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    流菜🍇🐥

    @runayuzunigou

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    TF主ルチ。ルチが未来の技術を駆使してTF主くんのストーカーを突き止める話。

    ##TF主ルチ

    ストーカー「ねえ、ルチアーノ。最近、変なこと企んでない?」
     ある夜、夕食を済ませてソファに腰かけると、その青年は不意にそう言った。僕の様子を窺うような、控えめで小さな声である。少し怪訝に思って、僕も探るように言葉を吐いた。
    「急にどうしたんだい? そんなこと言い出して、何か気になることでもあったのか?」
     こちらから問いを投げ掛けると、彼は困ったように口を閉じた。しばらく思案するように横を向いてから、誤魔化すように言葉を並べる。
    「何でもないよ。聞いてみただけだから、ルチアーノは気にしないで」
     何を隠したがっているのか、彼はそんなことを口にする。そこまであからさまに誤魔化されたら、僕の方が気になってきてしまった。正面から彼に視線を向けると、威圧するように言葉を吐く。
    「君は、僕に隠し事をしようとしてるんだな? 君が何を企んだところで、僕にはお見通しなんだぜ」
     凄むような言葉を並べると、彼は怯えた表情を見せた。僕の様子を窺うように、浮かせた視線を左右に揺らす。端から見たら脅しそのものだが、僕にはこうまでしても聞き出さないといけない理由があったのだ。この男は僕のタッグパートナーで、敵対組織に命を狙われているのだから。
    「別に、企んでるとかじゃないんだよ。気になってることだって、僕の気のせいかもしれないし」
     ここまで退路を塞いでいるのに、彼はまだ言葉を濁そうとする。苛立ちを感じて、僕は鋭い声で言った。
    「そういう問題じゃないんだよ! 君は僕のタッグパートナーで、敵に命を狙われる存在なんだ。もしもそれが敵対組織の仕業だったら、君は一人で対処できるのかよ?」
     はっきりと口に出したことで、ようやく彼にも意図が伝わったらしい。ハッとしたように目を見開くと、口ごもりながらも肯定する。
    「それは、そうだけど……」
    「だろ。分かったなら、とっとと白状しな」
     話の続きを急かすと、彼は観念したように姿勢を正した。大きく息を吸い込むと、覚悟を決めたように口を開く。
    「えっと、少し前から、近くに人の気配を感じることがあるんだ。誰かがいるっていう確信があるわけじゃなくて、視線を感じる、みたいな感じなんだけど……。それで、後ろを振り向いてみるんだけど、そこには誰もいないんだ」
     迷うように言葉を選びながら、彼はそんなことを語る。彼がそんな目に遭っていたなど、僕は全く知りもしなかった。彼の周囲はモニターで常に監視しているし、敵意のある人間が近づいてきたら、僕の元に通知が来るように設定してある。その人影が怪しいものだったら、とっくに僕が突き止めていたはずだ。
    「つまり、君は何者かに尾行されてるってことか。心当たりはないのかよ」
     僕が言うと、彼は静かに首を横に振る。彼がないと言うのなら、明確なきっかけとなる出来事はないのだろう。まあ、能天気なこの男のことだから、無自覚にトラブルの種を作っていてもおかしくはない。過去にも、彼の恋人になりたいという女を、僕は何度も追い返したのだ。
    「そうか。なら、調べてみる必要がありそうだな。しばらく、君の周りの監視を強化するか」
     僕が呟くと、彼は恥ずかしそうに身を捩った。頬を染めて下を向くと、掠れた声で言葉を紡ぐ。
    「本当にそこまでするの? ずっと見られてるのって、ちょっと恥ずかしいんだけど」
    「そうでもしないと、犯人が捕まえられないだろ。それに、君の監視だったら、僕はずっと前からやってるぜ」
     吐き捨てるように告げると、彼はさらに頬を染めた。見られていたことを自覚して、羞恥心が募っているらしい。しかし、僕からしたら、その反応は今さらだ。僕はモニターを通じて、ずっと彼の姿を見てきたのだから。
    「それって、どこまで見てたの? その、あんなこととか、そんなことまで……?」
     恥ずかしそうに問いを重ねる彼を、僕は横目で覗き見た。一体この男は、今さら何を言っているのだろうか。いちいち聞くのも面倒臭いから、話を切り上げることにする。
    「どんなことだよ。とにかく、明日からは監視するからな」
    「……分かったよ」
     強い口調で言いくるめると、僕はソファから立ち上がる。いつも通りであれば、そろそろ風呂が沸く時間なのだ。彼の語った内容も気になるが、それは明日確かめればいい。その時にならなければ、気配の正体は分からないのだから。

