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    カシス🧸❄️

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    カシス🧸❄️

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    トムテくんとブギーマン先生が妖精繋がりで仲良いと嬉しいなぁと思って書いたやつ。ラブだったらトムテ×ブギーマンだと思ってたけど、普通に友人同士でも美味しい。今のところ続く予定が無いので供養。

    #トムテ
    tomte
    #ブギーマン
    boogeyman
    #放サモ

    妖精と妖精が交流する話(トムテとブギーマン)トムテとブギーマン
    「ブギーマン先生! 今日もご苦労さまだ!」
    「あぁ……君か。おつかれさま」
     私ひとりしかいない教室に、はつらつとした声が響き渡る。すっかり聞き慣れたその声を聞きながら、私は目の前の答案から顔を上げて声の主を出迎えた。
     声の主はトムテという妖精であり、私と同じ「転光生」だ。ここ神宿学園からほど近い東京サンタスクールに通うサンタ科の生徒であり、トップブリーダーと呼ばれているらしい。そして私と同じ青年と契約を結び、召喚主に喚ばれ共に戦う事がある。彼とは「縁」らしい「縁」は無く、戦友でこそあれど接点は無い……筈だった。
    「ブギーマン先生……今日はなんだか、元気が無いな。もしかして、疲れているのか?」
    「えっ。いや……そんなことはないと思うぞ」
    「今日は昼はしっかり食べたか? 昨夜はしっかり寝たか? 水分は摂ってるか?」
    「ちょっ……トムテくん! 本当に、私は大丈夫だから!」
    「いや、もしかしたら座っている姿勢が悪いのかもしれないな……ちょっと失礼させてもらうぞ!」
    「いやだから私は平気だから……トムテくん、私の話を聞いてくれ! トムテくんっ!!」
     ――それが何故かこのように懐かれ、毎日のようにお世話をされている。
     余所の学校とはいえ生徒からこのように何から何まで気遣われてお世話をされるのは教職員として体裁が悪い。そうじゃなくても私はいい大人だし、なんともばつが悪い。だが、そんな彼の行いが満更じゃないといえば、嘘になる。
    「すっ、すまない……ブギーマン先生。迷惑……だったよな」
    「いや、そこまでは言っていないが……」
     当のトムテくんはといえば、制止を訴える私の言葉を聞くなりしゅんぼりと項垂れていた。形の良い太い眉毛が分かりやすく垂れ下がり、その声を微かに震わせる。
    「お世話が好きだからって無理やりお世話するのは良くないな……だが俺は、ブギーマン先生に元気でいて欲しくて……」
    「あぁ、そうだな。君は優しい子だ。その気持ちはすごく嬉しいぞ」
    「俺は……俺は、なんて悪い子なんだ……ッ!!」
     そんなトムテくんを宥めようとしていたが、最初の勢いが嘘のように見る見るうちに消沈していった。なんというか、彼は自罰的な気質がある上に、勢いがつくと話を聞かないことも多い。自らを「悪い子」だと嘆く彼の姿は珍しいものではないが、その様を目の当たりにすると私も罪悪感が湧き上がってくるのだ。
    「あ……ー! 授業が終わったからお腹が空いたかもしれない! 喉も渇いたなー!」
    「それは……本当かっ!? それはいけないな……ブギーマン先生のためにお菓子とお茶を持ってきたんだ! いま用意するぞ!」
    「……ありがとう。嬉しいよ」
     私が空腹と喉の渇きを覚えていると知るや否や、数拍前の消沈ぶりが嘘のように青い瞳をキラキラと輝かせて持参した荷物を漁り始めた。そんなトムテくんの姿に安堵しながら、私は手にした赤ペンを置いて教室の机と椅子を動かしてお茶会の準備を始めるのだった。

