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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチのバレンタインネタです。ルチがTF主くんにチョコを渡す話。

    ##TF主ルチ
    ##季節もの

    バレンタイン ルチ 正月の喧騒が終わり、売れ残りの品が片付けられると、世間はバレンタインの季節を迎える。町には赤やピンクのポップが貼り出され、スーパーにはチョコレートが並ぶのだ。一月も後半を迎える頃には、ショッピングビルやデパートなどを中心に、チョコレートの販売イベントまで始まる。それは色恋へのアプローチという枠を超えて、人々のちょっとした贅沢へと変わりつつあるらしい。
     実を言うと、僕はこの季節が苦手だった。神の代行者として産み出された僕にとって、人間の色恋などどうでもいい事だったのだ。愛だの恋だの語ってはいるものの、結局はただの繁殖欲求である。そんな話を永遠と聞かせられたら、無関係な者は嫌にもなるだろう。
     しかし、僕がバレンタインを厭んでいるのは、それだけが理由ではなかった。この浮かれに浮かれた人類の催しは、僕にとっても無関係ではなくなったのである。仮にも人間と恋人関係になったからには、相手に贈り物をするべきだろう。特別な日の贈り物になるのだから、神の代行者としての威厳を保ったものにしなければならない。
     要するに、僕はイベントの贈り物を選ぶのが面倒だったのだ。毎年の贈り物となると、年を追うごとに印象は薄くなっていく。これまでは手作りの品を贈っていたが、今年も同じでは有り難みが薄いだろう。彼に僕の威厳を示すのなら、さらに上を行く品を用意しなければならないだろう。
     しばらく思考を巡らせた後に、僕はひとつの結論に辿り着いた。彼が喜びそうなプレゼントについて、ひとつだけ心当たりがあったのである。これなら彼も喜ぶだろうし、僕の威厳も保てるだろう。少なくとも、彼を失望させるような事態にはならないと思った。
     翌日、治安維持局へ向かうと、僕は協力者の男を呼び出した。偽りの姿で相手と向かい合うと、完結な言葉で用件を伝える。僕の発言が予想外だったのか。男は訝しむような表情を浮かべた。疑問符を隠しきれない表情を見せると、確かめるように言葉を繰り返す。
    「チョコレート、ですか」
    「そうだ。我々の取引相手の人間に、甘味が好物の男がいるらしい。奴との交渉を円滑に進めるためには、シティでのイベントを利用するのが一番だろう」
     相手の詮索を封じ込めるように、僕は淡々と言葉を並べた。もっともらしい理由をつけてはいるが、その内容は真っ赤な嘘である。チョコレートを好む取引相手がいるのは嘘ではないが、それは取引に使うものではない。その品物を口にするのは、僕の恋人に当たる男なのだから。
     男の後ろ姿を眺めると、僕は大きく息をついた。この協力者は優秀だから、必ず目的の品を持ってくるだろう。有名ブランドのチョコレートなんて、簡単には手に入らない珍しい品だ。青年の喜ぶ顔を想像して、僕は密かに笑みを浮かべた。

