黎明第一話
“退屈”。
男の思考を占めるのはその二文字だ。
男――カイドウが決行した海軍への襲撃。その暴力は完遂と敗北を幾度も繰り返し、此度は敗北に終わっている。監獄行きかに思われた身柄は政府の研究所へと送られ、被験体として過酷な人体実験を受ける日々が始まった。
……とはいえ、『過酷』なのは並大抵の生物にとっての話。規格外の生物と成った男にとっては『擽られてこそばゆい』程度の刺激でしかない。
現にカイドウは全身に採血用の注射針を刺され、致死量を測定するため血を抜かれ続けている。しかし、夥しい量の血液を失っても体調に変化はなく、底を尽きそうな採血管の替えを求めて研究員たちが慌てふためいている有様だ。
両手を拘束する枷など難なく引き千切り、ここを脱走することなど造作もないが、カイドウは二週間近く留まっていた。
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