     翌日、彼が家を出るのを見届けてから、僕はモニターを起動した。光の粒子が宙に浮かび上がり、大きなスクリーンを作り上げていく。光が瞬いたかと思うと、そこには青年の姿が映し出された。いつも通りの外出着姿で、繁華街へと向かう通りを歩いている。
     その動きにぎこちなさを感じて、僕は微かに苦笑を浮かべた。僕から監視を宣言されたことで、変に緊張しているみたいである。視線は微かに左右に揺らいでいるし、歩き方も滑稽だ。それでも後ろを振り向かないのは、僕の言いつけを守っているからだろう。
    「いいか。今日から、僕が君の姿を監視する。怪しい人影を見つけたら向かうから、君は絶対に振り向くなよ」
     今朝、彼が家の外へと出る時に、僕はそう言い聞かせた。背後に何者かの気配を感じたら、並の人間なら振り返るだろう。しかし、あまり後ろを気にしすぎていたら、付けている犯人に気づかれるかもしれない。そうなってしまえば、僕の監視も水の泡だ。
     一つ目のモニターを眺めながら、僕はもうひとつモニターを起動する。一回り小さい画面に映し出されるのは、彼に持たせた位置情報特定装置の記録だった。これは彼の現在地と、半径数メートルに接近する人影を探知するものである。ここに接近者の情報が現れたら、モニターを確認するだけで良かった。
     僕に監視された状態のまま、青年は繁華街を歩いていく。それなりに知り合いも多いようで、すぐに声をかけられていた。しばらく会話を交わした後に、彼はデュエルディスクを起動する。いつものように、彼らの取るコミュニケーションと言えば、デュエル一択しかないようだった。
     数十分かけてデュエルを済ませると、彼は手を振って相手と別れた。デュエルディスクを片付けると、再び町の中に繰り出していく。デュエルによって監視に対する意識が薄れたのか、さっきよりも足取りは軽くなっていた。再び知り合いと遭遇したのか、またしてもデュエルを始めている。
     結局、三時間ほど様子を見てみても、彼を付けている犯人は現れなかった。人間と世間話を繰り広げる青年の姿を、モニター越しに永遠と見せられただけである。中には女や子供たちもいたから、変なことを吹き込まれないかと気が気ではなかった。何事もなく家に帰ってきたときは、安心して息をついたほどである。
    「ただいま。今日は、何もなかったみたいだね」
     家のリビングに足を踏み入れると、彼は開口一番にそう言った。僕の隣に歩み寄ると、ソファに腰をかける。モニターは既に閉じていたから、彼に僕たちの技術は見られていない。監視の結果についても、僕の口から聞かなければ分からないだろう。
    「そうだな。少なくとも今日一日は、何も怪しいところはなかったぜ。まあ、そう簡単にはいかないだろうから、気長に調査するしかないな」
     僕が答えると、彼は寂しそうに下を向いた。あからさまに声のトーンを落とすと、小さな声で言葉を重ねる。
    「そっか。早く手掛かりが見つかってほしいな。そうじゃないと、ルチアーノとお出かけできないから」
     恋愛惚けした言葉が飛んできて、僕は眉を歪めてしまう。全くこの男は、どうしてこんなにも恥ずかしいことを言えるのだろうか。妙な羞恥心が込み上げて、僕まで頬が熱くなってしまった。
    「変なことを言うなよ。恥ずかしいぜ」
    「だって、そうでしょう。僕は、一人よりもルチアーノとお出かけした方が楽しいんだから」
     僕の逃げ道を塞ぐように、彼はさらに言葉を重ねる。ここまで恥ずかしい言葉を並べられたら、僕は何も言えなくなってしまった。こんなにも僕を求めている相手が、浮気などするはずがないだろう。
    「そんなに僕と一緒に出掛けたいなら、おとなしく言うことを聞くんだね。犯人が捕まらないことには、どうすることもできないんたから」
     正面から言い返すと、彼は納得したように口を閉じる。まだ不満は残っているものの、状況は理解しているようだ。もごもごと口を動かしながらも、渋々肯定の言葉を語る。
    「分かったよ。お願いだから、できるだけ早く見つけてね」
     そんなこんなで、彼は翌日も外出することになった。もちろん、僕には役目があるから、彼一人での散策である。一人家に残った僕は、ソファに座ってモニターを起動させる。画面に映し出されるのは、彼とその周辺の映像だった。
     今日も今日とて、彼は繁華街をうろついていた。知り合いらしき人間に出会うと、世間話を交わしてデュエルを始める。毎日毎日同じことを繰り返して、よく飽きないものである。頭の隅でそんなことを考えたが、僕も人のことは言えないのだろう。
