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    流菜🍇🐥

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    流菜🍇🐥

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    破滅の未来を生きる人々の話その2です。過去に上げた『命』の話と対になってます。死に纏わる話なので苦手な方は注意してください。

    ##本編軸

    弔い 空の上を、巨大な機械が横切った。太陽の光が遮られ、地上に大きな影が落ちる。その影を追うように、モンスターを携えたDホイールが駆け抜けていった。
     機械が、地上のDホイールの姿を捉えた。光の光線を放ち、搭乗者を消し去ろうとする。Dホイールが華麗な動きで攻撃を躱すと、空振りした光線は衝撃を放ちながら大地に亀裂を走らせた。
     Dホイールを援護するように、別のDホイールが走り寄った。一台二台と数を増やし、機械を翻弄する。機械が縦横無尽に光線を放つと、Dホイールは全てを躱した。光は地面を抉り、朽ちた建物を真っ二つに切り裂いた。剥がれ落ちた塗装と壊れたコンクリートが、ボロボロと地面に零れ落ちる。
     青いDホイールが、隊列を抜けて前へと飛び出した。大地を縦横無尽に駆け回り、機械を翻弄する。機械が、青いDホイールに狙いを定めた。
     その隙を狙って、残されたDホイールの搭乗者が一斉にモンスターを操った。息の合った連携で繰り出される攻撃が、次々と機械に襲いかかる。攻撃は機械の手足へと当たり、その動きを一時的に封じた。
    「遊星!」
     搭乗者の一人が、中央に控えていた赤いDホイールに声をかける。それに答えるように、赤いDホイールが発進した。
     Dホイールの隣を、真っ白なドラゴンが並走する。真っ直ぐに敵を見据えると、主の指示を待った。
    「スターダスト・ミラージュ!」
     遊星が高らかに宣言する。ドラゴンが、巨体を身軽に翻しながらモンスターへと突進した。機械の身体とドラゴンの身体が、真正面からぶつかり合う。衝突音が響いて、土煙が舞い上がった。
     残されたDホイールたちが、Dホイールを飛ばして近寄った。少し離れた場所で機体を止めると、真剣な表情で遊星を見守る。しばらくすると、土煙の中から赤いDホイールが飛び出してきた。
     遊星は土煙の外に出ると、くるりと方向転換してDホイールを止めた。固唾を飲んで、煙が消え去るのを待つ。
     煙の中では、胴体の裂けた機械が転がっていた。ビリビリと電気をショートさせながら、手足を動かそうとする。しばらくその場で震えていたが、ぐったりと倒れ込むように動きを停止した。
    「これで最後か?」
     遊星の隣に駆け寄ると、青いDホイールの主が言った。
    「そのようだな」
     答えながら、遊星はヘルメットを外す。周囲を見渡すと、Dホイールの男たちに向かって宣言した。
    「もう大丈夫だ。敵の姿はない」
     リーダーの言葉を聞いて、張り詰めていた空気が一気にほどける。大きく息をつくと、男たちは思い思いに行動を始めた。Dホイールで遊星の元に駆け寄る者もいれば、ヘルメットを外して周囲を見渡す者もいる。
    「遊星、ジョニー!」
     男の一人が、遊星と青いDホイールの男に声をかけた。ヘルメットを外すと、嬉しそうに言葉を続ける。その素顔は、まだ年若い青年だった。
    「俺の戦いはどうだった?」
     弾んだ声が、真っ直ぐに二人へと向けられる。にこりと微笑んで、ジョニーと呼ばれた男が答えた。
    「ああ、素晴らしかったよ。よく練習したんだな」
    「力になりたくて、たくさん練習したんだ。俺、これからもたくさん戦うから、遠慮なく呼んでほしいんだ!」
