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    pasono_ri

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    「相棒であるあなたへ」
    豆本としてネットプリントに登録していたバディの小話本文です。

    ##ごすわ

    相棒であるあなたへ「暁人、ボサっとすんな!まだ来るぞ!」
    「分かってる!」
     夜闇が深くなる頃、人気のない工事現場に空気を切り裂く様な音が響く。緑風が力強く敵を穿ち、露出したコアが砕かれていく。機材が所々に置かれた土地の中、KKと暁人はあの夜と同じ様にマレビトの相手をしていた。
     あの夜と違う事といえば、KKは自身の肉体を取り戻しており、暁人はエーテルの能力をほとんど失った事だ。その特性を考慮した結果、KKが前衛で敵を引きつけ、暁人は後衛として弓での援護を行っている。
     次々に湧くマレビトの大半はKKが対処しているが、全てを射程に入れることは出来ない。KKが放った火のチャージショットが目の前で爆発しては、消滅したマレビトの代わりにエーテルが反射する。しかしKKの攻撃範囲に入らなかったマレビトは怯む事なく2人に向かってくる。遠くから火球を吹く焔女の頭を、暁人の放った矢が的確に射抜いた。
    「暁人!」
     即座に次の矢を弓に番えようとする暁人に、虚牢の弾が迫る。ガードをするにも間に合わないと判断した暁人は、この後来る痛みを覚悟しつつ弓を構えた。しかしその弾は当たる直前に、素早く放たれたエーテルショットに相殺された。咄嗟にこんな事が出来るのは、前に立っている相棒しかいない。
    「ありがとKK!」
    暁人は礼を言いながら、引き絞った矢を放った。

     その後も溢れてくるマレビトを2人で倒し、漸く元凶であった悪霊を祓えば、騒がしかった工事現場に静けさが戻った。KKも暁人もそれぞれ無傷では済まなかったが、あの量のマレビトを相手にしたと考えれば十分な戦果だった。
    「さっきはごめん。ありがとう、KK」
    「ああ、お互い様だ。気にすんな」
     火のついていないタバコを咥えながら、KKは優しく暁人の肩を叩いた。その手にはこれまでの傷と、先ほどの戦闘で出来た切り傷がある。それを気にもせずこちらを励ましたKKの横顔に、暁人は目を細めた。
    (KKは今も、今までもこんなに頑張ってるんだよな。まだ未熟な僕を気にしながら戦って、守ってくれて…)
     KKがこれまで1人で戦ってきたことは、一緒に経験し始めた暁人からしたら、途方もない行いだ。暁人の脳裏に、かつて聞いた痩術鬼の叫びが呼び起こされた。たった1人で、命懸けで頑張っていることを、誰にも理解されない苦しみが。
     暁人は衝動のまま、近くにある白髪混じりの頭を優しく撫でた。幼い頃、麻里にしていたように。両親にされていたように、ゆっくりと。
     当のKKはその感触に、歩き出そうとした足を止めた。数秒固まり、こちらを見る暁人と目を合わせる。そしてその目が想像していたどれとも違う、慈しんだ目をしていることに驚いた。
    「…おい、何なんだ急に」
     完全に無意識だった暁人は、KKの言葉を認知した瞬間後ろに飛び退いた。その目は先程と打って変わって大きく見開かれている。
    「…ご、ごめん!」
    「いや…別に良いんだが、」
    「その!僕、明日早いから先に帰るね。また仕事来たら声かけて!」
     なぜ、と言いかけたKKを遮り、暁人はどこか気まずそうな顔をしながら脱兎の如く帰ってしまった。KKはその素早さに困惑したまま、暁人が走り去っていった方を見つめる。思えば、人に頭を撫でてもらうなどいつぶりだろう。KKは、先程の優しい手つきにしばらく呆然とした自分がいたことを思い返した。そしてその時の彼の表情も。KKは胸に手を当てながら、じんわりと広がった暖かな気持ちを反芻した。次に暁人に会ったら絶対に問い詰めると心に決めて。

    「やってしまった…」
     今でこそ相棒として一緒にいるが、随分年上の男の頭をいきなり撫でるなど流石に失礼だったと暁人は後悔した。それにその場でなにかしら言い訳が出来たらまだ良かったのだが、暁人はとにかく動揺していたのだ。自分が、無意識にKKの頭を撫でていた事実に。
    「次会った時、絶対捕まるよな…」
     妖怪や怪異を追いかければ、絶対に逃さない執念深さを持つ男だ。納得できる理由が無ければ止まらないだろう。暁人は今後の展開を想像し、抑えることの出来ないため息を吐いた。