     ――本来ならば、私は「悪い子」をお仕置きする「役割」を担っている。だが私は、トムテくんが彼の言うように「悪い子」だとは、到底思えない。
     彼がなぜ私に懐いているのかはわからない。だが私もまた彼の来訪を心待ちにし、彼のお世話に安らぎを覚え、少なからず……彼に、惹かれていた。そう、彼に惹かれているのだ。

     ***

    「……美味いなぁ」
    「そうか! それは良かった!」
     思わずしみじみと呟く。トムテくんが水筒に入れて持参した紅茶は暖かく、ミルクと蜂蜜とシナモンの甘さが優しい。疲れた身体に沁み渡るようだった。彼が私のことを想って淹れてくれたということがじんわりと伝わってくる。
    「ブギーマン先生、今日の仕事はあと何が残っているんだ?」
    「仕事、かい? そうだな……明日の授業で使うプリントは作り終わったから、あとは今やってる小テストの採点。それから花壇の整備をしようと思っていたな」
    「そうか……やはり教師のお仕事は大変なんだな」
    「はは……まぁ、ね。だが大変じゃない仕事なんてないさ」
     トムテくんに勧められたクッキーを齧りながら、思わず肩を竦める。教師としての仕事も、事務員としての仕事も、やり甲斐がある。良い教師……とは言えないかもしれないが、最近は雰囲気が柔らかくなったと言われ、慕ってくれる生徒も増えた。何より日々成長していく生徒たちは可愛い。だがやはり、大変かそうじゃないかと言われると大変な仕事ではある。
    「俺はサンタスクールに通っているから、普通科の授業というものがわからないからなぁ」
    「サンタになるための授業だからね……こちらの授業とは、学んでいることが大きく違うかもしれないな」
    「そうだな。サンタとして迅速に子供たちにプレゼントを届けるための授業や、サンタスニーク……あとはトナカイとブラックサンタの授業もあるぞ」
    「ブラック、サンタ?」
     マグカップに口をつけながら、聞き慣れない単語に首を傾げた。サンタというのは「良い子」にしていた子たちにプレゼントを贈る「役割」だと聞いていたが、ブラック……黒いサンタ、というのは初耳だ。
    「ブラックサンタはだな、簡潔に言えば「悪い子」にお仕置きをして反省を促すサンタだ!」
    「……悪い子に、お仕置き?」
     どこかで聞き覚えのある「役割」を耳にして、思わずカップを落としかけた。
     どこか――というか、故郷であるティルナノグでの私の「役割」と全く同じではないか。お仕置き……は少し言い過ぎかもしれないが、悪い子を脅かして反省を促すというのが私の「役割」だった。
    「あぁ。おっかなく聞こえるかもしれないが、それも子供たちのことを思ってのものだからな。ブラックサンタを志す者たちは日々身体を鍛え、子どもたちの脅かし方を学んでいるぞ!」
    「そう、なのか……サンタというのも、色々……あるんだな」
     ――かつてはティルナノグで悪いことをした子らを脅かしていた。ブギーマン(私)という存在を忘れられたくなくて、消えたくなくて、必死になって怖がらせていた。
     そんな在りし日々を思い出し、まだ見ぬブラックサンタとして学ぶ生徒たちに想いを馳せる。願わくば、彼らが志すその「役割」で心を痛めることがないように、と。
    「ブギーマン先生!」
    「っと……なんだい、トムテくん」
    「お疲れな先生が心配だからな。採点……は俺には手伝えないが、どうだろう。俺に花壇の整備を手伝わせてくれないだろうか!」
    「トムテくん……」
     青い瞳をキラキラと煌めかせ、まっすぐに見つめるトムテくんの笑顔のなんと眩しいことか。その笑顔に見惚れて、目が離せなくなってしまう。トムテくんのような笑顔が、私にもできる……だろうか。
    「では……お言葉に甘えて、お願いしようかな。トムテくんが大丈夫なら」
    「……! そうか! 大丈夫だ、問題無いぞ。俺に任せてくれ!」
     トムテくんは得意げに胸を張り、嬉しそうに声を弾ませる。その様子が、私が担任をしている初等科の生徒たちに重なる。
    「はは……トムテくんは本当に、良い子なのだな」
    「むっ、そうか?」
    「あぁ、少なくとも私にはそう見えるよ。良い子で……それに、とても良い笑顔をしている」
    「はは……ブギーマン先生にそう言ってもらえると、嬉しいな」
     そう言うと、トムテくんははにかんで頭を掻いていた。私の言葉で、トムテくんに喜びという感情を刻む事ができる。そのことに私も喜びを覚えた。あぁ、照れるその仕草になんともいえぬ愛らしさすら覚える。
     ふと、頭から下ろされたトムテくんの腕が私に向けて伸ばされる。何事かと思わず身構えると、分厚い手のひらが私の頬に触れた。その手はとても、暖かい。
    「俺はブギーマン先生の笑顔も大好きだぞ」
    「……えっ?」
     思いもよらぬ言葉に動揺し、思わず声が上擦る。私の考えていたことが見透かされていたようで、心臓が跳ね上がる思いだ。
    「そんな、私なんかの笑顔……おっかないだろう?」
    「そんなことないさ!」
     トムテくんは私の言葉を力強く否定すると、頬を撫でていた手を滑らせて私の手を力強く握る。それから眩しい眩しい、とびきりの笑顔でこう言った。
    「決して上手な笑顔じゃないかもしれない。だが……」
    「……だが?」
    「――とってもとっても、素敵な笑顔だ!!」

