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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。ルチが人間に化物と呼ばれる姿を見て傷つくTF主くんの話。前置きが長いですが一番書きたかったシーンは最後のところです。

    ##TF主ルチ

    化物 旧サテライトエリアの郊外は、シティとは比べ物にならない程閑散としていた。かれこれ十分ほど歩いているが、人間の姿は一度も見かけない。見かけるとしたら、どこかから食料を奪ってきたカラスや、周辺に住み着いた小動物くらいだ。まあ、ここまで荒れるほどに放置されたシャッター商店街に、人間は用事など無いだろう。
     そんなゴーストタウンのような通りの中でも、ルチアーノは迷うことなく歩を進めた。真っ直ぐに前を睨み付けると、足音を響かせながら歩いていく。時折足を止めて周りを見るのは、人の気配が無いかを探しているからだ。しかし、どれだけ探索を続けても、目的の人物は見つからなかった。
    「ねえ、本当にこの辺なの? 怪しい組織どころか、人の気配すらしないけど」
     しばらく黙って付き従った後に、僕はおずおずと声を上げる。このまま何も言わずに歩いていたら、永遠に歩かされかねなかったのだ。別にそんなことで疲れたりはしないが、時間効率は悪いだろう。そう思って助言をしたのだが、ルチアーノは不満そうに振り向いた。
    「静かにしろよ。近くに、人間の気配があるんだ。君が余計な音を立てたら、やつらが逃げちまうだろ」
     あからさまに声を潜めると、鋭い声で言葉を発する。小さいが圧力を感じる物言いに、僕は慌てて口を抑えた。僕は何も感じないが、機械であるルチアーノには分かるのだろう。彼が嘘をつくとは思わないから、大人しくついていくことにする。
     それからさらに歩を進めると、不意にルチアーノが足を止めた。曲がり角に身を潜めると、こちらを振り返って手招きをする。足音を立てないように気を付けながら、小走りで彼の隣に向かった。曲がり角の先に視線を向けると、ルチアーノが声を潜めたまま言う。
    「見えるか? あそこだ」
     彼の隣に身を潜めると、僕も前方に視線を向けた。シャッターの並ぶ商店街の中に、一ヶ所だけ開けている建物があった。入り口には扉が取り付けられていて、妙に綺麗に整えられている。上手く言葉では説明できないが、そこには微かな違和感があった。
    「あの、シャッターの間の建物のこと?」
     僕が問いかけると、ルチアーノは深く頷いた。真っ直ぐに建物を睨み付けたまま、囁き声で説明する。
    「あの建物からは、人間の気配がするんだ。十中八九、今日のターゲットのアジトだろうな。やつらはあの建物に身を潜めて、狙う相手を決めてたんだよ。ここで待っていれば、すぐにアジトから出てくるはずだぜ」
     そう言うと、ルチアーノは首を引っ込める。僕だけが見ていても仕方ないから、同じように路地裏に身を潜めた。アスファルトの地面に腰を下ろすと、ターゲットが動き出すのを待つ。しかし、五分ほど待ってみても、彼らが出てくる気配はなかった。
    「ねえ、ルチアーノ。どうして、相手のアジトを狙わないの? いつものルチアーノだったら、乗り込んで倒しに行くでしょう。待ち伏せするなんてらしくないよ」
     地面に転がる小石をつつきながら、僕はルチアーノに話しかける。先も分からないこの状況で、ただ待っていることに飽きてしまったのだ。普段の彼であれば、僕と同じように飽きてしまうだろう。しかし、彼はちらりとこちらを見ただけで、すぐにアジトの監視に戻ってしまった。
    「乗り込んでもいいけど、複数人を相手にするのは面倒だろ。今日の任務は、カードを取り返すだけだからな。無駄に怪我人を増やしたりして、手間を増やしたくないんだよ」