     その後、暁人はKKを避け続け、KKは暁人をひたすら追いかけた。結局、資料収集やちょっとしたお使いばかりで、2人が同時に仕事をすることは無かった。KKは凛子に手を回して暁人を呼び寄せようとしたが、暁人は何かしらの理由をつけて逃げていく。そんな日々が一週間続いた頃、遂にKKは大学終わりの暁人を捕まえた。
    「よお、暁人君?忙しそうなところ悪いが…仕事が入ったぞ」
    「…………それ、僕も必要?」
    「ああ、必要だな。場所はここから遠くねえし、お前の獲物も持ってきてる。文句はねぇよな?…仕事、だもんな」
    「……はい」

     現場は何の偶然か、この前と似た様な工事現場だった。事故が多発している原因を探って欲しいと言う内容だ。言葉少なに現場についた2人は、その重苦しい空気に眉を顰める。霊視をすれば案の定、悪霊とそれを取り囲む様に立つマレビトの気配が見えた。念の為悪霊の言い分も聞こうと暁人が言うので堂々と入ってみたが、結局話は通じず、マレビトは侵入者を排除せんと向かってきた。
    「さて、暁人。仕事に取り掛かるが聞きたいことがある」
    「えっ?!今?」
     KKは暁人を背後に庇いながらエーテルを右手に纏わせ、近寄ってきた影法師に数発お見舞いした。暁人も弓を構えるが、突然話しかけてきたKKに動揺を隠せない。
    「オマエ、最近オレのこと避けてたよな。相棒相手に冷てぇじゃねえか。何でそんな事してたんだ?」
    「っ…!さっきKKが言ってただろ、忙しかったん、だよ!」
     KKの攻撃で怯んだマレビトに暁人の矢が刺さり、消滅した。KKはその精度に満足気な笑みを浮かべながら、マレビトの群れに突っ込み、水のエーテルを叩き込んだ。
    「じゃあ、この間のアレは何だったんだぁ?」
    「KK突っ込みすぎ!ちょっとは引けよ!」
     KKの無茶な動きにギョッとした暁人は、咄嗟に近づき麻痺札を投げた。バチバチとした閃光がマレビト達の動きを止める。KKはその隙に火のエーテルを練り上げ、その中心に投げ込んだ。
    「ほら、化け物は減ったぞ。答える暇が出来たじゃねえか」
    「あのなぁ!…ああー、もう!」
     KKが残りのマレビトを風のエーテルショットで的確に削っていく。暁人は弓を構え直しつつ、その背中を一度見つめて、新たに現れた髪姫に照準を合わせた。
    「…アンタがこうやって!無茶して1人で戦ってたって考えたら!どうしても、褒めてあげたいって!アンタの頑張りを認めてあげたいって思ったんだよ!そしたら勝手に手が動いてた!」
     大声を張り上げながら、暁人は髪姫の頭に2発矢をお見舞いした。KKはその内容に目を見張り、暁人の方を振り返ろうとするが、ちゃんと相手を見ろよバカ!と暁人の叱責が飛ぶ。それに嬉しさと気恥ずかしさと、そして魂を共有した唯一無二の存在の有り難みを感じながら、KKはこちらに突進する髪姫に向き直る。近くで見ると凶暴な顔も、もはや恐ろしくも何とも無い。
    「はは、頼もしい奴だよ、全く」
     KKは高揚する気持ちをそのまま火のエーテルに乗せて、迫り来る顔面に力強くぶつけた。

    「…それで?満足かよ。無理矢理聞き出して」
     全てが片付いた後も、暁人の頬は若干赤いままだった。
    「ああ、オマエがほんっとに素直で良いやつだってことがよく分かった」
    「茶化すなよ。そりゃ…僕はまだKKに守られてるし、アンタは相変わらず無茶するけどさ。僕ぐらいは…KKが頑張ってきたことを見てきたし、分かるから、だから…」
     ううん、と暁人は唸りながら、的確な言葉を探して視線を彷徨わせている。その気持ちの結果が、この間の行動だったのだろう。KKは相棒のその様子に表情を緩ませた。そして心に湧いた気持ちを、偶には相棒の素直さを見習って、そのまま言の葉に乗せてみた。
    「オマエが相棒で、よかったよ」
    目を丸くしてこちらを見る相棒の頭を、少し乱暴に撫でながら。
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