     嬉しそうに語る青年を見て、遊星は一瞬だけ複雑そうな顔をした。すぐに微笑みに戻って、青年に話しかける。
    「ありがとう。その調子で頑張ってくれ」
    「遊星!」
     今度は、少し遠くから声が聞こえた。男の一人が、建物の調査をしていたのだ。瓦礫を広い集めると、Dホイールの荷台に積んでいく。
     遊星はDホイールを走らせると、男の元へと向かった。手にしたレンガを見せながら、男は嬉しそうに言う。
    「ここのレンガは、すごく綺麗に残ってるんだ。調べれば、いつまで人が住んでたかも分かるかもしれないよ」
    「そうだな。もしかしたら、俺たち以外にも生き残りがいたかもしれない」
     遊星は、レンガへと視線を向けた。彼の仲間には、成分分析に詳しい者もいる。彼らに預ければ、何か分かるかもしれなかった。
    「できる限り持って帰ろう」
     レンガを一つ持ち上げて、遊星は周囲を見渡した。仲間たちは、皆が一丸となって人々を救うことを考えている。拠点を守り、破滅の未来を回避する方法を探すことが、彼らの望みになっているのだ。
     人々の心がひとつになるのは良いことだ。しかし、そこまでしても結果がでないということに、悔しさを感じてしまう。
     遊星は唇を噛んだ。自分の無力さがふがいなかったのだ。下を向いて、険しくなる表情を隠した。
     その時だった。
     遠くから、耳障りな音が聞こえた。慌てて顔を上げ、音の原因を探す。そこにあるものを見て、カレラは目を疑った。
     壊れたはずの機械が、再び動き出していたのだ。ゆっくりと胴体を持ち上げると、両腕を構える。ゆっくりとした動きで、光線を吐き出した。
    「しまった!」
     叫んだのが誰だったのかさえ、今の彼らには分からなかった。ヘルメットを被ると、Dホイールに飛び乗り、モンスターを召喚する。アクセルをかけると、敵の元へと駆け出した。
     光線は、真っ直ぐに朽ちた建物へと向かっていった。重い音を立てて、ボロボロになった壁が崩れる。飛び散った破片の真下には、ヘルメットを外した男の姿があった。
    「危ない!」
     必死で駆け抜けるが、間に合わなかった。瓦礫は男を巻き込み、土埃を上げながら地面に山を作っていく。仲間の一人が、機械へと攻撃を仕掛けた。機械は何度か身体をびくつかせると、今度こそ完全に停止した。
    「大丈夫か!?」
     声を上げながら、遊星は土埃の中へと飛び込んでいく。ドラゴンを召喚すると、何度か宙を旋回させた。風が巻き起こり、土煙を吹き流していく。
     仲間たちが駆け寄ると、必死に男を救出した。モンスターを動かして瓦礫をどかし、埋まっていた身体を引き上げる。男は、頭から血を流していた。飛び散った欠片が直撃したらしい?服は汚れ、全身があざだらけだった。
    「一人は、傷の手当てをしてくれ。一人は、周囲の瓦礫の除去だ。もう一人は、ジョニーと救護用Dホイールの用意をしてほしい」
     遊星はてきぱきと指示を出した。率先して指揮を執り、男の救出を試みる。応急処置をして、ストレッチャー代わりの荷台を組み立てると、Dホイールにくくりつけた。
    「拠点まではそう遠くない。絶対に助けるぞ」
     遊星の言葉に、仲間たちは大きく頷いた。

     男の様子を見ると、医者は静かに目を伏せた。言葉は告げなかったが、その仕草だけで、何を伝えたいのかははっきりと分かった。
    「どうにか、助けられないだろうか」
     苦しそうに呼吸をする男を見て、遊星が尋ねた。医者は黙って首を横に振る。
    「ネオドミノシティの技術なら、回復の可能性はあるだろう。しかし、この町に残された機材では、そこまでの処置はできない」
    「そうか……」
     遊星は唇を噛む。目の前で命を終えようとする男の姿に、責任を感じていたのだ。自分がもっと周囲を警戒していれば、彼が命を落とすことはなかったのだから。
