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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。少年のソプラノボイスを天使の歌声と言うならルチの歌声も天使の歌声なのだろうか、という話です。歌が上手いルチの幻覚を見ています。

    ##TF主ルチ

    天使の歌声 つけっぱなしのテレビから、綺麗な歌声が流れてきた。ガラスを揺らすようなハイトーンボイスが、緩やかなメロディを奏でているのだ。耳を貫くような高音なのに、なぜか聞いていると心地よく感じる。気になって画面に視線を向けると、小学生ほどの男の子が歌っていた。
     海外の男の子らしく、金色でくるくるした髪をしていた。時折こちらを見つめる視線は、水のように澄んだ青色だ。まだ幼いようで、頬はぷっくりと膨らんでいるし、体型も寸胴だった。聖歌隊の制服に身を包んだ姿は、あどけなくてかわいらしい。
     テレビのテロップには、天使の歌声を持つ少年と書かれている。番組のゲストとして、海外の有名歌手が出演しているらしい。音楽に疎い僕には分からないが、相当有名な人であるようだ。今回の出演も、海外で発売したCDのプロモーションなのだという。
     確かに、その声は天使の歌声かもしれない。男の子のソプラノは、まだ幼いうちにしか出せないのだ。男の子の可憐な声は、成長に従って失われていってしまう。早い子は小学校高学年で、遅くても高校生の頃には、喉仏が出て低い声になってしまうのだ。少年の高音が成立するのは、天使のようにあどけない時期だけなのだから。
    「何を見てるんだよ」
     テレビを見ていたら、隣から声が聞こえてきた。いつの間にか隣に来ていたルチアーノが、訝しげな表情で僕を見ている。テレビに視線を向けると、あからさまに表情をしかめた。
    「テレビを見てたんだよ。綺麗な声が聞こえてきたから、ちょっと気になって」
     そう言ってから、僕は再びテレビに視線を戻す。男の子は歌い終わったようで、セットの外に出ていった。画面に映る出演者たちが、思い思いに感想を口にしている。
    「ふーん。君は、歌に興味があったんだな。てっきり、幼い子供を見てるのかと思ったぜ」
     湿度を感じる重たい声色で、ルチアーノは言葉を吐く。危なすぎる勘違いを、僕は慌てて否定した。
    「違うよ! ルチアーノは、僕をなんだと思ってるの?」
    「だって、そうだろ。君は、いつも僕をいかがわしい目で見てるんだから」
     そういう彼からは、本気の嫉妬が感じられた。自ら望んだものではないとはいえ、彼も外国の少年の姿をしているのだ。別の男の子に興味を持たれるのは嫌なのかもしれない。
    「それは否定しないけど、僕が好きなのはルチアーノだけだよ」
     そう言うと、彼は恥ずかしそうに黙り込んだ。自分で誘導したとは言え、ストレートに返されるのは恥ずかしいのだろう。沈黙の間に、ささっとテレビのチャンネルを変える。
     そこで、あることに気がついた。ボーイソプラノというものは、変声期を迎える前の少年の歌声である。ルチアーノの声色も、ある意味ではそのカテゴリーに入っているはずだった。
    「あのさ」
    「……なんだよ」
    「ルチアーノって、歌とか歌えるの?」
    「はあ?」
     尋ねると、彼はあからさまに呆れたような表情を見せた。少し口を開けて、間抜けなものを見るような視線を僕に向けている。
    「歌くらい、声が出せるなら誰でも歌えるだろ。馬鹿にしてるのか?」
     尖った声を向けられて、僕は言葉に詰まってしまった。彼の言うことは正しいのだが、僕が聞きたいのはそんなことではなかったのだ。言葉にするのは難しいが、もっとこう、技術的な話なのである。
    「それはそうなんだけど、もっと技術的なことを聞きたいんだ」
    「全然伝わってねーぞ。もっとはっきり言いな」
     そうは言われても、困ってしまう。僕にだって、この問いの正しい伝え方が分かっていないのだから。