     それから半月ほどが経過すると、ついにバレンタイン当日がやってきた。高鳴る胸を押さえつけながら、僕は机の引き出しを開ける。奥の方にこっそりと詰められているのは、高級ブランドのロゴが入った紙袋だ。僕が協力者を使って手に入れた、あの青年への贈り物である。
     両手で紙袋を持ち上げると、時空の隙間へと放り込んだ。しっかりした素材で作られた紙袋が、淡い光の粒子に包まれていく。手早く用意を整えると、建物を降りて繁華街へと繰り出した。時空を越えれば一瞬なのだが、今日だけは歩いていきたかったのだ。
     冬の風に包まれた繁華街を、僕はゆっくりとした足取りで歩いていく。バレンタイン当日の街並みは、どこもカップルで溢れていた。人間の番を掻き分けるように歩道を進むと、人のまばらな住宅街へと進んでいく。数十分ほど歩き続けると、ようやく彼の家へと辿り着いた。
     玄関の鍵を開けると、靴を履いたまま室内へと入る。廊下を歩いてリビングに向かうと、ソファに座る青年の姿が見えた。僕の足音に気がつくと、少し驚いた様子でこちらを向く。
    「おかえり。玄関から来るなんて珍しいね」
     珍獣でも見るような視線に、思わず頬を膨らませた。僕が玄関から入って来ることは、そんなに珍しいものなのだろうか。釈然としない思いが生まれるが、イベントに免じて多目に見る事にする。
    「僕だって、玄関を使うこともあるさ。君は、僕のことを蛮族とでも思ってるのか?」
    「そんなことないよ。今日は、ワープを使わなかったんだなって思って」
     問い詰めるように言葉を告げると、彼は慌てた様子で言い返した。誤魔化すように僕から視線を逸らすと、間を持たせるようにテレビを見る。相変わらずではあるのだが、この男はいつも余計なことを言うのだ。一緒にいる年月が長くなったことで、僕の恐ろしさを忘れたのかもしれない。
     不満を飲み込みながらリビングを横切ると、僕は青年の隣に腰を下ろす。つけっぱなしのテレビから流れているのは、人気バラエティ番組の再放送だった。賑やかなバラエティが流れる空間は、おおよそプレゼントを渡すような雰囲気ではない。
     そのまましばらく待ってみたが、青年が行動を起こすことはなかった。ソファに腰をかけたまま、ぼんやりとテレビ画面を眺めている。試しに横から視線を送ってみるが、意図に気付く様子もなかった。待つことにも飽きてしまって、仕方なく僕から口を開く。
    「なあ、今日は、どこかに出掛けたりしないのかよ」
     僕の言葉に驚いたのか、彼はこちらに視線を向ける。その仕草を見て、僕は言葉選びの失敗を悟った。僕の方からそんな言葉を吐いたら、催促していることが筒抜けである。しかし、僕の心配とは裏腹に、彼は淡々とした態度で答えた。
    「今日は、家で過ごそうかなって思ってるんだ。外はすごく寒いみたいだし、行きたいところもないから」
    「そうかよ」
     彼が追及しなかったのをいいことに、僕は何気ない態度で答える。どちらも話を続けなかったから、この会話はここで終わってしまった。贈り物を贈るための取っ掛かりは、未だに掴めそうにない。仕方がないから、隣でテレビに付き合うことにした。
     面白くもないバラエティに視線を向けると、淡々と時が過ぎるのを待つ。二十分ほど座っていると、ようやく番組のエンディングが流れた。しかし、次の番組に切り替わっても、青年が行動を起こす気配はない。ここまで来たら、僕の方から声をかける以外に、きっかけを作ることはできないと思った。
     横目で青年の姿を捉えながら、僕は口を開くタイミングを探る。しかし、何度話を切り出そうとしても、上手く口が動いてくれなかった。何度も言葉を飲み込んでいるうちに、時間だけが過ぎていってしまう。それから十分ほど経ったところで、不意に彼が口を開いた。
    「ねえ、ルチアーノ」
    「なんだよ」
    「僕に、渡すものがあったりしない?」
     確信を突くような言葉を告げられて、僕は思わず頬を染める。本心が筒抜けになっていたことが、恥ずかしくて仕方なかったのだ。彼が見ても分かるということは、相当分りやすい態度を取っていたのだろう。無防備な姿を晒してしまったことに、余計に羞恥が込み上げてくる。
    「なんでそんなこと言い出すんだよ」
    「だって、さっきからそわそわしてたから」
     わざと反発するような言葉を告げたが、余計に追い討ちをかけられてしまう。ここまでお膳立てをされたら、大人しく渡すしかなかった。ワープ機能を起動すると、光の中から紙袋を引きずり出す。
    「分かったよ。…………ほら、これ」
     一度中身を確認してから、袋を彼の前へと突き出した。そこに印刷されているロゴを見て、彼が驚いたように目を見開く。それもそうだろう。今、彼の目の前にあるのは、有名ブランドのチョコレートなのだから。甘味が好物な彼にとっては、飛び上がるほどに嬉しい品物であるはずだ。
    「これって、イベント限定出店のお店のチョコだよね? わざわざ買ってきてくれたの?」
     恐る恐る紙袋を受け取りながら、彼は潜めるような声で言う。目の前にあるチョコレートの存在が、未だに信じられないようだった。恐る恐る中身を覗き込むと、大切そうに袋の口を閉じる。そんな彼の姿を眺めながら、僕は淡々と言葉を返した。
    「そうだよ。イリアステルの協力者を使って、君のために手配したんだ。気に入ってくれたか?」
    「そこまでしてくれたんだね。……ありがとう」
     両手で袋を抱き締めながら、彼は噛み締めるように呟く。すぐにその場から立ち上がると、チョコレートをしまいに冷蔵庫へと向かった。どうやら、僕のプレゼント作戦は、概ね上手く行ったようだ。満足感が胸を満たして、さっきまでの不満を打ち消していく。
    「でも、少し意外だったな。ルチアーノのことだから、今年も手作りチョコなのかと思ってた」
     再びソファへと戻ると、青年は不意にそんなことを言った。空気の読めないこの男は、またしても余計なことを言うようである。再び不満が込み上げてきて、ついつい声が尖ってしまった。
    「君は、僕が作ったチョコよりも、市販のチョコの方が嬉しいんだろ。わざわざ用意してやったんだから、喜んで受け取りなよ」
    「そうなんだけど、ちょっと意外だなって思って。ルチアーノは僕への愛を示すために、手作りのチョコを作ってると思ってたから」
     隣から飛んできた言葉を聞いて、今度は僕が動きを止める。彼がそんなことを考えていたなんて、少しも考えが及ばなかった。愛を示すためにチョコを作るなんて、行動が重すぎはしないだろうか。そんな偏見を持たれていたなんて、心外にもほどがあった。
    「そんなわけないだろ。全く、君はいつも変なことを言うよな」
     それでも、僕の口から零れた言葉は、僅かに震えを帯びてしまう。彼の言葉を否定することに、僕自身が疑問を感じていたのだ。僕は本当に、彼への愛を示すためにチョコを作っていたのかもしれない。自分の無意識を指摘されることが、少し恐ろしくも感じた。
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