     視線を建物に向けたまま、彼は淡々とそんなことを言う。やけに物騒な言い回しは、普段のルチアーノそのものだった。面倒臭そうな声色をしていたから、彼にとっても不本意な作戦なのかもしれない。任務と言うからには、組織の意向があるのだろう。
    「まあ、そう長くは待たせないぜ。やつらがこの時間に動き出すことは、これまでの調査で突き止めてるんだ。もう少ししたら、やつらの実行部隊とご対面だぜ」
     弾んだ声で言葉を並べると、彼はきひひと笑い声を漏らす。一応尾行のために身を隠しているから、息を潜めた笑い方だった。妙に色っぽい吐息を感じて、僕は彼に視線を向けてしまう。すぐに気を取り直すと、軽く頭を振って思考を振り払った。
     彼の予想は、やはり正しかった。それから五分も経たないうちに、アジトから人影が現れたのだ。重そうな扉が開かれると、二人の男が飛び出してくる。いかにも闇のカードを扱っていそうな、いかつい見た目をしていた。
    「出てきたな。後をつけるぞ」
     ルチアーノに促されて、僕は慌てて腰を上げる。路地裏から顔を出すと、男たちの様子を伺った。彼らは建物の扉を閉めると、僕たちとは反対側の路地裏に歩いていく。つけられているとは思ってもいないのか、周囲を警戒することもなかった。
    「行くぞ」
     二つの背中が見えなくなる前に、ルチアーノが路地へと歩を進める。足音を立てないように気を付けながら、僕も彼らの後に続いた。男たちは路地を右へ曲がると、シャッターの並ぶ通りを歩いていく。アジトの近くでことを起こすつもりは無いのか、ルチアーノも声をかけることはなかった。
     彼が行動を起こしたのは、商店街の出口に近づいた頃だった。アジトと大通りの中央という、最も人目の届かない場所で、ルチアーノは敵を仕留めることにしたのだ。周囲に気配が無いことを確かめると、彼は軽い足取りで前へと躍り出た。
    「ねえ、おじさんたち」
     ルチアーノの甲高い声が、男たちの背中に向かって飛んでいく。いかにも喧嘩を売るような、相手を逆撫でする言葉選びだった。先のことが心配になって、僕も駆け足で彼の隣に向かう。声をかけられた男たちが、ゆっくりとこちらを振り向いた。
     男の視線が、真っ直ぐに僕たちへと注がれる。怪訝そうな表情を浮かべると、隣に立つルチアーノを見下ろした。突然現れた僕たちに対して、怒りよりも不審が勝ったようである。上から下までを舐めるように眺めると、男の一人が呟いた。
    「なんだ、お前ら?」
    「ねえ、おじさん。僕とデュエルしようよ」
     男たちの言葉には答えずに、ルチアーノは言葉を繰り返す。さすがに腹が立ったのか、男が眉間に皺を寄せた。全身に嫌な予感がして、背中を冷や汗が流れていく。その予感は的中したようて、もう一人の男が低い声で言った。
    「何を言ってるんだ? ここは、お前らみたいなガキが来るところじゃねーぞ」
     語気に滲み出る威圧感に、僕は一歩後ろに下がる。ただでさえいかつい男たちなのに、正面から睨みつけられているのだ。真っ当な人間であれば、命の危機を感じるだろう。しかし、隣に立つルチアーノは、少しも怯んだ様子を見せなかった。
    「それはこっちの台詞だよ。お前たちは、闇のカードとやらを持ってるんだろ。そんな物騒なもの、お前らみたいな三流には釣り合わないぜ」
     にやにやと笑みを浮かべたまま、ルチアーノは言葉を続けていく。明らかに子供にしか見えない彼に煽られて、男たちは腹を立てたようだった。表情を歪めると、男の一人が顔を近づけてくる。
    「なんだと!?」
    「言葉の通りだよ。お前たちに、闇のカードを持つ資格は無いって言ってんだ。評価を覆したかったら、デュエルで僕に勝ってみな」
     至近距離で睨みつけられながらも、ルチアーノは淡々と言葉を続ける。そんなやり取りを聞きながら、僕は慌てることしかできなかった。ルチアーノの服を引っ張ると、彼の耳元で囁く。
