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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。「○○が悪いんだからな」というよくあるセリフから始まる話が書きたくて主ルチで書きました。ルチが男の子と喧嘩して、その理由をTF主くんには話してくれない話です。

    ##TF主ルチ

    ルチが悪い話「ルチアーノが悪いんだからね」
     そう言うと、彼は黙ったまま俯いた。いつもの賑やかさが嘘のように、一言も発することなく黙り込んでいる。室内に漂う重い沈黙が、無情にも僕たちの間を包み込んでいる。机ひとつ分の距離しか無いはずなのに、彼がものすごく遠く思えた。
    「黙ってても話は進まないよ。ちゃんと答えて。なんでそんなことをしたの?」
     重ねて問いかけるが、全く手応えはなかった。ルチアーノは視線を下に固定したまま、ぎゅっと服の裾を掴んでいる。さっきから、彼はずっとこの調子なのだ。これ以上質問を重ねても、言葉が返ってくるとは思えない。
    「言わないつもりなんだね。なら、それでいいよ。とにかく、明日は相手の家に謝りに行くから」
     そう言うと、僕は席を立った。夕食にと買ってきたお弁当は、すっかり冷めてしまっている。電子レンジに入れると、指先で温めボタンを押した。
     ルチアーノが喧嘩をしていると聞いたのは、用事を済ませて帰ろうとしている時のことだった。デパ地下で半額になっていたお弁当を手に、のんびりと家を目指していた時に、セキュリティから呼び出しがかかったのだ。慌てて駆け付けると、そこには怒り狂った様子のルチアーノと、赤く頬を腫らして泣いている男の子の姿があった。話を聞くまでもなく、何があったのかは一目瞭然だった。
     これまでにも、ルチアーノが町の子供と喧嘩をすることは何度かあった。ルチアーノは男の子と相性が悪く、売り言葉に買い言葉の会話をきっかけに、言い争いに発展してしまうのである。ルチアーノの虫の居所が悪ければ、そのまま取っ組み合いの喧嘩になってしまうこともあった。
     しかし、今回はそれだけでは済まないのだ。ルチアーノは相手の男の子の頬を叩いて、怪我を負わせてしまったのだから。お互いが傷を負ったのならまだいいが、一方的傷つけてしまったとなると、それは喧嘩では済まなくなる。実際に、男の子の泣き声を聞いて駆けつけたセキュリティは、二人の仲裁をすることになってしまった。
     頬を紅潮させたルチアーノと向き合いながら、僕は不思議に思っていた。彼は神の代行者としてこの地に訪れたアンドロイドで、人間を超越した能力や知識を持っているのだ。いくら子供のような感性を持っていると言っても、通りすがりの男の子と一方的な喧嘩をするほど幼くはない。彼がここまで怒り狂っていたのには、何らかの理由があると思ったのだ。
    「ルチアーノ、教えて。どうしてこんなことをしたの?」
     手を引きながら尋ねると、彼は不機嫌そうに視線を逸らした。しばらくの間黙り込むと、小さな声でぽつりと言う。
    「君には言いたくないよ」
     それから後は、語るまでもないことだった。家に帰る間も、帰ってからも、ルチアーノはずっと口を閉ざしたままで、何も語ろうとはしない。僕は僕で、彼から無理矢理言葉を引き出そうとは思わなかった。すぐに質問を切り上げて、日々のルーティーンをこなしていく。部屋を満たした静寂だけが、いつもとは違っていた。
     結局、ルチアーノは何も話してはくれなかった。静寂に包まれた部屋の中で、僕は余計なことを考えてしまう。彼は、どうして理由を教えてくれないのだろうか。僕のことを信用していないのだろうか。そんなことを考える度に、少しの苛立ちと悲しさを感じてしまった。

