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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんがルチにぶどうの紅茶をプレゼントする話。

    ##TF主ルチ

    紅茶 商店街の小さなカードショップは、大通りから少し離れた場所にある。メインストリートを曲がった通りのビルの中に、世間から隠れるように居を構えているのだ。中には入り組んだ立地に建っているものもあって、探すだけでも一苦労だったりする。しかし、この手の穴場ショップには、掘り出し物のカードが紛れていたりするのだ。
     カードの包まれた袋を鞄にしまうと、僕は狭い階段を下りる。古ぼけたビルの外付け階段は、足を滑らせそうなほどに急勾配だった。気をつけながら下まで下りると、周囲の景色に視線を向ける。路地裏はどこも似たような作りになっていて、迷子になってしまいそうだったのだ。
     一通り風景を眺めた後に、僕は左側へと歩を進めた。道の先に見える風景に、見覚えがあると感じたからだ。例え反対の道を通っていたとしても、大通りに辿り着ければ問題はない。方向感覚が危ういとはいえ、この商店街には何度か来ているのだ。
     歩道に沿うように歩き始めると、どこからかいい匂いが漂ってきた。お菓子のように甘さを持ちながらも、果物のような深さを感じさせる匂いである。不思議に思って首を回すと、隣のビルから出てくる女性の姿が視界に入った。大きく開いた扉の中からは、甘い香りが漂っている。
     そのお店の店頭には、商品を並べた棚が置かれていた。遠目からではよく分からないが、どうやら食品であるらしい。近づいていって確認すると、それはお菓子と紅茶の箱だった。ガラス越しに見える店内では、女の人が紅茶を入れている。
     食べ物の気配に釣られるように、僕は店内へと足を踏み入れた。中から漂ってきた甘い匂いの正体が、気になって仕方なかったのである。糖分を消費するスポーツをしていることもあって、僕はかなりの甘党だ。まだ見ぬおいしいお菓子があるのならば、この目で確かめておきたかった。
     店内に足を踏み入れると、甘い匂いが僕を包んだ。鳩のように首を動かしながら、店内を隅々まで見渡す。紅茶の専門店であるようで、レジ付近には紅茶の茶葉が並べられていた。棚に並べられているのは、市販のティーパックや砂糖である。もう少し奥に設置された棚には、外国のお菓子が並んでいた。
     甘い匂いの正体は、紅茶の試飲コーナーのようだった。外から見えた女性の入れている紅茶が、華やかな香りを放っているのである。近づいていってポップを見ると、フルーツティーの実演販売と書かれていた。レジ横で販売されている茶葉を、このカウンターで淹れているらしい。
    「いらっしゃいませ。おひとついかがですか?」
     僕が近づいてきたことに気がつくと、女性はにこやかに笑みを浮かべた。いくつかの紙コップが乗せられたトレイを、僕の目の前に差し出してくる。わざわざ差し出されてしまったら、もう断ることなどできない。小さな声でお礼を言うと、紅茶のコップをつまみ上げた。
    「ありがとうございます」
     鼻を刺激する甘い匂いを感じながら、僕はコップを口へと運ぶ。舌をやけどしないか心配だったが、それはいい感じに冷めていた。お菓子のように甘い香りをしているのに、味は普通の紅茶である。甘さは感じなかったが、おいしい紅茶であることは間違いなかった。
    「今日の茶葉は、当店人気ナンバーワンのアップルティーなんですよ。当店ではたくさんのフレーバーティーを取り揃えているので、よかったら見ていってください」
     弾んだ声で説明を並べながら、女性は僕にチラシを差し出す。レジの横に並んでいる紅茶のフレーバーが、果物やお菓子の絵と共に書き連ねられていた。りんごや桃といった定番のものから、キャラメルやチョコレートまでと幅広い。その中に気になるものを見つけて、僕はチラシに視線を落とした。
    「ここには、ぶどうの紅茶があるんですね」
     そう、僕が紅茶の中に見つけたのは、ルチアーノの好物であるぶどうだった。普通のフレーバーティーでは見ないような、珍しい果物のラインナップである。僕の反応が嬉しかったのか、女性はにこやかに語り始めた。
    「そうなんですよ。そちらは、ぶどうのフルーツティーなんです。ふどうはお好きなんですか?」
    「僕はそこまででもないんですけど、恋人が好きで……」
    「そうなんですか! こちらはティーパックもありますから、プレゼントにもおすすめですよ」
     僕の言葉を拾い上げるように、女性は軽快なテンポで言葉を重ねる。彼女の営業トークに乗せられるような形で、ぶどうの紅茶を買ってしまった。ルチアーノは紅茶は好きではないと言っているが、たまにはこういうものもいいだろう。ラッピングされた包みを抱えながら、僕は家へと歩を進める。
     自宅へと辿り着いた時には、ルチアーノも帰ってきていた。通りから見えるリビングの窓から、室内の灯りが見えていたのである。廊下を通ってリビングへと向かうと、ソファに座るルチアーノの姿が見えた。背後から彼に歩み寄ると、ちらりと視線を向けてくれる。