    「遊星」
     隣から、ジョニーが声をかける。諭すような、穏やかな声だった。遊星が顔を上げる。
    「君が責任を感じる必要はない。警戒を怠ったことが原因だとしたら、それはあの場にいた全員の責任だ。君一人が思い悩む必要はないんだ」
     その言葉が意味を持たないことを、ジョニーは知っていた。不動遊星という男は、誰よりも真っ直ぐで、責任感が強い。彼の心の闇の前では、どんな言葉も力を失ってしまうのだ。
    「すまない。心配をかけたな」
     しばらくすると、男は息を引き取った。医者が脈を測り、死亡を断定する。遺体に向かって手を合わせると、彼らは男に布を被せた。
    「これから、どうするんだ?」
     仲間の一人が、遊星に尋ねた。
    「俺とジョニーで、彼を町まで連れていく。最後まで、彼を送らなければ」
     レジスタンスの拠点から人々の暮らす生活区域までは、Dホイールで一時間ほどかかる。人々の暮らす町に機械の敵を近づけないように、わざと離れた場所に拠点を作っていたのだ。
     あの巨大な機械は、機皇帝と呼ばれている。存在の解明を試みたところ、デュエルモンスターズの精霊に近しいもので、モーメントの意思を代弁する存在であるらしいことが判明した。使役することも試みたが、まだ実現には至っていない。できるのは、攻撃を誘導し、人々の暮らす町から遠ざけることだけだ。
     拠点にあつめられた仲間たちは、機皇帝と対抗するための精鋭部隊である。レジスタンス所属の戦闘部隊の中でも、最も力を持つ選りすぐりの仲間たちだ。世界の破滅を防ぐために、自らの意思で前線へと志願してくれたのだ。
     町へと向かう道中で、遊星は命を落とした男のことを思い出していた。初めて顔を会わせた時、彼はわずか十五の少年だった。別のレジスタンスの生き残りとして、遊星率いるレジスタンスに合流したのだ。彼は誰よりも平和を望み、成人してからは、最前線へと出るようになった。遊星とっても、彼は信頼できる仲間だったのだ。
     町に着くと、子供たちが遊星を取り囲んだ。元気に声をかけようとして、荷台に乗った白い布に気づき、言葉を呑み込む。彼らにとっても、戦死者の帰還は日常茶飯事になっていたのだ。
    「すまない。道を開けてくれ」
     子供たちの間を抜け、遊星は男の家へと向かう。ジョニーが人々に声をかけ、彼らの進路を作った。
     家のドアを叩くと、男の妻が現れた。突然の英雄の訪問に、驚いた顔をする。背後に止められたDホイールをみて、小さく息を飲んだ。
    「いよいよ、その時が来たのですね」
     妻は言う。レジスタンスに暮らす女にとって、夫の死は珍しいことではない。彼が前線行きを志願したときから、覚悟はできていたようだった。
    「どうぞ、上がってください。あの人も、家に帰りたいでしょうから」
     妻は、遊星とジョニーを応接室へと招いた。飲み物と菓子を用意し、丁寧に迎え入れる。それは、この町でできる最上級のもてなしだったが、その場の誰も食欲など湧かなかった。
    「落ち着いて聞いてくれ」
     そう前置きしてから、遊星は戦場での出来事を語った。拠点での男の勇姿を伝え、守りきれなかった自身の落ち度を、丁寧な言葉で謝罪する。
    「すまなかった。俺の不注意で、守れたはずの命を失ってしまった。何度謝っても足りないだろう」
     そう言って、英雄は深々と頭を下げる。その姿に、妻は慌てたように答えた。
    「顔を上げてください。あなたには、何一つ落ち度などありません。命を失う危険を承知の上で、あの人は戦場に出たのです」
     妻は力強く言う。強い女性だと、遊星は感心した。どんなに厳しい環境でも、人々は強かに生きている。
    「弔いの儀式は、明日の夜に行おう。今夜一晩は、旦那さんと一緒に過ごしてくれ」
     そう告げると、二人はその場から立ち去った。英雄を見送ると、妻は静かに涙を流した。

