表情 治安維持局のビルを出ると、僕は大きく息をついた。意味もなく視線を上に向けると、高層ビルの並んだ町並みを眺める。ビルとビルの隙間から見える空は、爽やかな青色に染まっていた。しかし、そんな空模様とは裏腹に、僕の気持ちは重く沈んでいる。
周囲に聞こえないように舌打ちをすると、僕は大通りへと足を踏み出した。平日の午前のオフィス街は、行き交う人影もまばらにしか見えない。付近に用事のある人間たちは、今頃ビルの中で働いているのだろう。目的もなく周囲を歩き回っているのは、人間社会から外れた僕ぐらいだ。
とはいえ、こうして町を彷徨っている僕だって、何の目的もなく治安維持局を訪れたわけではない。今日は政府関係者の男と話をするために、わざわざこの地まで出向いていたのだ。相当な権力者だということで、特別に僕自身が向かったのである。しかし、会議が始まる直前になって、急に向こうが予定を取り消して来たのだ。
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