     ***

     トムテくんに手伝ってもらったおかげで、花壇の整備は思いのほか早く終えられた。新しい花も植えられたし、以前よりも見栄えが格段に良くなったと思う。あまり多くはないかもしれないが、花壇に咲く花を楽しみにしている生徒たちが喜んでくれたら私も嬉しい。
     作業が終わる頃には私も、そしてトムテくんも、花壇の土と自分の汗ででだいぶ汚れてしまった。手伝ってくれたトムテくんは平気だと言っていたが、やはり申し訳無く思う。私としてはトムテくんと共に作業をするのは楽しかったし、作業をしながらトムテくんと言葉を交わすことができて、とても楽しかったのだが、それとこれとは別だ。知り合いとはいえ、他校の生徒に手伝ってもらって良かったものだろうか。
    「ブギーマン先生、良いところがあるんだ! 折角だから、先生も付き合ってくれないか?」
     そんな私の胸中を知ってか知らずか、トムテくんは私の手を取ると顔を覗き込むようにして声を張り上げた。その声は期待で上擦り気味。そしてまっすぐすぎるほどに向けられる青い瞳はこれでもかとキラキラ煌めいていて、なんというか……眩しい。とても眩しい。その煌めきに向けて、思わず手を伸ばしてしまいそうなくらいに眩しい。
    「その……私なんかで、良いのだろうか」
    「ん? はっはっは! おかしなことを言うんだな。俺はブギーマン先生と一緒に過ごしたいから、こうやってデートのお誘いしているんだぞ!」
     そうか、そういうことならば付き合わせてもらおうかな。そう言いかけて、トムテくんの言葉を反芻する。デート? いま、デートと言ったか? それはどういう意味だ? 言葉のあや、というやつか? 「デート」という一つの単語が、私の頭の中をぐるぐると駆け巡る。
     そんな慌てふためく私を余所に、トムテくんはにこにこと朗らかな笑みを浮かべながら掴んだ私の手を引いて歩き出す。
    「ほら、行こう! ブギーマン先生。きっと先生も気に入ってくれるぞお!」
    「あっ、ちょ、待っ……待ってくれ、トムテくんっ! に、荷物を……職員室に、荷物を取りに行かないと……!」
     こうして半ば引き摺られるようにして、私はトムテくんに連れられて学園を後にするのだった。帰り際に召喚主(サモナー)くんにも出会したのだが、どこか暖かい眼差しが向けられていたのは気のせいだっただろうか。
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