神室町の床屋3「なぁ柏木さん、仲通り裏にあった床屋あったやろ」
「ああ、あそこか。もう爺さんが引退してからだいぶ経つな」
「息子さんから会社に連絡があってな。おっちゃん、この間亡くなったらしいねん。寿命やて。葬儀は家族葬で済ましたそうや」
「……そうか」
「柏木さん、あれから髪切りに行ったりしたん?」
「7年前くらいか。店に顔出しに行ったよ。引退してもやっぱり店が好きなんだろうな。レジ横で座ってたぜ」
「もしかしてそのまんまの姿で行ったんか?」
「流石に顔は隠して行ったさ。すぐバレたけどな」
「死んだと思ってた奴が生きてたんや。そら嬉しかったやろうな」
「お前の札幌の件があったからな。俺のこともどこかで生きてると思ってたそうだ」
「俺のせいでサプライズ台無しにしてしもたな!」
「笑えねぇよ、馬鹿」
「まー、あのおっちゃん、いつもあんなニコニコしとんのに怒るとごっつ怖いねん」
「何やったらそこまでなるんだよ」
「店の前で桐生ちゃんと喧嘩しとったんだけど、ほらあいつそこら辺のもん手当たり次第投げてくるやろ。店の看板でぶん殴って来てな、それで壊してしもた」
「……」
「俺までお灸据えられてな。あん時のおっちゃんほんま怖かったわ。親父とトントンかもしれん」
「それから店前では喧嘩しないことにしたわ」
「喧嘩をやめろよ……」
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「その時オールバックだったんだが、それ親父の真似かって大笑いされた」
「ヒヒヒ。え、実際どうなん?」
「……」
「なぁ、なぁ」
「なぁって」
「しつこい男は嫌われるぞ」
「人のこと言えんくせに!」
「なっ…!!」