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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。大会の優勝記念に地方紙の写真撮影を受ける二人の話。

    ##TF主ルチ

    撮影 スタジアムのデュエルコートは、人々の熱気で盛り上がっている。額から汗を流しながら、僕はコートの右側に立っていた。左でドローの構えをしているのは、タッグパートナーのルチアーノである。彼は勝利を確信しているのか、にやにやと笑みを浮かべていた。
     これから回ってくるターンが、僕たちの運命を握っている。そんな仰々しいことを考えるが、緊張する必要は全くなかった。相手のフィールドはモンスター一体だけで、伏せカードはひとつもない。いつものルチアーノであれば、楽々攻略できてしまう状況だった。
     悔しげな響きを含みながら、相手がターンの終了を告げる。ターンを受けたルチアーノが、甲高い声で開始を宣言した。楽しそうな声色でカードを握ると、一枚をフィールドに叩きつける。抵抗しようとした相手を、今度はゴースト・コンバートで封じた。
     ルチアーノの甲高い声は、どんどんヒートアップしていく。何一つ成す術もないままに、相手は何度も攻撃を食らった。LPは一気に削られ、デュエルディスクが大きな音を立てる。モニター越しに様子を見ていた司会者が、大きな声で会場を盛り上げた。
    「決まった! 優勝は、チームニューワールド!」
     会場を揺らすほどの歓声が、僕たちの身体を包み込む。あと一歩のところで優勝を逃した相手が、悔しそうに大きく肩を落とした。隣に佇むルチアーノは、堂々とした仕草で服を叩いている。相手に小さく一礼すると、僕はスタッフの案内に従ってコートから離れた。
     大会の表彰式は、特筆することもなく進んだ。僕もルチアーノと組んでそれなりに経つから、優勝には慣れてしまったのだ。盾と金一封を受け取ると、ルチアーノと手を繋いで控え室に戻る。額からは汗が流れていて、早く身体を拭きたかった。
     控え室の中は、クーラーで適温まで冷やされていた。ボディーシートで全身を拭くと、持ってきた着替えに身を包む。夏は汗をかきやすいから、こういう対策が必要なのだ。そもそも汗腺のないルチアーノは、退屈そうに僕を眺めている。
     帰りの支度を整えていると、控え室の扉がノックされた。返事をしながら扉を開けると、スタッフの女性が立っている。僕たちに軽く視線を向けると、彼女はにこやかに口を開いた。
    「本日は、優勝おめでとうございます。少しだけお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
     改まった話を持ちかけられ、僕は首を傾げてしまう。僕たちは大会に参加しただけで、声をかけられる心当たりがなかったのだ。何も分かっていない様子の僕を見て、女性が何かを察したように口を開く。
    「本大会では、優勝チームのスナップ写真を撮影しているんです。ここで撮影した写真は、市の広報紙に載るんですよ」
    「スナップ写真!?」
     予想外の言葉が飛び出して、僕は大きな声を上げてしまう。自分で申し込みをしたのに、そんなことは全く知らなかったのだ。参加要項を流し読みしていたから、見落としてしまったのだろう。これまでにもよくある反応だったようで、女性は驚くことなく言葉を続けた。
    「写真に映りたくない場合は、辞退していただいても構いません。ご参加いただける場合は、こちらでお返事をお願いします」
    「だって。……どうする?」
     女性の言葉を聞くと、僕は後ろのルチアーノに視線を向ける。僕は写真に映っても問題ないが、ルチアーノは秘密結社のメンバーなのだ。地方紙とはいえ写真を残すのは、問題があるのではないかと思った。
     僕の問いを聞くと、彼はちらりとこちらを見る。退屈そうに足を組み直すと、気のない様子で言葉を吐いた。
    「君が撮りたいなら、撮ればいいじゃないか。思い出ってやつがほしいんだろ」
     彼からの返事は、意外なことに許可の言葉だった。彼が写真を許すなんて珍しい。ここぞと思って、僕は女性に向き直った。
    「じゃあ、お願いします」
    「承知いたしました。退室後に撮影スペースまでご案内いたしますので、受付に申し出てください」
     話が終わると、女性は一礼してから部屋を出ていく。二人きりになると、僕は再び支度を始めた。散らかっていた小物を鞄に詰めると、大きなリュックのチャックを閉じる。
    「支度できたよ。そろそろ行こうか」
     声をかけると、ルチアーノは重そうに腰を上げる。僕の前に歩み出ると、先導するように扉を開けた。
    「写真だったな。とっとと行くぞ」
     つかつかと足音を立てながら、長い廊下を歩いていく。正面入り口に向かうと、僕は受付の女性に声をかけた。後ろに控えていた別の女性が、カウンターを出て僕たちの前に現れる。よく見ると、さっき声をかけてきた女性だった。
    「チームニューワールドのお二人ですね。撮影はこちらになります」
     女性に案内されて、僕たちは再び廊下を歩く。今度は向かった先は、さっきまでとは反対側のエリアだった。控え室の前を通り抜けると、事務室のある区画へと入っていく。
    「こちらです」
     扉のひとつを押し開けると、彼女は僕たちを振り返る。隙間から覗いた空間は、思ったよりもちゃんとした撮影スポットだった。呆気にとられる僕を横目に、ルチアーノは中へと踏み込んでいく。
    「ふーん。結構ちゃんとしてるんだな」
     小さな声で呟きながら、彼は室内を横切っていった。仮にも有名チームのメンバーだから、撮影には慣れているのだろう。その後を追いかけながら、僕はキョロキョロと周囲を見渡す。
     その部屋は、グリーンバックの撮影スポットだった。正面にはカメラが置かれていて、天井にはライトも設置されている。こんなところで写真を撮るなんて、僕にとっては初めての経験だった。
     辿々しい足取りになりながらも、僕は緑の布の前に立つ。右も左も分からないから、ルチアーノの隣に寄り添った。僕が様子を窺っていると、カメラを抱えた男性が部屋に入ってくる。
    「撮影を担当する×××です。よろしくお願いします」
    「よろしくお願いします」
     挨拶を交わしてから、僕たちの撮影が始まった。カメラマンの指示に従いながら、何枚もの写真を撮っていく。ある程度シャッターを切ったところで、彼は撮影の手を止めた。
    「○○○さんは、少し表情が固いですね。もう少しリラックスしてください」
     彼の口から出てきたのは、僕への注意の言葉だった。そうは言われても、僕は撮影など初めてなのだ。カメラを向けられているという意識だけで、身体が強ばってしまう。
    「君は、緊張しすぎなんだよ。もっと身体の力を抜きな」
     僕の隣でポーズを取りながら、ルチアーノは淡々と言葉を紡ぐ。撮影に慣れきっているからか、いつもと変わらない表情を浮かべていた。余裕綽々な態度に、少し悔しさを感じてしまう。
    「そんなこと言われても、カメラを向けられるなんて初めてなんだよ。緊張くらいするでしょ」
     僕が答えると、彼は呆れたようにため息をつく。手をこちらへと動かすと、服の影で手を握った。
    「……!?」
     びっくりする僕を横目に、ルチアーノは何度か手を握りしめる。彼の行動に驚かされて、緊張はどこかへと消えていってしまった。手を離されたところで、再び写真の撮影が始まる。今度は、特に何も言われることなく撮影が終わった。
    「ありがとうございました。冊子ができましたら、郵送でお送りします」
     スタッフからの説明を受け、僕たちは建物を後にする。撮影をしているうちに、すっかり日が暮れてしまっていた。これは、ご飯を食べて帰った方がいいだろう。どこに向かおうか考えながら、僕はルチアーノの手を取った。