    「ねえ、大丈夫なの?」
    「心配するなよ。奴らは闇のカードを持ってるだけで、実力は大したことないんだ。僕一人でも十分だぜ」
     心配する僕をよそに、ルチアーノは余裕な態度を見せる。そんな僕たちを見て、男の一人が声を上げた。
    「おい、何をこそこそ話してるんだ?」
    「何でもないよ。で、デュエルするのか?」
     僕を突き放すと、ルチアーノは男に向かい合う。ここまで凄まれているというのに、彼は少しも動じなかった。その様子が恐ろしいのか、男たちも暴力に訴えたりはしない。
    「当たり前だろ。お前みたいなガキなんか、一ターンでボコボコにしてやるぜ」
     威勢のいい声で会話を交わすと、男たちはデュエルディスクを構える。それに応じるように、ルチアーノも一歩前に出た。シャッターの並ぶ商店街の真ん中で、三人はディスクを構えて向かい合う。
    「ねえ、ルチアーノ」
     そんなルチアーノの背中に、僕は恐る恐る声をかける。ちらりとこちらに視線を向けると、彼は面倒臭そうに言った。
    「今度はなんだよ」
    「本当に、一人で大丈夫なの?」
    「大丈夫だって言ってるだろ。君は心配性だな」
     呆れたように呟くと、彼は男たちと向かい合う。しばらく睨みあった後に、彼らのデュエルが始まった。

     ルチアーノの言った通り、男たちの実力はいまいちだった。闇のカードを持っているというだけで、デュエルに関しては素人に毛が生えた程度なのだろう。二人がかりでモンスターを並べるが、ルチアーノが召喚するモンスターに簡単に倒されてしまう。攻撃の衝撃が周囲に伝わって、男たちの髪が揺れた。
    「どうしたんだよ。僕みたいな子供くらい、すぐにボコボコにできるんじゃなかったのか? このままだと、君の身体がボロボロになっちまうぜ?」
     にやにやと笑みを浮かべながら、ルチアーノは男たちに捲し立てる。煽るような物言いだったが、男は何も言い返せなかった。デュエルで受けたダメージの衝撃で、全身を痛めているのだろう。地面に膝をつきながらも、なんとかデュエルディスクを構えている。
    「お前……何者だ……?」
    「見ての通り、通りすがりの子供だよ。おじさんが悪いことをしてるって聞いたから、ちょっと懲らしめに来ただけだ」
     きひひと笑い声を漏らしながら、ルチアーノは軽口で問いかけをかわす。相手は闇のカードを持っているだけの一般人だから、正体を明かす気などないのだろう。圧倒的な力を見せつけながら、的確に相手を追い詰めていく。心なしか、相手に与えている衝撃さえも、いつもより強いように感じた。
    「僕の勝ちだな。約束通り、闇のカードを渡してもらうぜ」
     男たちを叩きのめすと、ルチアーノはそう言って彼らに詰め寄る。満身創痍の男たちは、おとなしく一枚のカードを差し出した。自分たちを見下ろす子供の姿を、怯えた様子て見上げている。彼がカードを受け取ると、男の一人が呟いた。
    「ば…………化物…………」
     這うようにルチアーノから離れると、男は一目散に逃げ出していく。もう一人の男も、ふらつきながら男の背中を追った。さすがに足は早いようで、すぐに曲がり角の奥に消えてしまう。彼らが去ったことを確認すると、ルチアーノは僕の方を振り向いた。
    「じゃあ、僕たちも帰るか。長居してると、奴らの仲間が来るかもしれないしな」
     僕は、何も言うことができないまま、そんなルチアーノの姿を眺めていた。

     家に帰ってからも、僕は思い出していた。
     男がルチアーノに対して告げた、去り際の言葉の意味である。
     あの時、あの男たちは、ルチアーノのことを化物と言った。恐ろしいものを見るような目で彼を見上げて、一目散に逃げ去って行った。ルチアーノはそんな男たちを見て、どのような表情をしていたのだろう。後ろにいた僕からは、何も窺い知ることができなかった。