     歌が上手いか、などという漠然とした問いを投げても、彼にはあまり伝わらないだろう。場合によっては、機嫌を損ねる結果になるかもしれない。簡潔に尋ねる必要があった。
    「じゃあ、ちょっと歌ってみてよ」
     単刀直入に尋ねると、ルチアーノはわけが分からないといった表情を浮かべた。口の半分開いた顔で僕を見上げると、本日二度目の言葉を発する。
    「はあ?」
    「歌ってみて。クラシックでもポップスでも、何でもいいから。それで、僕の聞きたいことは分かるよ」
    「……分かったよ。歌えばいいんだろ」
     渋々といった様子で言うと、彼は小さく息を吸った。胸に手を当てると、思いきったように歌い出す。
     その歌声に、僕は思わず息を飲んだ。彼の歌声は、テレビに出ていた少年に負けず劣らず綺麗だったのだ。いつもの甲高い笑い声が嘘のように、優しくて柔らかい声をしている。クラシックだから歌詞は分からないが、奥深さを感じられる雰囲気だ。少年の歌声が『天使の歌声』と呼ばれる理由を、身をもって理解した。
     歌い終わると、ルチアーノは恥ずかしそうに僕に視線を向けた。沈黙を保っている僕を見て、恥ずかしそうに頬を染める。
    「何か言えよ」
    「ルチアーノって、歌が上手いんだね……」
     僕が呟くと、ルチアーノは恥ずかしそうに視線を逸らした。どこでもない場所を見つめながら、ぶっきらぼうに答える。
    「なんだよ。それ」
     そのまま、しばらく二人で黙り込む。気まずさを感じ始めた頃に、再びルチアーノが言葉を発した。
    「なあ、君も歌ってみろよ」
    「え?」
     予想外の言葉に、間抜けな声を上げてしまう。ぽかんと口を開ける僕に、ルチアーノはさらに言葉を重ねた。
    「さっきは僕が歌っただろ。なら、今度は君が歌う番だ」
     彼の言うことは一理ある。でも、僕には歌いたくない理由があったのだ。なんとか逃れようと、口の中で言葉を発する。
    「歌うのは、ちょっと……」
     口ごもる僕を見て、ルチアーノは不満そうな顔をした。問い詰めるように距離を詰めると、トゲの刺さった声で言う。
    「君は、僕にだけ歌わせて自分は歌わないつもりなのか? 人にやらせたんだから、自分も歌えよ」
     そこまで言われたら、歌うしかなかった。できれば拒否したいのだけど、そんなことを言える雰囲気ではない。自信がないから、予防線だけは貼っておくことにする。
    「分かったよ。……笑わないでね」
    「笑う? 歌で笑うのか?」
     不安になるような答えしか返ってこないが、もう後には引けなかった。大きく深呼吸をすると、思いきって歌い始める。
     僕が歌ったのは、一昔前の流行りのポップスだった。これまでの人生で、一番採点が良かったものである。緊張しながら歌っているせいで、声はところどころが震えてしまった。
     僕が歌っている間、ルチアーノは何も言わなかった。微妙な表情を浮かべて、じっと僕の方を見ている。何度も歌うのをやめようと思ったが、結局最後まで歌った。
     僕たちの間に、冷えきったような沈黙が訪れる。目と目が合うと、ルチアーノは申し訳なさそうに呟いた。
    「…………僕が悪かったよ」
     悲しくなるような言葉だった。そんなことを言われたら、僕の方がいたたまれなくなる。名誉のために言わせてもらうが、僕は決して致命的な音痴とかではないのだ。ルチアーノと比べられると、どうしようもなく粗末に聞こえるだけである。
    「謝らないでよ。虚しくなるから」
     そう答えて、自分の言葉に後悔する。変に言葉を重ねたせいで、余計に虚しくなってしまった。
     歳を重ねてしまった僕の声には、天使は宿っていないのだろう。可憐な歌声を発することができるのは、年若い少年の特権なのだ。天使のようなルチアーノの姿を眺めながら、僕はそう思うのだった。
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