     翌日は、いつもよりも早く目を覚ました。心配と不安で、あまりよく眠れなかったのである。ルチアーノのタッグパートナーになってしばらくの時が経つが、こうして誰かに謝りに行くのは初めてである。それが保護者代理としての謝罪なのだから、心配になるのは当然だった。
     相変わらず黙ったままだったが、ルチアーノは僕の後をついてきてくれた。端末に表示された地図を頼りに進むと、周囲の景色は郊外の住宅地へと変わっていった。
    「ここだね」
     端末が示す家の前で足を止めると、僕は目の前の家を見上げた。この地域によくあるタイプの一軒家が、周囲の風景に溶け込むように建っている。質素な外観の家であることに、少し安心した。
     インターホンを鳴らすと、家主が出てくるのを待つ。しばらくすると、三十代半ばほどの女性が姿を現した。シンプルなブラウスとスカートに身を包んだ、優しそうな雰囲気の人である。彼女と目が合うと、僕は静かに頭を下げた。
    「この度は、すみませんでした」
     視界の端で、女性が狼狽えているのが分かった。困ったような声が飛んでくる。
    「やめてください。謝らなくてはいけないのは、こちらの方なんですから」
     僕はゆっくりと顔を上げた。恐る恐る顔を上げるが、女性が怒っている気配はない。安心して胸を撫で下ろしていると、彼女が口を開いた。
    「立ち話もなんですから、上がって行ってください」
     女性に誘われ、僕たちは室内へと上がった。応接室に通され、紅茶とお菓子の接待を受ける。加害者側になるにも関わらず、丁寧な応対を受けていることに、不安を感じて仕方がなかった。恐る恐る椅子に腰をかけると、正面に女性が腰を下ろす。
    「その様子ですと、その子からは何も聞いていないのでしょうね。本当に謝らなくてはいけないのは、うちの子の方なんです」
     そう前置きすると、女性は昨日の詳細を語っていった。
     彼女の話によると、昨日のルチアーノはシュシュをつけていたらしい。いつもの髪留めの変わりに、かつて僕が贈ったシュシュで髪をまとめていた。その姿を見て、相手の男の子はこんなことを言ったのだそうだ。
    「髪にシュシュをつけてるなんて、女みたいだよな」
     その時点では、ルチアーノは特に取り合わなかった。相手の貧弱な発想に呆れながら、淡々とした態度で言葉を返した。
    「シュシュをつけてるからって、女とは限らないだろ。男だって、髪が伸びたらまとめるさ」
    「男なら、髪を伸ばしたりしないぜ。伸ばした上でシュシュをつけるなんて、女のやることだろ」
    「僕だって、好きでこんなもんをつけてるわけじゃ無いぜ。恋人からもらったから、仕方なくつけてるんだ」
    「うえー。男にシュシュをプレゼントするなんて、変態じゃないか。よくそんなやつのカレシになれるよな」
     その一言は、ルチアーノの逆鱗に触れた。怒ったルチアーノは、男の子に対して怒りをぶつけたらしい。男の子も男の子で、ルチアーノを煽るような言葉を吐く。そのまま怒りはヒートアップして、ルチアーノは男の子を叩いてしまったのだ。
    「そんなことがあったんですね」
     知らないことばかりでびっくりしながらも、僕はなんとか呟く。ルチアーノが何も言わなかったから、そんなことなど知るよしもなかった。どうして、先に教えてくれなかったのだろう。知っていたら、きつい言葉で問い詰めたりなんかしなかったのに。
     女性にお礼を告げると、僕たちは帰路へとついた。外に出てしばらくしても、ルチアーノが言葉を発する気配は無い。沈黙に耐えられなくて、僕の方から言葉を発した。
    「どうして、教えてくれなかったの?」
     ルチアーノは、黙って顔を上げた。しばらくの間口をもごもごさせると、恥ずかしそうに言葉を返す。
    「知られたくなかったからだよ」
     僕には、ルチアーノの真意が分からなかった。知られたくなかったというのは、何に対してなのだろうか。気になることが多すぎて、質問をまとめられなかった。
    「ねぇ、もう一度聞いていい。どうして、ルチアーノは喧嘩なんかしたの?」
     代わりにとでもいうように、僕は質問を投げ掛ける。今なら、答えを返してもらえると思った。
     僕たちの間を、重い沈黙が流れ込む。長く感じる時間を、僕は辛抱強く待ち続けた。しばらく歩を進めてから、彼は小さな声で答える。
    「嫌だったんだ。君のことを変態って言われたのが。君を変態と呼んでいいのは、僕だけなんだから」
     意外な言葉に、僕は口元が緩みそうになった。ルチアーノの怒った理由がそこにあったなんて、なんだか信じられなかった。彼は、自分のことにしか怒ったりはしないのに。
    「そっか。今度からは、相手を叩いたりしたら駄目だよ」
     僕は答える。あんなことを言われたら、叱ったりなんてできなかった。ルチアーノの言葉に対して、僕が嬉しさを感じてしまったのだから。
     彼の心は、少しずつ変わってきている。少なくとも、僕を恋人として大切に思うくらいには、人間に近づいているようだ。自分の存在が相手に変化を与えていることが、何よりも嬉しかった。
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