    「やっと帰ったのか。今日は遅かったな」
    「ただいま。ちょっと、寄り道してて。ルチアーノにプレゼントを買ってたんだ」
     そう前置きをしてから、僕は手に持ってた包みを差し出す。面倒臭そうな顔をしながらも、彼はおとなしく受け取ってくれた。バリバリと雑に包みを破ると、中の袋を引っ張り出す。表に書かれている文字を見て、彼は眉を歪めた。
    「紅茶? 君は、僕の好みを忘れたのか?」
     彼が僕を非難するのも、何もおかしなことではなかった。僕たちはそれなりに付き合いが長いから、お互いの好物もよく知っている。でも、だからこそ僕は、ルチアーノにこの紅茶をプレゼントしたのだ。
    「そうじゃないよ。その紅茶は、フルーツの味がするフレーバーティーなんだ」
     僕がぶどうの絵を指し示すと、ルチアーノはまじまじと見つめる。小さく息をつくと、冷めた瞳でパッケージを眺めた。
    「ふーん。フレーバーティーか。まあ、少しは考えてるみたいだな」
     しばらく裏面を眺めると、ルチアーノは紅茶を横に置いた。元々好物ではないこともあって、あまり興味が沸かないのだろう。しかし、買ってきた本人の僕は、風味が気になって仕方なかった。
    「ねえ、今から、その紅茶を入れてみようよ。ぶどうのフレーバーティーなんて、どんな味がするのか分からないでしょ」
     弾んだ声で催促する僕を、ルチアーノは冷めた瞳で見つめる。雑にパッケージを差し出すと、やはり冷めた声で言った。
    「普通の紅茶だと思うけどな。……君が買ってきたものなんだから、好きにすればいいだろ」
     許しを得たのをいいことに、僕は紅茶のパックを手に取る。うきうきした気分で鍋を取り出すと、ティーポット一杯分のお湯を湧かした。食器棚からポットとカップを取り出すと、紅茶の袋からティーパックを取り出す。袋の口を開けた瞬間から、甘い匂いが漂ってきた。 
     鍋の中身が沸騰すると、ポットの中に注ぎ込む。熱湯の中で茶葉が揺れる度に、淡い茶色が滲み出してきた。蓋を閉じて数分待つと、中のティーパックを取り出す。右手にポット、左手にティーカップを手に取ると、テーブルの上まで運んだ。
    「紅茶が入ったよ。一緒に飲もう」
     僕に声をかけられて、ルチアーノはゆっくりと席を立つ。渋々といった様子を醸し出しながらも、僕の正面の席へと腰を下ろした。
    「ルチアーノの分だよ」
     目の前にカップを差し出すと、静かに持ち手に指をかける。沈黙を保ったまま、僕たちは紅茶に口をつけた。
     口内に流れ込む熱湯に、危うくやけどしそうになる。対するルチアーノは、平然とした顔で液体を口に運んでいた。漂う甘い香りとは裏腹に、紅茶には一切の甘味がない。カップから口を離すと、ルチアーノは顔をしかめた。
    「やっぱり、普通の紅茶だな」
    「ごめん。ルチアーノには苦かったよね。砂糖も一緒に買ってきたから、紅茶に入れよう」
     彼の反応を確かめてから、僕は鞄に手を伸ばす。中から取り出したのは、変わった形の角砂糖だった。黒糖や白砂糖で作られていて、猫の形に整えられている。ちらりと視線を向けると、ルチアーノは不満そうに呟いた。
    「子供扱いにするなよ」
    「子供扱いじゃないよ。これは、僕がほしくて買ったんだから」
     正面から言葉を返すと、僕は砂糖の袋を開ける。容器を傾けて中身を取り出すと、紅茶の中に放り込んだ。同じように中身を取り出すと、ルチアーノのティーカップに放り込む。液体の中に沈んだ猫たちは、徐々に形を失っていった。
    「すぐに溶けるのに、わざわざ動物の形にするのか。人間の考えることは奇妙だな」
     呟くルチアーノを横目に、僕はキッチンへとスプーンを取りに行った。底に溜まっている角砂糖を、ぐるぐるかき混ぜて拡散させる。再びカップに口をつけると、さっきよりも苦味が引いていた。
    「これなら、ルチアーノにも飲めるでしょ」
    「なんだよ。やっぱり子供扱いじゃないか」
     ぶつぶつと文句を言いながらも、ルチアーノはカップを口に運ぶ。片隅に口をつけると、そのまま一気に飲み干した。音を立てて戻されたカップには、溶け残った砂糖が沈んでいる。僕の方に視線を向けると、彼は自身ありげに鼻を鳴らした。
    「ほら、空にしたぞ。僕だって、紅茶くらい飲めるんだ」
     どうやら、僕の迂闊な行動が、彼の対抗意識を煽ってしまったようである。彼は自慢げな顔をしているが、僕には苦笑いを浮かべることしかできなかった。本来、ポットの紅茶というものは、こんなに一気に飲むものではないのだ。それも、この紅茶は、庶民からしたらちょっと値の張るものなのである。
    「紅茶は、一気飲みするようなものじゃないよ」
     小さな声で呟きながら、僕はカップを口に運ぶ。僕のプレゼント作戦は、失敗に終わってしまったのかもしれない。一緒にティータイムを楽しみたいという僕の夢は、儚くも壊れてしまったのだ。目の前の少年の難しさに、僕は小さく息を吐いた。
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