     数十分かけてデュエルを終えると、彼は相手と別れて歩き出した。彼の足が向かう先は、繁華街の隅にあるカードショップである。人通りの少ない路地という立地もあって、デュエリストにとっては穴場になっているらしい。僕も彼と共に町へと出かけた時に、何度か連れ込まれたことがあった。
     建物の角を曲がると、彼は路地へと足を踏み入れる。静まり返った通りの様子を眺めていると、モニターに赤い光が点った。彼の少し後ろに、怪しい人影が検知されている。急いでモニターを操作すると、位置情報が示す座標に合わせた。
     青年の背後をつけていたのは、学生服姿の女だった。電柱や建物の影に隠れるようにして、彼の数メートル後ろを歩いている。時折様子を窺う姿は、どう見ても不審者といった様子だ。素早く座標を特定すると、僕は女の背後にワープした。
    「ねえ、お姉さん」
     はっきりとした声で話しかけると、女はびくりと身を震わせた。いかにも驚いたという表情で、僕の方を振り返る。相手が子供だと知って安堵したのか、強気な態度で言葉を返した。
    「何よ。私に用でもあるの?」
    「それはこっちの台詞だよ。お姉さんは、あの人のことを付け回してたよね。一体何が目的なの?」
     僕が質問を返すと、女は苛立たしげに息をついた。あからさまに機嫌を損ねたようで、尖った声で言葉を重ねる。
    「人聞きの悪いことを言わないで。偶然あの人を見かけたから、声をかけるタイミングを探してたの。あんたこそ、あの人に何の用があるのよ」
    「彼に用があるわけじゃないよ。僕はお姉さんを探してたんだから。彼が言ってたんだ。最近、何者かに尾行されてるって」
     尾行を強調しながら言うと、女は明らかに表情を変えた。瞳に動揺の色を纏いながら、なんとか取り繕おうと言葉を重ねる。
    「そんなことしてないわ。私は、ただ彼のことを知りたかっただけなの。ただ、声をかけるタイミングを探ってただけなのよ」
    「君はそのつもりでも、彼は尾行されてると思ってたんだよ。それで、恋人である僕に相談してきたんだ。『自分はストーカーされていて、非常に迷惑だ』って」
     突きつけるように言い放つと、女は顔色を青く染めた。反論の言葉を失ったまま、静かにその場に座り込む。そんな彼女の上空に、僕は止めの言葉を告げた。
    「君のやってることは、僕たちにとっては迷惑なんだよ。分かったら、一生彼には近づかないことだね」
     呆然とする女の隣を通りすぎると、僕は青年の後を追う。彼は、店舗の階段を登ろうとしているところだった。後ろから声をかけると、くるりとこちらを振り返る。僕の姿を見て、驚いたように目を見開いた。
    「ルチアーノ? どうしてここに?」
    「君の問題が解決したから、教えに来てやったんだ。僕の方でこらしめておいたから、もう人の気配がすることはないと思うぜ」
     弾んだ声で言いながら、僕は青年の隣へと歩み寄る。彼の手を握ると、しっかりと手を握り返してくれた。僕に視線を向けると、様子を窺うように問いを重ねる。
    「そうなんだ、ありがとう。それで、相手はどんな人だったの?」
     想定内の質問に、僕は口角を上げてしまった。ストーカーを退けた今こそ、彼をからかう絶好のチャンスなのだ。わざとらしく笑みを浮かべると、僕は彼へと言葉を返す。
    「ただの一般人だったぜ。君のことが大好きで、後を追いかけてたらしいんだ。全く、モテ男ってのは大変だな」
    「そんなことないよ。きっと、人違いか何かだって」
     僕の問いから逃れるように、彼はぶんぶんと首を振った。慌てたような態度をしているのが、僕にとっては滑稽で仕方ない。それにしても、彼の後をつけていた女も、不憫と言えば不憫である。後を追うまでに想いを寄せた相手に、こんなにも簡単に流されてしまうのだから。
    「まあ、そんな話はどうでもいいだろ。君の望んだデートができるんだ。とっとと行くぞ」
     無理矢理話を切り上げると、僕は階段の上へと歩を進めた。下に取り残されていた青年も、僕の後を追うようについてくる。二人で肩を並べながら、僕たちはカードショップへと足を踏み入れる。下であの女が見ていると思うと、清々しい気分だった。
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