     完成した冊子が届いたのは、それから一月ほど経った頃だった。僕の家のポストの奥に、遠い町の封筒が入っていたのである。封を切って中身を見ると、二冊の冊子が入っていた。
    「見て。届いたよ」
     片方の冊子を手に取ると、ソファに座っていたルチアーノへ手渡す。彼はちらりと表紙を見ると、退屈そうに押し返してきた。彼はもっと有名な雑誌にインタビューされているから、あまり興味がないのだろう。突き返されてしまったから、僕が受け取って中身を見る。
     表紙の写真は、僕たちの上半身をトリミングしたものだった。表紙の背景には、カラフルな模様と文字が並んでいる。どうやらこのレイアウトが、この冊子のテンプレートらしい。よくも悪くも広報紙といった感じだ。
     それにしても、自分が冊子の表紙を飾るなんて、なんだか新鮮な感じがする。僕はアマチュアデュエリストだから、冊子の撮影なんて初めてだったのだ。インタビューは何度かあるけれど、写真まではなかなかない。
     表紙を飾る写真を見ていたら、不意にこんなことを考えてしまった。もっと大きな大会で優勝したら、掲載される写真も大きくなるのではないか。ルチアーノのようにインタビューを受けて、それが記事として掲載されるのかもしれない。そう考えたら、大会の参加にも夢がある。
    「おい、何にやにやしてるんだよ」
     僕が冊子を見つめていると、ルチアーノが呆れたような声で言う。いつの間にか、彼は僕の方へと視線を向けていた。少し歪んだ瞳を見ながら、僕は笑顔を浮かべて答える。
    「なんでもないよ」
    「絶対に何かあるだろ。嫌な予感がするなぁ」
     ルチアーノの声を聞きながら、僕は封筒を手にリビングを出ていく。せっかくのルチアーノとの思い出だから、きちんと保管しておきたかったのだ。クローゼットを開け、アルバムの入った棚に押し込むと、僕はしっかりと扉を閉める。ルチアーノとの思い出を、またひとつ心の中に閉じ込めた。
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