ながら、尾形は勇作の疑問に対しにいっと笑う。
    「さぁ、何故でしょうね…」
    ぐっしょり濡れた指を見つめる瞳は、仄暗い煌めきを宿していた。
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