     翌日は、雲ひとつ無い晴れ模様だった。男の家に向かいながら、遊星は空を見上げる。
     男の家には、町中の人々が集まっていた。レジスタンスに所属する全員が、仲間の旅立ちを見送りに来たのだ。皆が彼の勇姿を讃え、その死を惜しんでいる。あるものは涙を流し、あるものは静かに手を合わせ、あるものは無理矢理作り上げた笑顔で、男の遺体を覗き込んだ。
     別れの儀式は、淡々と行われた。弔いの儀式とは、死者のための儀式であり、残された者のための儀式だ。故人の人生を讃え、死後の幸福を祈ることで、残されたものの悲しみを癒すのである。
     儀式を終えると、いよいよ別れの時が来る。棺に花を納め、亡き人を送り出すのだ。男の妻が、花を抱えて前に出た。
     彼女は、小さな女の子の手を引いていた。たった一人の、夫婦の娘である。女の子は状況を理解できずに、首を傾げながら母親の後を付いていく。
     母親に抱き上げられ、棺を覗き込むと、女の子は首を傾げた。あどけない声で、動かなくなった父親に声をかける。
    「パパ? どうして寝てるの? 起きて」
     母親が、悲しそうに目を伏せた。村の人たちも、黙って目を伏せたり、涙を流している。
     ジョニーが、女の子の側へと歩み寄った。花を渡しながら、優しい声で話しかける。
    「パパは、これからゆっくり眠るんだ。お花のお布団をかけてあげようね」
     女の子は、父親の上に花を乗せた。母親が、その隣に花を置く。二人に続いて、村の人々が花を供えた。
     花を備え終わると、遊星は棺の前に歩み寄った。ボタンを押すと、機械的な音を立てて棺の蓋が閉じる。透明なガラスの窓が付いた機械的な棺は、遺体をコールドスリープする機能がついている。この棺に納めることで、死者を美しいままで弔うことができるのだ。
     遊星の先導で、室内から棺を運び出す。男たちは戦場に出ているため、若者たち総出で棺を運んだ。
     向かった先は、町の地下に作られた墓地だった。冷たい地の底へと、遊星は歩を進める。背後から、ジョニーと男の妻が静かな足音で従った。その後を、棺を持った若者たちが続く。
     墓地には、既にいくつかの棺が並んでいた。この町に移住してから、レジスタンスで命を落としたものたちの棺だった。彼らは、この地で永遠の眠りについているのだ。
     棺を運び込むと、遊星は手を合わせた。もうしばらくしたら、彼らはこの町を出て、新しい土地へと移るだろう。限りある資源を分け合い、生き残りを探すためには、ひとつの町に永住することはできない。何度も拠点を変えながら、彼らは未来へと進んでいくのだ。
    「必ず、迎えに来るからな」
     目を覚まさなくなった仲間に向けて、遊星は言う。その言葉には、深い決意が込められていた。
     ある人は、人は死んだら無になるのだと言った。しかし、遊星はそうは思わない。人が死んだ時には、生前の繋がりが残るのだ。それは複雑に絡み合い、顔を合わせたことのないような遠い相手にまで影響を与えることがある。死とは、必ずしも無ではないのだ。
     人が死んだときに残されたものこそが、その人の人生を物語るのだと、遊星は思う。妻の涙も、子供のあどけない姿も、すべてが彼の人生なのだ。この人生を美しいまま守るために、遊星はこれからも戦うのだ。
     棺に背を向けると、彼らは地上へと歩き出した。悲しむのは今日だけだ。明日からは、また戦いが始まる。世界を救うための終わりの無い戦いが、まだ彼らを待っているのだ。
     最後に、遊星は一度だけ背後を振り向いた。規則正しく並んだ棺の姿が、視界いっぱいに広がる。彼らの一人一人が背負った人生を、遊星ははっきりと覚えていた。
     男の人生は、何よりも美しかった。遊星は、心の底から彼を讃えた。
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