     確かに、ルチアーノは恐ろしい男の子だ。人間を傷つけることが大好きで、いつも恐ろしい表情で笑っている。彼の操るデュエルだって、人間を傷つける闇のデュエルだ。でも、それは、ルチアーノの本当の姿ではないのだ。
     ベッドに横たわると、僕はルチアーノに手を伸ばした。僕よりも一回りは小さいその背中を、手のひらを広げて撫でていく。寝巻き越しに伝わってくる体温は、子供のように温かい。こうして背中を撫でていると、彼はただの子供にしか見えなかった。
     シーツの上を這うようにして、僕はルチアーノの側へとにじり寄る。真後ろまで近づくと、彼の身体を抱き締めた。子供特有のほのかな温もりが、僕の全身に伝わってくる。彼の小さな身体は、僕の腕の中にすっぽりと収まった。
    「なんだよ」
     不満そうに身体を揺らすと、ルチアーノは小さな声で言う。呆れと嫌悪が混ざったような、少しトゲのある声だった。突き放すような言葉だったが、僕は少しも怯まない。さらに強い力を込めて、ルチアーノの全身を抱き締める。
    「慰めようと思って」
     素直に答えると、ルチアーノは不満そうに鼻を鳴らした。ゆっくりと腕を持ち上げると、僕の手首を握り締める。
    「慰める? なんのことだよ」
    「お昼に、男たちに言われた言葉のことだよ」
     僕が答えると、ルチアーノは少しの間黙り込んだ。すぐにいつもの調子に戻ると、淡々とした声色で言う。
    「ああ、あれか。別に、僕は傷ついてないぞ。いつものことだからな」
     しかし、彼自身の口からそんな言葉を聞いても、僕には信じることができなかった。どんなに大人びた振る舞いを見せていても、ルチアーノの感性は年相応の子供なのだ。大人からひどい言葉をかけられて、傷つかないはずがない。気にしていない振りをしているか、傷を自覚しないほどに麻痺しているだけだ。
     とはいえ、僕には何も言えなかった。ルチアーノに傷を自覚させることは、彼を余計に傷つけることになるのだ。彼は痛みを忘れるために、自分の心を上書きしている。その塗装を剥がしてしまえば、彼の心は脆くなってしまうだろう。
     返事をする代わりに、僕は両腕に力を込めた。ルチアーノの小さな身体を、しっかりとした手付きで抱き締める。熱と熱が触れ合って、燃えるような熱を発する。首筋を汗が流れる気配がしたが、僕は手を緩めたりしなかった。
    「これは、僕のための慰めでもあるんだよ。僕も、あの人たちの言葉に傷ついたから」
     小さな声で呟くと、ルチアーノは僅かに顔を上げる。僕の頭の下で、長い髪がさらさらと揺れた。トリートメントのいい匂いが、微かに僕の鼻先を擽る。こうしていると、彼は余計に小さく感じられた。
    「どうして、君が傷つくんだよ。君は、何も言われてないだろ」
    「僕だって傷つくよ。ルチアーノは、僕の大切な恋人なんだから。世界で一番大切な人にひどいことを言われたら、誰だって嫌な気持ちになるでしょ」
     僕の言葉を聞くと、ルチアーノは呆れたようにため息をつく。機械である彼には、僕の気持ちなど分からないようだった。いや、僕の気持ちが分からないのではなくて、傷つくことに鈍感なだけなのかもしれない。どっちにしても、彼がいつもと変わらない態度でいることが、僕にとっては苦しかった。
    「君って、本当に変なやつだよな」
     ルチアーノの呆れ声が、僕の真下から聞こえてくる。呆れてはいるものの、機嫌を損ねたりはしていないようだった。両手の力を緩めると、そっと彼の身体から手を離す。乱雑に流れる髪の毛が、川のように僕の前に広がっていた。
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