つぎの休み(仮)「きり丸、今度の休みは僕らバイトの手伝いしなくていいの?)
「あ〜、二年の久作先輩とまた里芋行者さんのとこの興行に手伝い行くことになったんで、大丈夫。サンキュー」
きり丸がこういう言い方をする時は、少しイジケてるって知ってる。
どうしてそんなこと思うのかわからないなけど、きり丸はたまに僕としんべヱとの「一蓮托生」の輪から少しだけ距離を置こうとする。
僕はきり丸の思考のクセや趣味嗜好、睡眠時間に体力や集中力の限界といった"習性"って言えるものは大体把握してるつもりだ。
でも、きり丸の考えてることなんて、僕にはわからない。
僕ときり丸は別の人間だし、きり丸が僕に求めてることも本質的にはきっと永久に理解できない。
どんなに寄り添っても自分以外の人間が「他人」であることは変えられない。
血のつながった家族も、一蓮托生の親友も。
僕のそういう考えに、きり丸がたまに少しイジケてるのは感じている。
でも、僕がきり丸のために死ぬことができたとしても、そこで死ぬのは僕であり、きり丸ではない、という事実は揺らがないんだ。
僕はそれを寂しいと思わない。
僕がどんなに友達のために骨を折っても、個々人の人生が本人だけのものなんだってことが、僕の責任と気持ちを軽くしてくれる。
僕自身も自分の人生を自分の手の中におさめておける。
僕はきり丸じゃないから、きり丸のためになんだってできるし、なんにもしないこともできる。
僕がすることは僕が決めて良い、という決定権とともに、きり丸に何かしてあげられるのが嬉しいんだ。
「あのさ、しんべヱとも話したんだけど、僕らも里芋行者さん夫妻に久しぶりに会いたいし、幻術の興行も観たいから、今度の休み、ついてっていい? 手伝えることあればやるからさ!」
背中を向けてゼニを磨いてたきり丸は、斜め前にゆっくり首を傾けて、胡座を少し揺らしてから、
「ん、そりゃ、ありがたいな」と答えた。
おわり